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「"森林環境税"導入をどう考える」(視点・論点)

関西学院大学 教授 小西砂千夫

税制改正の季節を迎えました。与党の税制調査会は、平成30年度税制改正に向けての議論を本格化させています。
 今年の税制改正の焦点の1つが、森林環境税(仮称)の導入です。森林吸収源対策とは、森林などによって温室効果ガスを吸収する作用を守るための対策のことですが、こうした対策を講じることを目的に、地方自治体が行う地球温暖化対策のための財源、として構想されてきたものです。
平成24年に成立した税制抜本改革法は、消費税率を引き上げて社会保障財源とすることが柱ですが、実は、その第7条には、森林吸収源対策と地方自治体が取組む地球温暖化対策に関する財源確保の検討、があがっています。それ以降も森林環境税の検討は続けられ、昨年12月の平成29年度与党税制改正大綱では、森林環境税の創設のための具体的な検討を行って、平成30年度税制改正において結論を得ると明記されました。
 わが国は、平成27年に国連気候変動枠組条約事務局に対して、温室効果ガス排出量を、2030年度には、2013年度に比較して、26%削減する約束草案を提出しています。このような地球温暖化問題への国際的枠組みへの取組みを進めるために、税制を通じた環境対策を進める機運が生まれました。法人が負担する税については、すでに、地球温暖化対策のための税として、石油石炭税の上乗せ措置を講じています。それに対して、森林環境税は、個人に負担を求める税として構想されてきました。
 森林環境税の具体的な仕組みや使い道に触れる前に、わが国の森林が荒廃していることで、温室効果ガス効果が十分に発揮されない事情について見ていきましょう。

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わが国は森林大国です。国土の3分の2が、森林で占められています。そして、その4割が杉や檜を植林した人工林です。自然林ならば、森は自然に再生していきますが、人工林の場合には、植林をして伐採するまでの間に、間伐や枝打ちをしたり、下草刈りをしたりするなど、持続的に手を入れていかなければなりません。それらを怠ると、木が十分に育たずに木材としての価値がなくなるばかりか、根が十分に張らない細い木にしか育たず、簡単に折れて大雨で流されたり、山が水を蓄える保水力が失われたりします。その結果、大雨によって山崩れや水害を引き起こす原因となります。森林には、災害を防ぐ国土保全機能や、水資源を確保する水源涵養機能、温室効果防止につながる二酸化炭素の吸収・固定機能があります。しかし、それらが十分に発揮される条件が、森林がよい状態で保全されていることです。手入れの行き届かない人工林が増えると、山が荒れた状態になって、災害の原因となってしまいます。
最近、梅雨から夏の時期を中心に、集中豪雨による大災害が続発しています。

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今年7月には、九州北部豪雨で大きな被害が発生しました。その際、とりわけ注目されたのが、大量の流木が山から押し出されて、橋脚にからまって川をせき止め、建物をなぎ倒したことで、被害が拡大したことです。あれほど大量の雨が一度に降ると、森林が荒廃していなくても山崩れは避けられませんが、森林の手入れが行き届いていなければ、被害はさらに大きかったと見られています。
 植林をした人口林のうち、その8割ほどが民有林です。全国で800万ヘクタールあります。かつて、国を挙げて植林を進めて、木材資源の育成をめざしたじきがありました。中山間地域に行くと、急峻な山の斜面に、針葉樹の林が、谷から頂上まで広がっているのが見られます。植林開始後、数十年が経過して、いまや多くが伐採の時期を迎えています。ところが、木材の輸入自由化が進められたことで木材価格が低迷し、国産材は伐採しても採算が合いにくい事態に陥っています。その結果、山の手入れを怠る森林の所有者が増えてしまいました。その状態を放置しておくと、災害の危険が増すばかりです。なんとか対策を講じなければなりません。
 民有林のうち人工林は、林業として保有されているものですので、所有者が進んで森林整備をするはずです。しかし、面積でおよそ3分の1は、急傾斜であるか、林地生産力の低い森林であって、放置された状態にあるとされています。そこで、森林法を改正して、森林現場や所有者に身近な存在である市町村が主体となって、民有林の整備を所有者に働きかけるとともに、不採算などの理由で自発的な取組みが見込めない森林については、市町村が管理を請け負って、間伐等を実施することを予定しています。これまで、林業関係の行政は都道府県が中心でしたが、法律を改正して、市町村に新たな役割を定めることで対策に乗り出すことにしています。
 そのための財源として浮上したのが森林環境税です。森林整備で期待される効果は、防災や水源涵養、地球環境改善などですので、その便益は、広く一般国民に及びます。一方、森林整備の役割を担う市町村は、もっぱら中山間地などの一部の地域に偏ります。そこで、森林環境税は、広く一般国民に負担してもらうために個人住民税の均等割の上乗せのかたちを採ります。また、それを国税として徴収して、地方譲与税として、森林整備のニーズの大きな地方自治体に重点的に再配分することとしています。これまでにはなかった、新しい税の徴収と配分の仕組みです
 中山間地の市町村のなかには、従来から森林整備に積極的なところもありますが、それは一部です。市町村に、民有林で採算のとれない森林の整備を、積極的に行うよう求めても、多くの市町村では、知識やノウハウを持った職員が揃えられず、対応に困ってしまいます。そこで、市町村に、民有林整備という新たな役割を無理なく担ってもらうには、都道府県が協力や助言をしたり、あるいは一部肩代わりをしたりすることが考えられます。そのため、新しい税の財源の一部は都道府県にも配分して、市町村支援が確実に行われるように配慮することも考えられています。
 かつて、中山間地に経済的な潤いをもたらそうと実施した、大規模な植林によってできた森林が、いまやお荷物となって、環境保全のために国民に新たに税負担まで求めていることは、何とも皮肉なことです。しかし、これまでのように森林の所有者にすべての責任を押しつけることは現実的ではありませんし、荒廃した山林をいつまでも放置するわけにはいきません。森林環境税を創設することは、市町村に森林整備を責任を持って進めるように、強く働きかけることになります。
 森林環境税は新たな税です。たとえ必要であることは理解されたとしても、本当のところ、誰しも、負担する税金は少ない方がいいに決まっています。個人住民税の均等割は、収入に関係なく一定額を負担する税ですので、低所得者にとっては負担が重いという問題もあります。新税に、すべての国民が手放しで賛成するとも考えられません。しかし、地球温暖化のための国際公約実現の重要性を十分考慮したうえで、政府・与党には、平成30年度税制改正で、新税創設に向けて議論を尽くしていただきたいものです。

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