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「ペットがうつす病気に注意を」(視点・論点)

山口大学 教授 前田 健

去年、ネコにかまれたヒトが重症熱性血小板減少症候群(SFTS)を発症して死亡したことが判明しました。このSFTSはマダニが媒介する感染症で、一部の報道では「殺人マダニ」などと騒ぎ立てられました。この病気は2011年に中国で最初に報告された新しい感染症で、日本では2012年末に最初の患者が報告されています。国内では年間60名前後の患者が報告されており、約2割の発症者が死亡する非常に致死率の高い感染症です。きょうは、このマダニが媒介する新たな感染症がどれほど危険なものなのか、どんな対策をとる必要があるのか、述べたいと思います。

この病気はSFTSウイルスというウイルスによって引き起こされます。

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この図はSFTSウイルスの感染経路を示しています。ウイルスはマダニが保持していて、マダニが動物をかみ、血液を吸う際にウイルスを動物に伝ぱします。一方、SFTSウイルスに感染している動物の血液中をウイルスは流れています。この動物の血液を吸ったマダニは動物からウイルスに感染します。一匹のメスのマダニがウイルスに感染した場合、数多くのウイルスをもった幼ダニが生まれてきますし、一匹のウイルス保有動物から多くのマダニがウイルスを保持することになります。更なるウイルスの感染経路として、中国や韓国では患者から家族・医療関係者が感染しているとの報告があります。患者が排せつする体液にウイルスが含まれており、これと接触することにより感染します。
最近になり、ネコとイヌがSFTSウイルスに感染して病気になることが分かりました。

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この写真は、最初に報告された発症猫と発症犬です。猫の場合は、これまで3頭のSFTS発症を診断しましたが、そのうち2頭が死んでいます。幸いにもこの猫は生き残りましたが、SFTSウイルスは猫にも重い病気を引き起こします。重要なことは、SFTSを発症した疑いが強い猫がいて、その猫にかまれたヒトが、その後、SFTSを発症して死亡していることです。ネコからヒトへの直接感染が強く疑われています。この犬を診断した結果、イヌも発症することが証明されました。ヒトと同じような症状を示しましたが、無事回復しました。このイヌと同居しているイヌにもSFTSウイルスの感染が認められましたが、無症状でした。

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この写真はSFTSを発症した親子が飼育していた2頭の犬です。このように多くのマダニが2頭に咬着(こうちゃく)していました。これらのマダニを調べたところ、SFTSウイルスを持っていることが明らかとなりました。また、犬小屋の周りにいたマダニの多くもSFTSウイルスを保有していることが分かりました。2頭の犬からこの周りの多くのマダニがSFTSウイルス陽性になってしまいました。

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ここでSFTSについてまとめると、
・ヒトに対して非常に病原性が高い(致死率20パーセント)
・基本的にマダニによって運ばれるが、ヒトからヒトへの感染もある。
・イヌやネコも病気になる。特に、ネコでは重い病気になる
・ネコからヒトへの感染がある
ということになります。
さて、このような怖いウイルスを持つマダニがいて、これらのマダニからペットを守るため、あるいはペットから自分が感染しないようにするための対策はどうすればよいのでしょうか?
SFTSウイルスは、マダニと野生動物間で維持されています。

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図は和歌山県のアライグマとタヌキのSFTSウイルス感染状況を調査した結果です。SFTSウイルスに対して感染歴のあるアライグマとタヌキが急激に増えていることが分かります。野生動物でSFTSウイルスがまん延してきた2014年に初めてSFTS発症者がこの地域から報告されました。地域の野生動物でSFTSウイルスがまん延するとヒト・ネコ・イヌが感染するリスクが高くなることがわかります。すなわち野生動物でのまん延を防ぐことができれば感染リスクは減りますが、その防止策は困難が伴います。そのため、個人レベルでウイルスに感染しないように防御することが基本となります。
SFTSウイルスに感染しないための個人レベルでの対策として、2種類あります。一つはペットがSFTSウイルスに感染しないようにすること、もう一つはペットからSFTSウイルスに、ヒトが感染しないようにすることです。

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ペットがSFTSウイルスに感染しないようにするために、
・イヌやネコ用のダニの駆除薬を獣医師に処方してもらいましょう。これは、SFTSウイルスだけでなく、他のマダニ媒介感染症を防ぐのにも役立ちます。
・散歩などの外出時のあとは、ペットの毛をブラッシングしてマダニを落とすことが重要です。マダニは、動物についた後、すぐには動物にかみつかないので、かみつく前に落とすことが重要です。動いているマダニを見つけたらテープなどにつけると良いです。テープを使えば簡単に動きが停止するので、そのまま破棄して大丈夫です。
・散歩や野山に行く前に、動物用のマダ二忌避剤を動物に噴霧しましょう。マダニだけでなく蚊にも効果的です。持続時間は長くないですが散歩程度には十分持続します。
・動物がマダニにかまれていたら、可能なかぎり早くマダニを除去します。しかし、決してマダニの胴体部分を押してはいけません。マダニの胴体部分を押すことによりマダニの病原体が動物の体の中に押し出されてしまう可能性があるので危険です。当然、マダニを潰してもいけません。マダニの中にいる病原体が出てくるので危険です。先端が細いピンセットで一番皮膚に近いところをつまんで、垂直に引き抜くことが重要です。
以上のように動物にマダニを付かないように努力しても、マダニが付着することはあります。しかし、慌てる必要はありません。すべてのマダニがウイルスを持っているわけではありません。動物の体調の管理をし、異常が見つかれば獣医師に行くことが重要です。
次の対策としては、ペットから直接感染しないことが重要です。

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・動物にかまれないように注意すること。動物は体調が悪い時などにはかみつく傾向が高いので特に注意する必要があります。
・病気の動物とキスなどの過度の接触を避けること。動物が病気になっているということは、今、大量に病原体が動物の体の中で増えていることを意味しています。過度に接触することによりヒトが病原体に感染することがあります。SFTSウイルスの場合も、発症した猫の口腔に大量のウイルスが出ていることが分かっています。
・動物の排せつ物の処理の際には、手袋などを用いて直接触れないこと。SFTSウイルスは、ネコの目、口、尿、糞便に排出されていることが分かっています。排せつ物の取り扱いには手袋などを用いて直接触れないことが重要です。
現在、治療薬の臨床治験が実施されていますし、ワクチンなどの予防法の開発も行われています。近い将来、これらが実用化されることが待たれています。それまでは、致死率20パーセントの病原体を持つマダニあるいは動物が近くにいる可能性があることを考えて、過度に神経質にならず、しかし、慎重に自衛策をとることが重要です。更には、野生動物対策など国・地方レベルでのより大規模な対策も必要ですし、SFTSウイルスの感染経路や重症化の原因などにおいては不明な点も多く、今後の更なる研究成果が待たれるところです。
最後になりましたが、ヒトにさまざまな病気があるように、動物にもさまざまな病気があります。ペットから飼い主、飼い主からペットの感染も結構頻繁に起こっています。ペットは友達であり、家族でもありますが、その付き合い方には適度な距離が必要であることを忘れてはいけません。

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