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「『日韓交流おまつり』が築く両国関係」(視点・論点)

ソウル ジャパンクラブ 元理事長 高杉 暢也

来年は、キム・デジュン(金大中)大統領と小渕総理大臣の間で締結した「日韓共同宣言」いわゆる「日韓パートナーシップ宣言」から20年を迎える節目の年となりますが、日韓関係は相変わらずぎくしゃくしています。しかし、それは政治・外交の側面においてです。経済、文化、青少年、観光、スポーツ、地方自治体などのいわゆる民間交流の側面においては、もはや「両国はパートナー」といっても過言ではない関係にあります。
私は1997年のアジア通貨危機の下で、倒産状態にあった現地法人を再建する社命を受けて韓国に赴任しました。以来、約19年間の韓国社会で経営者として、あるいは社外での様々な活動を通しての経験から、日韓パートナーシップ構築の鍵は「両国の民間草の根交流活動である」ということを確信しました。本日は私が当初から関わってきた民間交流の最大イベントの「日韓交流おまつり」と両国関係についてお話したいと思います。

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2003年、ノ・ムヒョン(盧武鉉)大統領は就任まもなく日本を公式訪問し、小泉総理大臣と「日韓首脳共同声明」を発表しました。その中で日韓国交正常化40周年にあたる2005年を「日韓友情年2005」と位置づけました。そのコンセプトは「「日韓パートナーシップ宣言」の後、「2002年ワールドカップ共同開催」や「韓流ブーム」を経て改善してきた日韓関係をさらに前進させるため、“進もう未来へ、一緒に世界へ”をスローガンとして掲げ、若者を中心に21世紀を共に歩むパートナーになろうというものでした。
そのために、両国の間に700余件の交流イベントが計画されました。途中、「竹島」や「教科書」などの政治問題で波風が立ち、NHK交響楽団演奏会や青少年サッカー大会などいくつかのイベントが順延や中止となり、青少年への影響を心配もされました。
しかし、「松竹大歌舞近松座」公演、「宝塚歌劇団」公演、NHKとSJC共同主催の「NHKのど自慢イン・ソウル」、両国外務省主催の「日韓交流おまつり」等多くのイベントが成功裡に終わり、心配は杞憂となったのです。
中でも、「日韓交流おまつり」はソウル市の大学生の町・大学路で開催されました。2日間で10万人を超える市民が交互に演じられる両国のおまつりを楽しみました。

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特に、フィナーレで、日本からの「秋田竿灯」、「熊本山鹿灯篭踊り」、「青森ねぷた」、韓国の「能仁禅院釈迦像」が華やかにパレードすると大学路は拍手と大歓声に包まれ、興奮のるつぼと化したのでした。
これに気をよくした我々ソウルジャパンクラブのメンバーはこの「おまつり」を毎年続けたいと思いました。しかし、この年は両政府から全ての援助があったのです。今後これを継続するとしたら資金集めをどうするのか、足が出たときはいったい誰が責任を取るのかという心配に先立ち、誰もが尻込みをしました。
これを払拭したのが韓国研究・哲学者の小倉紀蔵氏の次のような言葉でした。“今や、「イデオロギーの日韓関係」や「反発感情の日韓関係」ではなく、「クリエイティビティの日韓関係」に転換する絶好のチャンスだ”。というものでした。
この言葉に励まされ、清水の舞台から飛び降りる覚悟で、翌2006年はボランティアが中心となって開催したのです。「おまつり」の規模は小さくなったものの、またもや市民が大変喜んでくれました。それだけでなく当時のパン・ギムン(藩基文)外交通商部長官(前国連事務総長)から、“韓国側も日本で「おまつり」を開催したい”との意思表明があったのです。
この「おまつり」は“どんなに悪天候であっても常に日韓の進むべき方向を照らしてくれる灯台の光のようなシンボル”という合言葉のもとに両国市民の草の根活動としてスタートしたのです。
「日韓交流おまつり」の特徴はおまつりパフォーマンスの交流のみならず、衣類、食類、遊戯類などの文化の紹介、そして地方自治体、青少年など幅広い層での交流から成り立っていることです。

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この「おまつり」の成功の鍵は① 資金、 ② ボランティア活動 (ノウハウ)、 ③「心」の3つです。

①「おまつり」は事業ですからやはり資金が必要です。韓国に進出の日系企業や韓国企業に協賛のお願いをしています。
②両国のボランティア老若男女が年間を通してひざを突き合わせ、口角泡を飛ばして議論して作り上げる「手作りのおまつり」なのです。このプロセスがノウハウとなって蓄積されてきています。
③お互いが相手の立場を理解し、判断をするという韓国熟語「易地思之」の心を持って、この「おまつり」を継続しています。
スタート以来、一度も休むことなく今年で13回目をむかえる「日韓交流おまつり」には紆余曲折がありました。
特に、2012年夏にイ・ミョンバク(李明博)大統領が竹島に上陸、その後天皇発言をして以来、日韓関係は急激に冷え込みました。
2013年は日本では安倍政権が、韓国ではパク・クネ(朴槿恵)政権が誕生しましたが、翌2014年に入っても首脳会談開催もままならず、日韓関係は戦後最悪の状況が続きました。

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そんな中、その年の「おまつり」にユン・ビョンセ(尹炳世)外相が「おまつり見物」という気楽な気持ちで非公式におまつり会場を訪れました。驚くことに、これが韓国の外務長官と日本の別所駐韓大使の初対面であったのです。
そして翌2015年9月の「おまつり」には、今度はユン・ビョンセ(尹炳世)外相が公式に出席され、祝辞まで述べられたのです。その影響もあったのでしょう、政治・外交上の雰囲気も急激に改善され、11月には初のパク(朴)・安倍首脳会談が開催され,その年の瀬の12月28日に慰安婦問題の合意に至ったのでした。日韓最大の文化イベントの「日韓交流おまつり」が両国の友好親善促進に大きく寄与したと自負しています。
まさに「たかがおまつり、されどおまつり」であると言えるでしょう。

最近の日韓関係の大きな特徴は、指導者レベルでの「信頼崩壊」と市民レベルでの「意識共有」の併存と言えます。政治指導者間が知恵を出し合い信頼を回復し、領土や歴史的問題の摩擦を最小限に抑制できれば、日韓関係の改善は可能であると思います。そのためには指導者レベルでの「信頼回復」の努力とそれを可能にする「成熟した外交」が求められます。

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世界のグローバル化、ボーダレス化が加速している中、 日韓両国は民主主義、市場経済主義、そして類似の文化を共有するアジアにおける2大先進産業国家なのです。図に示されるように国家の民間活力(一人当たりGDP)はアジアの中で群を抜いているのです。 日韓両国が更なる補完的な協業を図ってリーダーシップをとっていくことがアジア全体にとって極めて重要なことは言うまでもありません。
経済、文化、地方自治体、青少年、観光、スポーツなどの民間草の根交流活動が両国のパートナーシップを実現しています。私はこの「おまつり」を両国の若い世代に引き継ぎ、これから100年続けようと呼びかけています。「たかがおまつり、されどおまつり」なのです。
やがて 「日韓交流おまつり」に代表される民間草の根交流活動が政治・外交の指導者を動かし、彼らが「両国はパートナーでなくてはならない」ことを悟る時代が来ることを期待しています。

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