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「バリアフリー化をどう進めるか」(視点・論点)

東洋大学 教授 髙橋 儀平

2013年9月の2020年東京オリンピック・パラリンピックの招致決定後、バリアフリー化が、急激なピッチで進められています。
それは、2020年東京オリンピック・パラリンピックに関しては、日本のこれまでのバリアフリーが国際標準に達しているのかが問われているからです。
そのために今、急いで法制度や各種ガイドラインの見直しが進められています。そうしたなかで、視覚障害の方のホームからの転落事故が後を絶ちません。
その度ごとに、全国各地の駅のホームで視覚障害者への声掛け運動が行われています。
しかし、1年もするとすぐに忘れさられます。そしてまた事故が起こります。
ホームドアの設置は、単にバリアフリー化の実現だけではなく、すべての人の命を守る必要不可欠なものと考えています。
そこで、きょうは急ピッチで進む日本のバリアフリー化を今後どのように進めていくべきか考えてみます。

本年2月、政府の関係閣僚会議によりユニバーサルデザイン2020行動計画が策定されました。この計画の目標は、2020年のオリンピック・パラリンピックの開催にあたり、障害の有無や人種、年齢、性別等に関わりなく誰もが平等に社会参加できる共生社会を実現することです。

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その目標は大きく3つあります。一つはこの10年間の社会変化を踏まえたバリアフリー法やバリアフリー基準の見直しを図ることです。二つ目は、政策立案過程への障害者参画です。
そして三つ目は、あらゆる生活場面で障害者の差別や偏見をなくす「心のバリアフリー」を目標としています。

まず、一つ目はバリアフリー法の改正や基準の見直しです。
では、これまで日本のバリアフリー化がどのように進められてきたかを簡単に振り返ってみましょう。1970年初頭、今日のバリアフリーの都市づくりの前身である「福祉のまちづくり運動」が障害者自身によって仙台でスタートしました。この運動はその後2年ごとの全国車いす市民集会に発展し、全国各地のバリアフリー運動を牽引しました。1973年9月には仙台市で車いす市民集会が初めて開かれました。まだ鉄道のバリアフリーが全く進んでいない時代に、全国から29名の車いす使用者が仙台市に集結した、画期的な出来事でした。

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こちらの表では、バリアフリー化や制度の動きを示しています。1994年に、日本で初めて、建築物のバリアフリー化を促進する「ハートビル法」が制定されました。そして、2000年にできた交通バリアフリー法と統合され、2006年現在のバリアフリー法ができました。バリアフリー法の対象には、道路や建物だけではなく、鉄道、バス、公園などが含まれ、市民が気兼ねなく、自由に移動や生活ができることを目指しています。
その結果、これまで多くの道路や店舗、公園などのバリアフリー化が進んできたのです。かつて、日本のバリアフリーは欧米先進国から10年、20年遅れているといわれてきましたが、現在の日本のバリアフリー水準は、諸外国と遜色がないと思います。

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写真は誰もが観覧できる競技場の一例です。競技場のバリアフリー化は2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて最も重要な案件です。しかしながら、現在のバリアフリー法では車いす使用者が障害のない人と同等に競技観戦ができるところまでは義務付けていないのです。そのほかもまだまだ改善する余地はあります。
次に、行動計画では、政策立案過程への障害者参画を求めています。
行動計画の二つ目の目標です。さらに参加だけではなく、自ら参画し立案した政策を評価することうたわれています。
日本のバリアフリー化の特徴は何といっても障害当事者の運動です。障害当事者の運動はバリアフリー化が始まった当初から今日まで継続しています。
行動計画でうたう参画と評価が実現するかは今後のバリアフリーの推進にとって大きな転機になると考えています。
さらに行動計画は、「心のバリアフリー」を目指すことを目標に掲げています。
先ほど、私は、全体的にみて現在の日本のバリアフリー水準は、諸外国に比べても遜色はないといいましたが、必要とする人が本当に使いやすいかどうかという点では、新たな課題も発生しています。

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写真は私たちが推奨してきた多機能トイレです。誰もが利用できるようにと、乳幼児用のいすやおむつ交換台などいろいろな機能を一つの空間に詰め込んできました。しかし、車いす使用者が使いたいときに、おむつ交換に使われていると、車いす使用者には使えないのです。このようなことが多くあります。
一つの空間だけで使いやすさを考えるユニバーサルデザインではなく、次の写真のように、機能を分散させトイレ全体で使いやすさを進めていく、ユニバーサルデザインに転換する必要があります。

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このような気付きは、市民や施設の管理者、従業員が普段から障害のある人に接していないと分からないと思います。すぐには解決できないけれども、接する機会が多ければ多いほど、自然にバリアの解消方法が分かってくるはずです。より使いやすく、より便利にという思いを強くもって、誰もが、障害のある人に初めて接する戸惑いと、偏見をなくして欲しいものです。
例えば、車両のシルバーシートをアジアで観察すると、韓国、台湾などは混んでいてもシルバーシートに座る人はまれです。日本では、若い人だけでなく誰もが我先にと座る文化があります。やはり先に座っている人がいたら、なかなかどいてくださいとは言えません。
これからの心のバリアフリーは、物理的改善と同時に進めなければなりません。共生社会は、都市の環境と人々の意識が同時に変わることによって成立するのです。そのためにも身近な学校教育や企業での取り組みが益々重要になってきます。
そして、参加のための重要な手段が「バリアフリー基本構想」制度です。

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この制度は道路、駅、公共施設、店舗など日常生活圏内の生活施設を、面的、連続的に整備しようとする制度です。高齢者、障害者をはじめとするさまざまな立場の違う市民が鉄道事業者や道路管理者と一緒に同じテーブルで意見を出し合い、自分たちのまちのバリアフリー構想を立案します。
身近なまちのバリアフリーの目標と実現方法を議論する市民参加型の制度です。まさに、行動計画の実践そのものです。

最後に、これからの差別のないバリアフリー社会の実現に向けてお話しします。これからは、これまで、バリアフリー運動の先頭に立ってきた車いす使用者、視覚障害者、聴覚障害者だけではなく、知的障害者、発達障害者、精神障害者など、様々なマイノリティーの市民と共に、一緒になって進める必要があります。一人ひとりに沿った細かなバリアフリーは私たちが最も得意としているところだと思います。
今、日本のバリアフリーの取り組みが世界から注目されています。
日本が2020年以降に向けて、どのような社会を実現できるのか。差別や偏見から解き放たれて、多様な世界観、価値観を認め合い、人々の違いを受け入れる、心のゆとりを持った真の共生社会を作っていきたいと思います。

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