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「衆議院選挙の焦点」(視点・論点)

東京大学名誉 教授 佐々木毅

今度の衆議院の解散は、総理による野党勢力に対する一種の奇襲のように見えました。そして、それに対して野党の側からも奇襲反撃とでも言うべき現象が起こりました。この間、これを巡って多くのニュースが流され、我々有権者は目が回るような形でこの間の動きを見守ってきたところであります。その結果として小池東京都知事を代表とする希望の党、それから枝野議員を代表とする立憲民主党という新しい2つの政党が誕生いたしました。そのような中ですっかり選挙の舞台に上がる人達の動きに我々有権者は、ある意味で振り回されてきたのでありますけれども、公示を迎えまして、これからは我々有権者がじっくりこれらの方々の政策やその他、これまでの実績についてじっくり判断すべき時期にまいりました。そこで、ここでは衆議院選挙の焦点という形でいくつかのポイントに絞って少し整理を試みたいと思っております。

まずは、やはりこの選挙の一番重要な争点は、この間、5年近くにわたって政権を担当してきた安倍政権というものに対してどういう評価を下すかということが、出発点であると私は思っております。色んな評価の仕方はあろうかと思いますけども、今度の解散なども含めて、政局運営全体についてどのように評価をするのか、これからさらに続けてもらいたいのかどうなのか、その辺のことについて有権者がまず判断を下すことが出発点だろうと思います。もちろん自公政権と安倍政権というのは、なかなか言葉の上で紛らわしいところがあるんですけども、色んなタイプの自公政権が仮にあるとすれば、安倍政権はその中の1つであったという整理もできないわけではありません。その意味で安倍政権の評価をどうするかということがまず避けて通れない有権者の問題だろうと、課題だろうという風に思っております。その上で今回、希望の党という非自民・非共産の政党が誕生しました。それから立憲民主党という新しい政党も誕生しました。色んな見方がありますけれども、自公とそれから希望と立憲民主という3つのグループに政党が整理されたという言い方は、しばしばされるところでありますが、仮にそうだとすれば、それに沿って、ご自分のチョイス、選択の対象はどれなのかということについて見極めることが、これから選挙期間において有権者の課題となるわけであります。
色々なことが言われております。手がかりとなるのは政策でありますが、何しろ新党が誕生したということで新しい政策も出てきますし、それから新党には、あまり時間がないという意味で、公示を迎えてようやく政策が出てくるということもあり得たわけであります。そういう意味で、これまでは政治家達の動きに目をとられてきたわけでありますけれども、これからようやく政策を見ながら投票日にどうするのかということを決断しなければなりません。
私は、今度の選挙は有権者にとっても、今までなかった色々な課題を突きつける選挙だと思っておりますので、あんまり慌てないで、じっくりとそれらの提示されたメニューを噛んで、味わいを噛んで、そしてその本当の味を噛み締めてもらいたいという風に思っております。
特に今度の選挙で新しく登場してきたのがやはり憲法問題だろうと思います。これについても政党間で色んな議論があります。例えば自民党と希望の党は同じようなことを言っていると見る人もいるけれども、やはり大きな違いがあるという理解も可能であります。さらにその言っている内容が抽象的でわからないということもあろうかと思います。そうすると、これをハッキリさせてもらうためには政党間での議論というものがこれから行われますので、それを見ながら、一体どのへんにその意図があるのかということを確かめる必要も当然出てまいるわけであります。特に憲法問題は、これからの日本の政治にとって重要な課題でありますので、国民のほうも今までだと例えば9条の話は散々聞かされてきましたけれども、他の色んなテーマもあり得るわけでありますので、ここは1つゆっくりと憲法も見ながら勉強するという必要もあろうかと思っております。
それからもちろん憲法だけではありません。もろもろの政策、経済政策、社会保障制度をどうするかというような重要な問題が前に控えております。そして少子高齢化問題の非常に厳しい局面が目の前に迫っているということを考えてみますと、これらの問題を軽く済ますわけには当然いかないと思います。
そういう政策はどうなのかということについても、ぜひとも確かめたいところであります。消費税の問題ももちろん提起されておりますし、他にも色んな問題が提起され得ると思います。そして、それらは今の日本の財政状態や将来の世代の負担というものを考える時に、どういう風に頭を整理したらいいのかということが有権者にとっての大きな試験問題であります。
私の感じでは、日本の政治は未だになお目の前のことに多くのエネルギーを費やしておりまして、これから来るであろう少子高齢化の厳しい局面を踏まえた予防的な政策というものについて、あまりにも語るところが少ないという感想を持っております。その意味では将来のことを語るメッセージを持っている政党、メッセージを持っている政治家というものが、どのような形でどこにいるのかということをぜひ追求してもらいたいという風に思います。
この1年半ぐらい各国の政治は先進国を含めて大いに予測不可能な変動に見舞われております。日本は、そういう中でどれだけ違うのか、どこが違うのかというようなことも、我々、そろそろ考えなければいけない時期に来ているんだろうという風に思います。そして諸外国で起こっていることと同じことが日本でも直ちに起こるというわけではないかもしれませんけれども、ある種、共通のテーマというものが潜んでいる可能性は充分あると思います。その意味で諸外国のニュースなどを耳にしながら日本の政治というものを少し突き放してみて、日本の政治家がやっていることは何なのかということについて厳しい視線を走らせるということも私は大変大事じゃないかという風に思います。
今度の衆議院選挙がそういう機会になりますことを有権者の皆様に期待をしているところであります。

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