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「アメリカ銃社会の起源と現在」(視点・論点)

成蹊大学 教授 西山隆行

10月1日にネバダ州ラスベガスで起こった銃乱射事件は、59名もの人が死亡するアメリカ史上最悪のものとなりました。この事件を機に、アメリカでは銃規制の在り方をめぐって様々な議論が展開されています。
今日、アメリカ国内には3億丁を超える銃が存在し、2010年には銃に関連する理由で3万1672人が死亡しています。同年に銃に起因する事故に対応するための医療費に投入された税金は、5億1600万ドルと見積もられています。
もちろん、アメリカでも銃規制強化を求める声が弱いわけではありません。例えば、2017年の調査では、世論の89%が精神障害者の銃器購入を規制するべきだと回答しています。また、84%が銃の個人間売買に際し、購入者の身元調査を行うべきだと回答しています。大半のアメリカ人は穏健な規制には賛成しているのです。

これだけ多くの被害が発生し、世論も銃規制強化を求めているにもかかわらず、アメリカでは、何故銃器に対して実質的な規制をかけることができないのでしょうか。本日は、アメリカ建国の理念と反政府の伝統、都市と農村の違い、そして、銃規制反対派の政治力という三点に注目してお話をさせていただきます。

まず、アメリカの銃規制を困難にしているものとして、合衆国憲法修正第二条の存在が指摘されています。

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「規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であるから、人民が武器を所有しまた携帯する権利は侵してはならない」という規定です。
この規定が民兵に言及しているのは、今となっては時代錯誤だと思う方もおられるかもしれません。しかし、伝統的に、民兵の経験は自律した成人になるうえで重要なものとされ、民兵としての自覚を持つ人々は圧政から共同体を守り、共通善を維持・発展させることができると考えられていました。
アメリカは、絶対王政期のヨーロッパの君主政治を否定し、自由や民主主義を統治の基本原則に掲げる国です。政府が圧政を布くことを防止するために市民が能動的に活動することが必要だという発想は強く、民兵と銃は圧政への抵抗を象徴するものと考えられているのです。
先程、アメリカでは穏健な銃規制に対する支持があるといいましたが、実は世論も複雑な傾向を示しています。先ほどとは別の調査では、アメリカ国民に銃購入希望者の身元調査をすべきかと問うと83%がすべきだと回答しているのですが、同じ調査で、連邦議会上院がそのような法律を通すべきかと問うと支持率が20%も下がってしまうのです。これは、アメリカ国民の連邦政府に対する警戒感の表れであり、これが銃規制が進まない背景の一つとなっているのです。

二つ目に、アメリカの銃規制をめぐる政治を複雑にしている要因として、都市と農村の対立の問題があります。
アメリカの銃犯罪は、人口の多い都市部で頻繁に発生しています。そのため、アメリカの都市部では銃規制を求める声が強くなっています。
それに対し、農村地帯では、銃規制に反対する声が強くなっています。農村地帯は人口密度も低く、隣の家を訪れるのに車で10分以上かかるようなところも多くなっています。犯罪に巻き込まれた場合、都市部であれば通報すれば比較的早く警察が来てくれますが、そのような地域の場合は警察が到着するまでに相当な時間を要します。農村地帯で、自衛のために銃が必要だという意識が強くなるのは、当然かもしれません。
都市と農村をめぐる問題は、犯罪データを分析する上でも複雑な問題を発生させています。銃規制派は、多くの銃が存在する州では銃に起因する死亡事件が頻繁に発生していることを根拠に銃規制強化を主張します。しかし、地区レベルに注目すると、一人当たりの銃所持率の高い地域は所持率の低い地域と比べて銃犯罪の発生率は低くなっています。この現象は、犯罪率の低い農村地帯では、多くの人が狩猟用も含めて銃を持っているのに対して、犯罪率の高い都市部では銃を持っていない人が多いことによって生じているといえます。
都市と農村の相違は、都市を基盤とする民主党、農村を基盤とする共和党の対立とも相まって、銃規制をめぐる政治過程を複雑にしています。

三つ目に、銃規制反対派が大きな政治力を持っているのに対し、推進派の政治力が弱いことを指摘することができます。
銃規制に反対する団体として最も影響力があるのが、全米ライフル協会(NRA)です。NRAは、個人の銃所有の権利を擁護する団体で、「人を殺すのは人であって銃ではない」というスローガンを掲げています。今日では、公称500万人という膨大な量の会員と圧倒的な資金力を背景に活動し、しばしば全米最強のロビー集団の一つと評されています。
NRAが大きな影響力を行使できる背景には、その政策上の立場が強硬ながらも現実主義的だということがあります。NRAは銃規制強化には反対していますが、既存法規を遵守する立場をとっているので、現職政治家と協力関係を維持することができるのです。
また、NRAが連邦、州、地方政府と様々なレベルで強力な組織を持っていることも、その強さの源となっています。それぞれの次元で作り上げてきた強固なネットワークを活かして、何か問題が発生すると直ちに対策を練り、情報を広げることができるのです。この組織力は、NRAが効果的なロビー活動を行うことを可能にしているといえます。
さらに、NRAの選挙支援策も、その強さの源泉となっています。NRAはしばしば共和党の強固な支持母体だと言われますが、実際には、その献金額の2割程度は民主党の議員に対して提供されています。実際のNRAの戦略は、現職候補がNRAの方針を全面的に支持している場合には党派に関わらずその候補を支持するということ、その一方で、現職候補がNRAの立場に反する行動をとった場合には懲罰としてその候補を支持しないということです。この戦略は、銃規制推進という信念を持つ候補の行動を変えることはできません。しかし、候補が銃規制に関心を持っていないならば、NRAの立場に沿った行動をとることが合理的な戦略となるのです。このように、NRAは、政党に関係なく候補に対する支持・不支持を決定する結果として、現職候補に対する脅迫能力を持っているのです。
これに対して、銃規制を推進しようとする人々の政治力は弱いのが現状です。そもそも、銃犯罪の被害者になるのは都市の貧困層が多く、彼らには銃規制推進のために資金や時間を提供する余裕がありません。もちろん、元ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグのような大富豪が銃規制推進のために多くの私財を投じることはありますが、銃規制推進派は十分な組織を持たないため、銃規制反対派と比べて影響力が弱くなってしまうのです。
アメリカでは穏健な銃の規制を支持する人も多いのですが、本日述べたような背景を踏まえると、銃規制は一筋縄では進まないのが現状です。
頻繁に発生する銃による悲劇は、アメリカ社会が抱える大きな矛盾を示しているといえるのではないでしょうか。

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