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「秋の花 彩りと伝統」(視点・論点)

進化生物学研究所理事長・所長 湯浅浩史

今年の夏は、関東から北は雨が多かったですね。東京では、8月は半月も連続で雨が降りました。おかしな夏であっても、季節はすっかり秋。ヒガンバナは、その名の通り、秋のお彼岸に花盛りとなりました。
ハギの花も見ごろで、ススキも穂が出揃っています。

日本は四季がはっきりしています。それを豊かに彩るのは花です。現代は栽培された花が一年中出回っていますが、やはり季節を巡る野山の花は、格別な味わいがあります。
秋の野山の花としては、秋の「ななくさ」がよく知られています。
「はぎの花、尾花、葛花、なでしこの花、おみなえし、また、ふじばかま、あさがおの花」
これは万葉集で山上憶良が読んだことに始まります。
一般には秋の七草、七つの草と表現されますが、ハギは草ではなく木です。
山上憶良も「ななくさ」のくさは草木の草でなく、七つの種類という意味で「七種(ななくさ)」と表記しています。
日本最古の歌集である万葉集には、4516首の歌がおさめられていますが、実はその三分の一は植物関連の歌で、名のわかる植物も163種類を数えます。
そしてその第一位がハギなのです。
ハギは日本全国の山に生えていますが、地域によって種類が違います。

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ヤマハギはハギのなかまでは最も広く分布し、北海道から九州までみられます。
マルバハギは花が葉の近くにかたまってさくのが特徴です。西日本ではヤマハギより人里近くで多いハギです。

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ミヤギノハギは白花もあり、花がしだれて咲く美しいハギで、広く栽培されています。

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尾花はススキの穂です。すでに万葉のころから庭で鑑賞されていました。
万葉の歌人、石川広成は
「めづらしき 君が家なる花すすき 穂に出る秋の 過ぐらく惜しも」
とうたっています。
この「めづらしき」は、心ひかれる、愛らしいの意味でしょうか。
魅力的なあなたの家の花すすきの穂がでる秋が過ぎて行くのが惜しまれる
と秋の感傷を庭のススキで表現しているのでしょう。

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クズは葉がめだちます。あまり気づかれませんが、花は美しく、かげばブドウの香りがします。

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ナデシコの花は万葉の頃から妻や恋人にたとえられ、その面影を花にたくして、種子をまき、庭でも育てられていました。日本原産の花で、種子から栽培された最初の園芸植物です。

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オミナエシは、女郎花と女性にみたてて表記されますが、花をかいだら、とれも女性に結び付けられないような臭いにおいがします。ちなみに万葉集ではオミナエシは14首読まれていますが、一切女郎花の字は使われていません。

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フジバカマは、野生はまれですが、よく栽培されています。葉は乾かすと桜餅のかおりがします。
秋の七草のアサガオはキキョウとされています。
本物のアサガオは万葉の頃はまだ渡来していませんでした。しかも山上憶良は野の花を詠むとことわっているので、現代のアサガオはふさわしくありません。

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なおキキョウは雄しべが先に発達する雄しべ先熟で、その後雌しべが熟してくるという変わった咲き方をします。聞きなれ、見なれた花でも、じっくりと観察すれば、知らない素顔に気づく事もあるでしょう。
また、四季折々には花や植物をとりいれた行事もあります。
秋はまず中秋の名月、お月見です。お月見は月の運行によるので、現代の暦では毎年同じ日ではありません。今年の中秋の名月は10月4日の夜です。
現代は各家庭で、お月見にお供えや飾りをすることは少なくなりましたが、伝統的には、お団子にススキを飾ります。秋に咲く花は色々あるのに、なぜススキなのでしょうか。銀閣寺の月見の庭にもススキが生えています。

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中秋の名月はイモ名月とも呼ばれます。このイモはサトイモでサトイモがお供えされたりします。それにしてもお餅やおはぎではなく、なぜ、団子やサトイモなのでしょうか。その団子もキューピッドの頭のように尖っている地方もあります。これはサトイモに形を似せているのではないかと思われます。
サトイモにススキの組合せは、何か特別な意味があるのでしょうか。その手がかりは台湾の少数民族にありました。

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台湾の南の島「蘭嶼(らんしょ)」にはヤミ族、今はタオ族とも呼ばれる民族が住んでいます。
そこには水田があるのですが、稲はつくっていません。サトイモの仲間のタロイモを水田に植えているのです。
ふだんは毎朝女性がタロイモ水田で、その日食べる分だけ収穫します。ところが、結婚式や家の新築、また舟を造った時は、一斉に収穫して水田の側に積み上げ、ススキをさした後、持ち帰って半地下の家の屋根に並べます。

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なぜススキをさすのかと尋ねたら収穫したイモに悪いものが取り付かないようにするため、と答えてくれました。
ススキは葉の周囲に堅い細胞があって、うっかりさわると手が切れるほどです。
またススキの茎を斜めに切った切り株を踏むと足にささり、けがをします。目に見えない悪いものがひそかに近づいてきても、傷つくのでススキを嫌がるというのです。
日本でも沖縄では、戦前夜に赤ん坊をおぶって外出しなければならない時には、腰にススキをさしたそうです。
本州では稲の水田の取り入れ口にススキをさすところもありました。
これらの事例から、お月見のススキも単に風流で飾るというよりは、本来は別な目的があったのでないかと思われます。恐らく稲作が広がる以前にサトイモを収穫する儀式が行われていたとみられます。それが稲をつくる人々の支配下におかれ、お月見に形をかえ伝わっているのではないでしょうか。その原点は縄文時代にさかのぼるように思います。
現代は暦に追われて、自然と切り離されて生活をおくっていますが、暦のなかった時代は花の咲き方など四季の移ろいに注意を払い、暮らしていたに違いありません。
その四季の彩りが日本独自の伝統文化である和歌や俳句、また生け花や盆栽を育んだのです。さらに日本の草や木を庭に移し、様々な園芸植物を生み出しました。
秋はハギ、モミジ、サザンカ、リンドウ、キキョウなどの花や木です。
現代では、鉢花や切り花が年中出回っていますが、野外の四季折々の彩りに目をむけ、その伝統に思いをはせるのも、暮らしにうるおいを与えてくれるでしょう。
山上憶良があげた、七種(ななくさ)以外に新しい秋の七種(ななくさ)、さらには春の花の七種(ななくさ)、夏の七種(ななくさ)を考えてみるのも一興でしょう。
花を七つ、セットにして楽しむのも日本独自の花の文化です。

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