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「田園回帰 ~持続可能な地域へ~」(視点・論点)

持続可能な地域社会総合研究所 所長 藤山 浩

私たちの研究所では、この8月、全国の全市区町村の人口について、2010年と2015年の国勢調査に基づき、現状分析と将来予測を行いました。
そこで一番注目されることは、今まで条件不利とされてきた離島や山間部の小さな町村を中心に、田園回帰の波が広がっていることです。

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例えば、図のように、2010年における25歳から34歳の女性と2015年における30歳から39歳の女性を比較してみると、今まで人口減少に悩んできた797の過疎指定市町村の中で、4割を超える41パーセント、327市町村で流入超過となっていることがわかりました。増加率の上位を占めているのは、ほとんどが離島や山間部の小さな町村です。
結婚や出産、子育てに関わる、地域の将来人口にとって大切な世代が定住し始めているのです。
また、2010年における0歳から64歳人口と2015年における5歳から69歳人口を比較して、自然減部分を除いてやると、5年間の社会増減率がわかります。過疎指定市町村では、1割を超える11.7パーセント、93市町村が社会増を達成しています。

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表のように、上位30市町村を出してみると、やはり離島や山間部の小規模な町村が目立ちます。
こうした離島や山間部の小さな町村の大部分は、3年前の「日本創成会議」による2010年までの国勢調査に基づく人口予測において、20~39歳女性の人口が2040年には半減以下となり、「消滅可能性市町村」とされていたところです。この度の2015年国勢調査に基づく分析では、少なからぬ離島や山間部の町村で「消滅可能性」の予測を、良い意味で「裏切る」傾向が示されました。これは、2010年代前半において、中央から遠く離れた地域から新たな進化が始まる、いわば「縁辺革命」として田園回帰が進んでいることを示しているのではないでしょうか。
もちろん、人口の将来予測をしてみると、依然として厳しい減少傾向が多くの市町村で見られます。例えば、過疎指定市町村では、半数近い46.5パーセント、371市町村において、2015年から2045年の30年間において、人口減少率が50パーセントを超えます。
それでは、毎年どのくらいの人口を取り戻せば、それぞれの自治体の人口は安定していくのでしょうか。私たちが開発したプログラムでは、毎年具体的にどの世代を何組何人、今までよりも定住増加させれば人口が安定化するかという「処方せん」を計算することができます。
基本的には、就職する時期の20代前半男女、結婚・出産する時期の30代前半子連れ夫婦、定年退職する60代前半夫婦の三世代について同じ組数をバランス良く定住を増加させるという前提で考えます。

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過疎指定市町村について、毎年人口比にして1パーセント分未満の定住増加により、14歳以下の子ども人口の長期的な安定化が実現するところは、図に示したように、9割近い88.2パーセント、703市町村もありました。私は定住を人口1パーセント分増やしていく「田園回帰1%戦略」を提唱してきましたが、全国的なデータからもその有効性が裏付けられたわけです。
この人口100人当たり毎年1名程度の定住増加により、ほとんどの市町村で、子ども人口が安定化しうるという事実は、大変重要です。例えば、小学校が辛うじて残っているような人口700人程度の地域においても、20代・30代・60代の定住を各々1世帯ずつ増やせば、多くの地域で、子どもの数を守ることができるのです。そうした定住増加を実現し、高い出生率との合わせ技により地域人口安定化に近づいている自治体は、西日本に多く存在しています。2010年代前半における田園回帰は、中国・四国・九州といった西日本が先導する「西高東低」となっているのです。
ちなみに、全国的にどのくらいの人数が田園回帰すれば、今まで人口減少に悩んできた過疎地域全体の人口安定化が実現するのでしょうか。

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今までより状況が深刻であった全域過疎指定、これは過疎指定市町村の中でも、自治体の全域にわたって過疎指定を受けているものですが、616市町村について、子ども人口を安定化させるために必要な定住増加数を合計すると、図のように、合計で人口合計の0.73パーセント分に当たる年間57,054人となります。これは、2016年、東京圏において入超となった117,868人の半分以下の数字です。政府も目指しているように、これ以上の東京への人口集中を抑えていくことで、地方の条件が厳しいところの人口安定化も見えてくるわけです。
ここまでのところで、人口の1パーセント分程度の定住増加を毎年地道に達成すれば、多くの地域で人口の安定化が実現することを、理解していただいたと思います。
もちろん、1%パーセントの数字ありきではありません。現在の人口動態や年齢構成により、安定に必要な定住増加の割合は、異なってきます。全国的に見ても、もう達成しているところや、あと0.5パーセントで達成できるところもあれば、少数ながら、2パーセント近い取り戻しが必要なところもあるのです。大切なことは、自分たちの地域の人口安定化に必要な定住増加の目標をみんなではっきりと共有することです。具体的な目標なくして、具体的な対策はあり得ません。
そしてもう一つ大切なことは、市町村全体だけに留まらず、住民に身近な地域、例えば小学校区や公民館区等のいわゆる地元単位で、人口分析を行い、定住増加の具体的な目標を立てることです。しかも、一つ一つの地域ごとにバラバラに進めるのではなく、市町村内の各地区が同時に分析と取り組みを進め、先んじて成果を上げている地区に学び合う方式をお勧めします。
地方創生は、地域同士が蹴落とし合いをする「トーナメント戦」ではなく、学び合い、磨き合う「リーグ戦」で進めてほしいと思います。国や県は、現場への人材配置とデータの共有化を進める中で、市町村を超えた広域の「リーグ戦」をしっかり支えてほしいのです。
もちろん、地域経済の取り組みも必要となります。その場合においても、住民人口1パーセント分の定住増加を進めるために必要な所得増加は、当然ながら、住民所得1パーセント分となります。大規模な企業誘致等だけを目指すのではなく、例えば食料やエネルギーを域内生産で賄うことにより1パーセントずつ取り戻していけばよいのです。
それは、けっして容易な道ではありません。しかし、これまでのような大規模・集中型の国土のあり方は、限界が明らかです。ぜひ、離島や山間といった今まで条件不利とされてきた地域で、社会増を実現している町村に、未来への道を学んでいきましょう。私は、そうした自治体をこの1~2年歩いてみて、3つの共通点を感じました。
第一は、よそのモノマネではない、自分たち独自の暮らしのあり方を選び取っている、自己決定性です。
第二は、外部に依存せず、地域の資源や特色を基にした循環のしくみを生み出していることです。
第三は、新規の定住者や次世代を巻き込み、多様な役割や生業を育む「生態系」のようなネットワークを、外部とも連携しながら伸ばしています。
このような「借り物」ではない、地域に根ざした暮らしの意志や循環、ネットワークを育む地域に、今までにはない「持続可能性」が生まれているのです。
けっして、人口が多ければよいという問題ではありません。それぞれの地域で、そこに暮らす人々自らが、人口や経済だけでなく、生活や環境からも、美しく長続きする地域社会を創り、担っていくことが求められているのです。
みなさん、田園回帰の時代は、住民自ら、自分たちの地域、つまり「地元」の「持続可能性」を創り直す時代と言えるのではないでしょうか。

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