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「未来志向の日中関係のために」(視点・論点)

宮本アジア研究所代表 宮本雄二

 45年前の9月29日に、日中国交正常化が実現しました。
 この45年をとっても、世界は大きく変わりました。そして今も変わり続けています。経済のグローバル化はさらに進み、世界経済の相互依存は空前のレベルまで達しました。科学技術の進歩により軍事力は、さらに巨大な破壊力を持つようになり、大国同士の戦争はできないというのが常識となりました。日本と中国は、そのような世界に住んでいるのです。つまり日中両国は、隣国の大国同士として、対立と争いではなく、安定した協力関係を持つ以外に選択肢はないのです。

ところが2010年と2012年の2度にわたり、尖閣諸島をめぐり両国の対立が激化し、両国関係は著しく悪化しました。歴史問題も折にふれ、頭をもたげました。そして1972年の国交正常化以来、最悪と言われる日中関係になってしまったのです。指導者同士の対話だけではなく政府同士、ひいては民間同士の対話も途切れがちになり、国民の相手国に対する感情もお互いにさらに悪化しました。
その結果、何が起こったでしょうか?日中二国間の問題だけではなく、東アジアの経済についても、政治についても、安全保障についても、現在の問題を解決することも、未来を語り合うこともできなくなりました。ましてや国境を越える地球規模の、人類共通の課題についても、語り合うことはなくなりました。
ところが世界に目を向ければ、戦後の国際秩序をつくり、指導してきた米国と欧州が内向きとなり、世界は確実に多極化に向かっているのです。中国は、その国力の増大にともない、今後の世界秩序の生成発展にさらに大きな役割を占めることでしょう。日本も依然として重要な大国であり、世界の未来について発信する義務があります。世界の平和と発展のためにも、日中は直接の対話を強化する必要があるのです。そこに北朝鮮の核問題という深刻きわまりない挑戦が再度、突きつけられました。日中は、韓国とともに北朝鮮の核の脅威を直接、受けます。日中が、この脅威を取り除くために、直接話し合い、協力し合うのは当たり前のことです。

 このように、日中は未来志向の、安定した協力関係を築かなければならない多くの理由があります。これこそが、日中両国が到達すべき共通の目標です。本日は多くを触れませんが、日本だけではなく、実は中国にとっても、その通りなのです。
それでは、そのような関係の実現のために何がなされなければならないのでしょうか。
 第一に、最も緊急を要する課題の解決に取り組むべきです。それは両国の危機管理メカニズムの構築です。2012年以来、第二次世界大戦後初めて、日本の自衛隊と中国の人民解放軍が直接対峙するという緊張した状況が生まれています。不測の事態が起こり、それが意図せず戦争に発展する危険性が高まっているのです。海上緊急連絡メカニズムをはじめとする両国の間の危機管理メカニズムは、早急に整備される必要があります。あわせて首脳レベルをはじめ、各レベルでのホットラインの設置も急ぐべきです。
 第二に、現時点ですぐに答えが出ない難しい問題は脇に置き、両国関係全体を人質に取ることがないようにするべきです。つまり難しい問題が起こるたびに対話を止めるようなことはしてはならないと言うことです。このことを日中首脳は明確に合意すべきです。問題が深刻であればあるほど、対話を強化し、出口を見つける努力を強化する。それが外交です。そして両国首脳は、「相手が困ることは控え、相手が喜ぶことをやる」という明確な了解に達し、実行に移すべきです。それを積み重ねることで雰囲気は必ず改善します。つまり首脳同士の政治的信頼感が増すと言うことです。
 第三に、その上で、両国が協力すればいかに両国にとり望ましい積極的な成果が出るかを国民に示すべきです。日中の経済協力の潜在力はとても大きなものがあります。中国経済は、大きな構造的、質的転換を求められています。より効率的で高度な経済モデルを必要としており、また環境や高齢化社会、医療や福祉といった面でも、日本の経験をとても必要としています。日本経済は、中国の市場、資本そして中国の先進的なビジネスモデルを、成長の原動力として活用すべきです。この分野において具体的な大きな成果を出すことが重要です。
 北朝鮮の核問題の解決は、喫緊の課題です。中国も北朝鮮による核の放棄を優先させる政策をはっきり打ち出してきたようですので、今こそ、この面での日中協力を強化すべきです。圧力を強め、「出口」を準備して北朝鮮による核放棄を確実なものとする包括的な戦略、それに基づいて対話を強化する。この面で日中協力が成果をもたらせば、日中関係にも好ましい積極的な影響を与えることでしょう。
第四に、日中の平和的な協力関係を築くためには、日中、あるいは日米中の間で軍事安全保障面での突っ込んだ意見交換が必要です。そして軍事力が主役とはならない東アジアの安全保障環境を作り出すために、知恵を出す必要があります。
 そして最後に、このような努力と共に、長い目で見れば、相互理解に基づく国民同士の相互信頼と相互尊敬をいかにして作り出していくかが最も重要な意味を持ってきます。日中ともに国民感情ないし世論が、国の対外政策にますます大きな影響を与えるようになってきているからです。特にお互いに尊敬し合う関係を作ること。お互いに尊敬してもらえるような社会を作ること。これが大事です。
 そのためには日本と中国の深い交流の歴史、とりわけ文化交流の歴史を学ぶべきだと思います。日本文化は、中国文化の大きな影響を受けながら独自の文化を発展させてきました。これは奈良、平安時代だけではなく、鎌倉、室町を経て江戸時代まで続いているのです。中国文化も、とりわけ近代に入り、日本文化の強い影響を受けました。江戸時代の日本儒学の発展は、清朝時代の中国儒学を驚かせましたし、明治日本は中国の近代化に巨大な影響を与えました。お互いに影響を与え合いながら共に発展してきたのです。この事実をもっと良く知り合うことにより、われわれは親近感を深め、敬意を抱き合うことが可能となります。
 観光でも、修学旅行でも、あるいは留学でも、何であっても良いのですが、日本人と中国人、とりわけ両国の若者たちは、もっと頻繁に直接ふれあう機会が必要です。固定観念や想像で判断するのではなく、直接会って、自分の目で確かめ、相手を理解するべきです。中国人の訪日観光客は毎年増え、昨年は6百万人を超えました。彼らが、SNSを通じて多くの中国人に日本の実情を伝えてくれた結果、中国社会の対日観も確実に変わってきています。日本と中国は隣国同士です。日頃の付き合いを深め、近所づきあいのマナーを磨き、国民同士の相互理解、相互信頼そして相互尊敬を実現したいものです。


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