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「自転車 安全な活用のために」(視点・論点)

東京大学生産技術研究所 特任助教 鈴木美緒

自転車は、私たちにとって非常に身近な乗り物です。免許も要らず、比較的安い値段で買うこともできますので、子どもから高齢者まで多くの人に利用されています。
ともすると“乗り物”としての認識が薄くなりがちな自転車ですが、近年、「交通手段としての自転車」が着目されています。
自動車から自転車に転換することで「二酸化炭素削減」や、「健康面への寄与」が期待されることも広く知られるようになりましたし、東京などでは、東日本大震災を契機に、自転車通勤の利便性が注目されるようにもなりました。
しかし、その一方で、自転車の関わる交通事故の多さが目立ってきています。対歩行者の事故については、件数が増加しているばかりでなく、高額な賠償命令が出た死亡事故が起きているように、高齢化社会において被害が甚大になってきています。
そこで、今日は、交通手段として注目を集める自転車の安全運転をどのように実現していくかについて考えます。

まず、「自動車の仲間、軽車両としての自転車」という位置付けを強化する動きが強くなっています。

2011年に「自転車の車道通行の原則を強化する」という警察庁の通達が出され、2013年の道路交通法改正で、歩道のない道路の路側帯での一方通行が定められ、2015年の道路交通法改正では、「14歳以上の運転者が自転車で危険行為を繰り返したときの安全講習の義務化」が定められました。つまり、自転車がより自動車に近いルールで使われるように変わってきています。

もともと、道路交通法では自転車は車両の仲間ですが、「自転車を車両と考えるべき」となったきっかけは、自転車の関わる交通事故の多さが顕在化してきたことでした。

さきほどお話ししたように対歩行者の事故については、件数が増加しているばかりでなく、被害は甚大になっています。

ですが、実は、自転車の方がケガをする、対自動車の事故の割合も非常に高くなっています。諸外国と比較しても、日本での自転車乗用中の死亡者の割合が多いのです。

歩道を走っているのに、自動車との事故が多いのはなぜでしょうか。

まず、自転車乗用時の交通事故の死傷者の約6割に違反行為があり、正しく通行できていないことが特徴として挙げられます。

そして、自転車事故の約7割が交差点で起きています。

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自動車ドライバーは、周囲の動きを予測して運転しますが、例えば左折時には右側に意識がいきがちで左側に視線が行きにくくなります。

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さらに、歩道を通行する自転車は両方向から、速い速度で交差点に出てくることもあり、気付いてからブレーキを踏んでも間に合いません。自転車は、歩道の車道よりを通行すると定められていますが、それを知らずに建物側を通行していると、より、ドライバーから発見されづらくなります。

自転車に乗る方は車道を走る時に「追突されるのでは」と心配されると思いますが、実際に、車道を急に横断するといった予測不能な動きがない限り、自転車が自動車に追突される事故はほとんど起きていません。

つまり、自動車ドライバーが予測しづらい自転車の動きが事故につながります。

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一般的に、ドライバーにとっては車道を走る自転車の方が発見しやすく、歩道を走る自転車は、植栽などでさえぎられるため見えづらいのです。このため、交差点等での事故がより発生しやすいのです。

では、自転車が安全に走れるためには何が必要でしょうか。まずは多くの人にとって走りやすい道路空間をつくることです。“走りやすい”とは、必ずしも自転車と自動車が分離されていることを指すわけではありません、なぜなら、先ほどお話ししたように、自転車は自動車ドライバーから発見されやすい場所を走っている方が安全だからです。日本の道路は狭いので、専用の自転車道を整備することが難しいですが、自転車が自身の存在をアピールし、自動車がその動きを予測しやすいことを考えると、大原則は法律で定められているとおり、自転車は、歩道でなく、車道を通行するべきです。

とはいえ、車道を走ることにちゅうちょする方もいらっしゃると思います。

そこで、2012年に国土交通省と警察庁から、車道上に自転車走行空間を明示する方針が示され、いま、日本中で車道にその空間が表示されるようになってきています。

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これは、免許を持たない自転車利用者にも、車道の左側を走るルールをわかりやすく示すだけでなく、自動車ドライバーにも「自転車が走る場所ですよ」と注意を促す役割を持ちます。つまり、自転車と自動車の両方に対して道路を共有するよう示しているのです。実際、このような表示を率先して行なった自治体では、全国平均以上に自転車事故が減少しています。ただ、この表示の仕方によってはルールを勘違いしてしまい、トラブルに発展する場合もあります。信号も含め、そのような誤解を招かない、より適切な表示方法を検討していくことが必要です。

もちろん、自転車利用者自身もルールを知らなければなりません。自動車ならば安全運転は当然ですが、自転車だと、傘をさしながらの片手運転や、イヤホンで周りの音が聞こえない状態での運転でもめったに罰せられず、抵抗を感じない人も多くいます。

免許を持たずともルールを認識していること、特に、事故が起きやすい状況を理解して自転車に乗ることが重要です。たとえば、13歳未満の子どもや、70歳以上の高齢者は、自転車で歩道を通行しても良いと定められていますが、これは、「車道では危ない」という理由以上に、「速く走らないから」、つまり、歩行者にとって危なくないこと、交差点でも自動車と衝突しづらいことが大きな理由となっています。ですから、自転車で歩道を通行するときには、交差点で自動車ドライバーから発見されづらい危険性を知っているべきですし、歩行者の通行を妨げない大前提を守ることが求められているわけです。

ルールそのものを教え、取り締まることも必要ですが、さまざまな交通状況に対してどう対処するべきかを、年齢を問わず教育する必要があるといえます。

さらに、ブレーキのかけ方やバランスのとり方によっては倒れやすいといった基本的な性質もきちんと知っている必要がありますし、当然、車体を点検したり、ヘルメットを着用したり、保険へ加入したりして、自身の安全を守る努力をすることも利用者に求められます。

つまり、自転車に乗るということの責任を自覚する必要があるのです。

ところで、最近では、電動アシスト自転車の普及によって、幼児を2人乗せた親御さんや、高齢者の方も、坂道など気にせず自転車に乗れるようになりました。ですが、認知機能や運転技能が衰えている方や、自転車の重さを操りきれない力の弱い方が、速度の出やすい自転車で歩道を通行するのは大変危険です。このような方たちのために、バス等の交通手段が用意されることも重要です。

 今年5月に、自転車活用推進法が施行されました。いま、自転車の活用を推進する、と聞いてもピンと来ないかもしれませんが、「自転車が安全に、そして凶器にもならずに、その機能を活かせる」環境の促進を意味します。自転車の本当の良さを知るために、歩行者と自動車の間で中途半端な存在だった自転車を、一交通手段として認め、お互いを思いやる環境と心持ちをつくることがいま、求められています。

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