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「太陽の脅威とスーパーフレア」(視点・論点)

京都大学 教授 柴田 一成

ことし9月6日に、太陽で11年ぶりの大フレアが発生して、大きなニュースとなりました。今回は幸い大きな被害はありませんでしたが、大フレアが地球を直撃すると、最悪の場合、どんな災害が起きるのでしょうか? 先日の大フレアより、もっと大きなフレアが起きて地球で大災害が起きる心配はないでしょうか?きょうはそういうお話をしたいと思います。

フレアとは太陽面で発生する爆発現象のことです。近年の観測の発展により、太陽は爆発だらけであることが判明しました。

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こちらに我が国の「ようこう」衛星がとらえた太陽コロナのX線映像を示します。太陽は我々にとって危険な放射線であるX線を大量に放出しています。幸い我々は地球の厚い大気で守られているので、太陽のX線を被ばくすることはありません。しかし宇宙飛行士は大気の外にいるので、常にX線被ばくの恐れがあります。

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フレアが起こると強いX線が放射されるだけでなく、大量の放射線粒子や高速プラズマ流が噴出します。これらが地球に到達すると、人工衛星が故障したり、磁気圏が影響を受けて磁気嵐が起こり、地上で停電や通信障害が起きたりします。
磁気嵐が起きると、アラスカや北欧の夜空には、美しいオーロラが発生します。このとき、オーロラが光る超高層大気中には大電流が流れ、これが地上の電線に大電流を引き起こし、変電所の変圧器をこわしたりします。そのために電気が送れなくなって町全体が停電になったりするのです。1989年3月に起きた大フレアにともなう磁気嵐は巨大なもので、カナダのケベック州で大停電を引き起こしました。このとき600万人が9時間、電気が使えない状態になったといいます。カナダ・米国の被害額は少なく見積もっても、総額数百億円に達したそうです。史上最大と言われる1859年のフレアが地球を直撃したら、200兆円の被害となるだろうという推算もあります。
現代文明が発展すればするほど、太陽フレアの影響に対して、文明社会はぜい弱になりつつあります。被害を最小限にするためには、太陽フレアや磁気嵐を事前に予測することが必要です。宇宙飛行士の放射線被ばく事故だけは絶対防がなければなりません。このような予測のことを宇宙天気予報と呼んでおり、現在、全世界の緊急の課題となっています。
スーパーフレアとは、現在太陽で観測されている最大級のフレアの10倍以上のエネルギーを放出する超巨大フレアのことをいいます。そんなスーパーフレアが、太陽で起きる可能性はあるのでしょうか?
そもそも、太陽フレアはどれくらいの頻度で発生しているのでしょうか? 調べると、フレアのエネルギーが10倍になると、発生頻度が大体10分の1になることがわかりました。興味深いことに、この法則は、地震の発生頻度に関する統計と似ています。
宇宙飛行士が船外活動しているときに、10年に1回の大フレアが起きたら、4シーベルトの放射線を浴びる可能性があるといわれます。これは致死量の放射線です。もし、太陽フレアの統計がずっと大きなスーパーフレアまで成り立っているならば、最大のフレアの1万倍程度のスーパーフレアは1万年~10万年に1回の頻度で起きることが予想されます。このようなスーパーフレアが起きたら、地上でも無視できない量の放射線がやってくるかもしれません。これはこわい話です。ただし、太陽は誕生以来46億年も経っていて、活動はかなり弱くなっているので、スーパーフレアが起こることはないだろう、と思われていました。これが天文学界の常識でした。
しかし、私はこの常識を疑いました。京都大学の学生諸君の助けを借りて、太陽と良く似た8万個の太陽型星の明るさの変化を詳しく調べました。幸いなことに、太陽系外惑星探査が目的のケプラー宇宙望遠鏡によって観測された8万個の太陽型星の公開データがあったのです。このデータを詳しく調べたところ、驚くべきことに、148の星で365回のスーパーフレアが見つかりました。2012年のことでした。詳しく調べると、スーパーフレアの発生頻度の統計は太陽フレアの統計と良く似ており、最大級の太陽フレアの100倍~1000倍のスーパーフレアは、800年~5000年に一回の頻度で発生することがわかりました。この発見の論文は、2012年のネイチャー誌に掲載されました。
さて、スーパーフレアが太陽と良く似た星で見つかったということは、スーパーフレアが太陽でも起きるかもしれない、ということを意味します。1000倍程度のスーパーフレアでは地上で放射線被ばく死する心配はありませんが、航空機に乗っていると深刻な放射線障害を起こす放射線量を浴びる可能性がありますし、全地球規模の停電や通信障害、ITシステムの崩壊が起こるかもしれません。文明にとっては大災害となるでしょう。図にスーパーフレアの想像図を示します。

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上述したように、太陽型星で発見されたスーパーフレアは、最大の太陽フレアの100倍~1000倍であり、頻度は数千年に一回です。数千年に一回のスーパーフレアは、現代文明には大災害をもたらしますが、過去には人工衛星や航空機、電気文明はなかったので、記録に残るほどの災害や歴史的事件は起きなかったと考えられます。
今後、太陽で数千年に一回のスーパーフレアが起きて地球を直撃したら、未曾有の大災害となると思います。この頻度は、2011年の東日本大震災の大地震の頻度、それは1000年に1回と言われていますが、それと同程度ですから、遠い未来の話と思って油断してはなりません。全地球の電力インフラや通信網が破壊され、電気や通信が使えない状態が数か月、いや1年も続いたら、どんなに大変な事態になるでしょうか?
ここで少し補足しておきますが、太陽でスーパーフレアが起きることが確立されたわけではありません。太陽でスーパーフレアが今後起きるのかどうかについて、今、世界の天文学界では大論争になっています。私たち京都大学のグループは、太陽でスーパーフレアが起きないとは言えない、ということを明らかにした段階です。だからこそ、我々は太陽や太陽型星を詳しく調べることにより、太陽で本当にスーパーフレアが起きるのか、さらには、スーパーフレアのしくみや前兆を解明し、未来の大災害に備えなければなりません。すでに我々は、放射線だらけの危険きわまりない宇宙空間に宇宙飛行士を送り込んでいます。彼らの生命を守り、一般市民が安心して宇宙に進出できるようにするためにも、太陽や恒星の研究は不可欠です。
日本はオーロラが見えない国なので、フレアや磁気嵐による被害がこれまで、ほとんどありませんでした。そのため、欧米に比べると太陽フレアに対する対策が全く遅れています。また、太陽や宇宙・地球に関する基礎教育が不十分です。太陽や宇宙・地球に関する基礎科学を研究している大学の研究室も欧米や中国に比べるとずっと少ないです。その結果、太陽や宇宙・地球を正しく理解している学校教員もきわめて少ない状態です。
人類の未来社会を守り、宇宙開発を安全に進めるためにも、太陽と宇宙・地球に関する基礎研究と人材育成を奨励し、太陽フレア対策を緊急に推進することを提言したいと思います。

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