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「雨や台風経路の変化にどう備える」(視点・論点)

気象庁予報課長 市澤 成介

先日、台風18号が日本列島を縦断し、暴風や記録的な大雨となったところもあり被害が発生しました。
近年、地球の温暖化の進行によって、雨の降り方が激しくなったと言われ、台風の経路に変化が表れているのではないかと言われています。
そこで、今日は実際に雨の降り方や台風の経路にどのような変化が起こっているかを、観測資料を使って分析し、こうした状況の変化にどう対応すれば良いかを考えてみます。

最初に、気象庁のアメダス資料を使って、雨の降り方にどのような変化が起こっているか見ます。

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まず、1時間50ミリ以上の非常に激しい雨の発生数の変化を見ます。1時間50ミリ以上の雨では、瞬く間に道路冠水が発生し、視界不良も起こり、自動車の走行が危険な状況になります。
図を見ると年々の変動はありますが、明らかに増加の傾向が見られ、近年は200回を超える状況が続いています。

次に、日雨量、一日に降った雨の量ですが、これが200ミリ以上の大雨の発生数の変化を見ます。
日雨量200ミリ以上の雨では、土砂災害や浸水害、洪水害の発生が多くなります。台風・低気圧の通過や前線活動に伴う大雨事例がこれに当たります。

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図によると、日雨量200ミリ以上の発生数は、年々の変動が大きいため、単純に増加の傾向にあると判断するのは難しいようです。10年毎の平均発生数の変化を見ると、直近10年は152.9回と、その前10年の181.7回を下回っています。変化の形状からは、数10年程度の周期変動の可能性も考えられますが、統計期間が短いため、これが長期的な変動であると断定はできません。
ところで、「過去に経験したことが無い大雨だった」といった言葉を耳にすることが多いように感じます。「過去に経験したことがない大雨」を、どの程度に決めるか難しいので、単純な方法で、極めて異常な大雨事例を見ることにします。

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表は、その観測点でこれまでの最大の日雨量の2倍を超える記録的な大雨となった事例を並べたものです。これは数百年に一度起こるかも知れない程度の極めてまれな事例と言えます。毎年のようにどこかで、その地の大雨記録を大幅に上回るような記録的な大雨が発生しています。ただ、このような記録的な大雨事例が近年増加傾向にあるかについては、調査した期間が短いので、この結果だけで増加していると断言できませんが、これからも各所で起こり得ることを示しています。

では、ここからは台風の経路の変化についてみることにします。
昨年8月には北海道、東北地方に相次いで台風が上陸しました。

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そこで、昨年8月に発生した台風の経路を図に赤線で示してみました。そして、同じように8月に台風が多発し、かつ上陸台風も多かった2004年8月に発生した台風経路も示します。図中には8月の代表的な台風経路を薄青の太矢印線で示しています。
それぞれを比較してみると、2004年8月は、8月の代表的な経路に沿った台風が多くみられ、発生はマリアナ諸島近海からその東海上の低緯度が多くなっています。一方、昨年8月は北緯20度線付近の比較的高緯度に発生した台風が多く、ほとんどが北向きの経路を取っています。明らかに普段と異なる経路を取った台風が多く、発生位置にも変化が見られます。

このような経路に違いが生じた理由は、台風の動きを支配する上空の大気の流れの変化にあります。上空の大気の流れは、上空の天気図の高度分布で見ることができます。

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図は昨年8月と2004年8月の上空の天気図を示したものです。
右側の2004年の図は日本の南海上には平年並みに太平洋高気圧が張り出し、台風はこの周りを回る経路を取りました。しかし、昨年は、日本の南海上の太平洋高気圧の勢力が弱く、高気圧の中心が北東にずれて北への張り出しが強かったため、東の高気圧の西縁を北上した台風が多かったのです。このように昨年8月はいつもの年と異なる上空の大気の流れが現れたことによって、台風の発生場所や経路に異常が生じたのです。
普段と異なる大気の流れが起こる要因の一つに、地球の温暖化が影響していると言われています。

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温暖化によって南北間の温度差が小さくなり、偏西風の蛇行がより顕著に表れるようになります。これにより、天気の変化のリズムが乱れ、長雨が続く地域や高温が続く地域が現れるようになります。また、この偏西風の流れの変動による蛇行がどこに現れるかによって、台風の発生位置や経路にも影響が出ます。
昨年の夏のような状況が何時も現れる訳ではありませんが、温暖化により日本付近の上空の大気の流れに変化が起こり易くなるため、異常な経路をとる台風が増える可能性が高くなるでしょう。

平成27年1月、国土交通省は「新たなステージに対応した防災・減災のあり方」を提言しました。これによると、「温暖化の進行により危惧されているような極端な雨の降り方が現実に起きており、明らかに雨の降り方が変化している」という状況を、「新たなステージ」と捉え、危機感をもって防災・減災対策に取り組んでいく必要があるとしています。
気象庁はこの提言に沿って、今年の出水期から5日程度先までの間に雨や風等の警報級の現象が起こりそうな場合に「警報級の可能性」という情報や「雨による災害の危険度を階級分けした分布図」の提供などの新たな防災気象情報の運用を始めました。

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台風の接近が予想される場合には、進路予報に加えて、図のように今年から始まった5日程度先までの警報級の現象が起こる恐れを示す「警報級の可能性」を用いることで、いつ頃から激しさが増すかを見ることで、早めの防災対策を講ずることが可能となります。雨や風が激しくなる前に防災への備えをすることで、危険な時間帯に屋外行動を取らないで済み、危険への回避が期待されます。

一方、雨が降り出す前から対策を取れないことがあります。予測を超えるような大雨や猛烈な雨に際しては、雨による災害の危険度の情報を活用して頂きたい。これまで提供されていた土砂災害の危険度分布に加えて、新たに発表を始めた浸水害や洪水害の危険度分布も見ることができます。

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これは福岡県朝倉市の豪雨の際に発表された災害の危険度分布です。10分毎に更新される情報により、危険な場所の変化や動きを確認することができます。極めて危険な状態になっている場合は、屋外に出ることは危険で、屋内で最も安全と思われる場所に留まる必要も生じます。この時、土砂災害の危険度が高い場合は、崖側から離れた安全なところに、浸水害や洪水害の危険度が高い場合は、2階に避難するなど、最適な対応をとるようにしてください。
雨の降り方が激しさを増す状況に対しては、ただ恐れるのではなく、災害の危険度分布などの新しい防災気象情報を上手に活用し、安全の確保に努めていただければ幸いです。

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