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「サンマ不漁 原因と対策」(視点・論点)

東京海洋大学 准教授 勝川 俊雄

日本を代表する秋の味覚と言えば、サンマです。最近、サンマの漁獲量が30万トンから11万トンまで減少して、値段も高くなっています。今年もサンマの水揚げが始まりましたが、「今までに無い不漁」という声が漁業の現場から聞こえてきます。サンマに何が起こっているのでしょうか。サンマの漁獲が減少している背景を解説し、サンマ漁業の未来について考えてみましょう。

日本の食卓にとって、サンマはとても身近な魚です。我々は、サンマを日本の魚と考えがちですが、実はそうではありません。

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この図はサンマの生息域を示したものです。北太平洋全体の広い海域に分布しています。北の餌場で豊富なプランクトンを食べて成長したサンマは秋になると、南の産卵場に回遊します。産卵回遊する一部の群れが、日本の近海を通りかかり、それを日本漁船が漁獲しています。
日本のサンマの漁獲に影響を与える要因として、サンマの資源量、サンマの回遊ルート、外国船の漁獲の3点について詳しく見ていきましょう。
まずは、「資源量」についてです。サンマの資源量を調べるために、日本の研究機関、水産研究・教育機構が、毎年、6月から7月に調査を行っています。サンマの回遊ルートをさかのぼり、太平洋を横切る大規模な調査です。

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今年の調査結果はこのようになっています。赤い円は大型のサンマ、青い円は小型のサンマがその場所で捕獲されたことを示します。円の大きさがサンマの密度を表しています。×マークは、その地点ではサンマが捕れなかったことを意味します。日本に近い方から1区、2区、3区となっていて、このデータをもとに、それぞれのエリアのサンマの資源量を推定しています。

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2003年から、2017年までの区間別の資源量を示したのがこちらの図です。サンマの資源量は、直線的に減少しています。日本の漁場を通る可能性があるのは、1区と2区のサンマですが、不漁だった去年とくらべても、今年はその半分まで減少していて、近年にない低水準に落ち込んでいます。
二つ目のポイントは、「回遊ルート」です。日本のサンマの漁獲量に影響を与えるのは、資源量だけではありません。サンマが日本近海を通過するかどうかも重要な要素です。

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この図の青の部分が日本の漁場、ピンクの部分が外国船の漁場です。外国船は日本の200海里の中で操業できないので、外洋で漁業を行っています。一方、日本船は船のサイズが小さく、遠出ができないので、漁場は日本近海に限定されます。
サンマは低い水温を好んで回遊します。日本周辺の水温が低い年には、青い矢印のルートで回遊し、日本周辺に好漁場が形成されます。逆に、日本周辺の水温が高い年には、赤い矢印のように、日本に近づく前に南下してしまいます。その場合、外洋で操業する外国船には大きな影響は無いのですが、沿岸で待っている日本の漁船は待ちぼうけということになります。
ここ数年は日本周辺の水温が高く、サンマが近海に入りづらい状況が続いていました。外国船が漁獲を維持するなかで、日本の漁獲が減少した理由の一つは、サンマの回遊ルートの変化なのです。
今年は幸いなことに、日本周辺の水温が低く、サンマが近海を通過する可能性が高くなっています。サンマの資源量は減っているのですが、近海に漁場が形成されるために、日本の漁獲量は去年と同じ水準に維持されると専門家は考えています。
三つ目のポイントは、外国船の漁獲です。ここ数年、「中国・台湾の乱獲でサンマが減少している」という報道を頻繁にみかけるようになりました。しかし、データを見ると、現在の漁獲の影響は限定的であることがわかります。

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この図は、先ほど紹介した資源量調査の結果と、各国の漁獲量をまとめたものです。緑の部分がどこの国にも漁獲されなかった獲り残しになります。サンマの漁獲は、資源全体から見ると低い水準に維持されています。成長が早く、生産力が高いサンマにとって、問題になるようなレベルではありません。やり玉に挙げられることの多い中国は、図に赤で示したように、2012年から漁獲を開始して、量としてはそれほど多くありません。「中国の乱獲でサンマが激減している」という主張には無理があります。また、現在の漁獲率では、「外国船が先に獲ったから、日本の取り分がなくなった」という説明も成り立ちません。
日本のサンマ漁獲量が減少している原因は、外国船の漁獲よりは、むしろ、資源量が減っていることと、日本近海の水温が高く、サンマが日本の漁場に入りづらかったためと考えられます。
サンマの資源量が減少している原因は解明されていません。現在の漁獲量で乱獲になる可能性は低いので、自然現象と考えられます。サンマはこれまでも自然に変動を繰り返してきました。過去には、日本しか漁獲していなかった1960年代に、漁獲量が48万トンから7万トンまで変動したこともあります。ここ数年のサンマ漁獲量の減少は、過去の変動の範囲に収まっています。

では、このまま漁獲を続けて問題が無いかというと、そうではありません。今後も地球温暖化などで日本近海の水温が上がると、日本周辺ではますますサンマが獲りづらくなります。サンマの水揚げを確保するために、日本も漁船を大型化して、外洋までサンマを獲りに行くことも必要になるかもしれません。
資源が減少しているなかで、各国がこれまでと同じ量のサンマを漁獲すると、資源に対するインパクトは増えていきます。このままサンマが減少していけば、そう遠くない将来、漁獲を規制せざるを得なくなるでしょう。サンマ食文化を守るには、サンマ資源の持続性が不可欠です。いざというときにサンマの漁獲にブレーキがかけられるように準備をしておく必要があります。
昨年、日本は国際的な漁獲枠を提案したのですが、他国の支持が得られませんでした。日本が提案した漁獲枠は56万トンです。最近のサンマの漁獲量は合計で35万トン程度なので、現状の1.5倍に漁獲を増やすことになり、資源保護効果は期待できません。また、国別の漁獲枠配分にも問題があります。日本提案では、日本のみが漁獲を大幅に増やし、他国はこれ以上漁獲を増やせないという、一方的な内容でした。これでは他国の合意が得られるはずがありません。
忘れてはならないのは、サンマは日本が所有する資源ではなく、国際的な共有資源だということです。
日本には、他国が外洋でサンマを漁獲するのを規制する権限はありません。関係漁業国が合意をして、国際的な漁獲規制を導入できるように、粘り強く交渉する必要があります。

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