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「築地・豊洲論争の本質は」(視点・論点)

2017年6月小池都知事は「築地は守る 豊洲はいかす」、「築地は5年後をめどに再開発していく。食のテーマパーク機能を有する新たな市場、築地のブランド力・地域の魅力を一体化させた食のワンダーランドを作りたい」と中央卸売市場とは何かを理解せず、東京都がやるべきことと民間企業がやるべきことをはき違えた政策を打ち出しました。

中央卸売市場は1923年(大正12年)に制定した中央卸売市場法に基づき設置されました。1918年に富山県の魚津で米騒動が起き、政府が食料の集荷と配分の機能を負わせ、都市の消費者の為に、小売市場への安定供給と卸売物価の引き下げを目的としました。
 戦後70年を経て水産物の流通形態は大きく変りました。日本の国内漁業の資源乱獲から中央卸売市場が取り扱う生鮮魚の入荷が大幅に落ち込みました。

外国出荷者も築地市場のコスト高とせりや値決めの不透明さから、築地市場へは出荷せず欧米へ販売する例が増大しました。

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また、中央卸売市場を経由しない市場外の流通も現在は50%近くに達します。中央卸売市場は国内業者からも外国業者からも通過され、その必要性は低下しました。

だとしたら、法律に基づき、多額の税金を投入して整備する必要があるのでしょうか。豊洲市場の整備に6000億円の税金の投入をしましたが、収入源としての築地市場への水産物の入荷量が激減しているのに水産卸売、仲卸青果施設と千客万来施設など必要規模より大型化しました。

 食の品質と衛生の向上は閉鎖性の市場で確保されます。水産卸売棟と水産仲卸売棟と青果棟の温度も、それぞれ10.5度と25度と14~15度となります。水産物の劣化を防止するため海外市場は0度を採用しています。そして、水産物の置き場と入札場所を分離します。働く人に配慮するならセリ場を外に出すことです。水産物の衛生・品質の維持するのか、働く人の健康を優先するのか中途半端な対応は避けるべきです。

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 オランダの花市場やノルウェーの水産物入札では、全てITにより入札します。日本では、セリ人のセリで落札価格も共有されません。オランダではデスクトップからの入札情報をインプットし瞬時に落札価格が共有されます。世界中から入札に参加できます。

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シドニー市場では、数値化した鮮度、漁場情報を入れます。刺身用の高級鮮魚、シドニー沿岸魚とその他の3種類に分け、時計大のスクリーン上で価格の下げセリを行います。指値はキーボードに入れこみます。豊洲市場では、だれでも購入の資金信用力などを満たたせば、ITで市場の水産物を世界のどこからでも買え、羽田空港から購入物をシンガポールや上海とソウルなど世界にその日のうちに送付するシステムにすべきであります。

豊洲は水産物の集荷のセンターであります。水産卸売業者と仲卸業者ともには当然豊洲市場に集まるものとの期待感を有しますがこれは誤りです。

入荷量を増大させるには、日本の200カイリ経済排他的水域内の資源の回復が急務です。このことに対して中央卸売市場の関係者は、これまで他人事の対応です。築地市場に行けばたくさん小型魚や質の低下したクロマグロが販売されています。

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現在は乱獲や不十分な資源管理でクロマグロ、スルメイカ、サンマと枯渇が進んでいます。
これに対して、サイズの小さいクロマグロなどは一切購入しない姿勢が必要ですが、その姿勢がなく、どんな物でも直ぐに購入する姿勢は乱獲推進へ加担しています。待てば資源は3年程度で回復します。資源管理が機能して入荷量が増大しない限り豊洲で扱うものがなくなります。それでは市場の意味は薄れます。水産物を供給する使命を果たすことは資源管理にも市場が責任を持つことで初めて達成されます。
 豊洲市場施設内の輸送も旧態依然です。仲卸業者は運搬用のターレを使用します。オランダの花市場を見ると、運送小型トラックの導線が市場内に敷かれ、自動での運搬が可能です。豊洲市場では一人一人が、少量の荷物を載せ、約2000台のターレを保有・運転するので、経費が膨大で無駄であります。施設内合理化には手をつけず高コスト体制を維持しています。これでは価格競争力を失って、世界から魚を売ってもらえなくなってしまいます。

行政では、東京都職員が豊洲市場建設に際し適切な卸・仲卸業者数の提示、情報IT化や流通導線の合理化、衛生管理の面について積極的に提案を出すことを怠たりました。その結果基本的に豊洲市場が築地市場の延長の機能を有しております。近代化のチャンスを失いました。
また卸売業者や仲卸業者などの事業者も自ら率先して市場機能の近代化を提唱することもなく、自分の販売店の敷地が狭いなどの苦情を述べ、仲卸業者の多くは移転反対を続けました。入居する彼らは、負担額もコスト意識も薄かったのです。市場全体の建設も企業債を含め原資は税金に頼り切りました。
膨大な金額を費やした「ツケ」は納税者である都民と消費者に回ってきますが、都民も自分が負担しているという意識がありません。中央卸売市場会計など一見難しいことにも関心を持つべきです。でないと、問題が将来の世代に先送りされます。
 ところで行政、業界と学会のどこにも日本橋から築地、豊洲新市場までを基礎的に説明した情報が見当たりません。
 中央卸売市場を卸、仲卸、買参人、潮町茶屋から構成されることも知りません。
 海外にも発信していません。基礎的な情報があって初めてIT化や市場の経営と物流の合理化も理解できます。基本の勉強をすすめることが大切です。
          

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