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「どう進める ヒアリ対策」(視点・論点)

国立環境研究所 生態リスク評価・対策研究室長 五箇 公一

ここ最近、ヒアリ侵入のニュースが相次ぎ、大きな騒動となっています。
このアリは南米原産で、近年、アジア太平洋地域でその分布を広げており、世界的にも侵入が警戒されている種です。
巨大なコロニーを形成し、巣に近づくものには相手構わず大量の働きアリが襲いかかり、強力な毒針で刺してくる、危険なアリです。

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人間も刺されると強烈な痛みが走り、この毒に対してアレルギーがある人の場合、じんましんや動き、呼吸困難といった全身症状が発症し、放置すれば最悪死に至るアナフィラキシー・ショックを引き起こします。
このアリは2005年までには、台湾および中国南部でも侵入が確認されており、いつか日本にやってくると、私自身、警告していました。

そしてそれが現実となり私も大変なショックを受けています。
昨年度までにわたしたち国立環境研究所は、すでにヒアリの侵入予測を立てていました。

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ヒアリが生息するエリアからのコンテナ輸入量をもとに日本各地の港湾施設における侵入リスクを評価した結果、東京、横浜、名古屋、大阪、神戸、福岡がもっともリスクが高いと予測されました。
それが2017年5月26日神戸市でヒアリが発見されたのを皮切りに、まさに予測通りにこれらの港で次々とヒアリが発見されたのです。
当たってほしくない予言が的中してしまいました。
また7月10日には愛知県春日井市でヒアリの個体が確認され、港から内陸部にもヒアリが運ばれていることが明らかとなりました。
環境省および全国の自治体は、次はどこに出て来るかと戦々恐々となっています。
その恐れがあたるかのように24日に大分県でヒアリが確認されました。
もはや海運国家としてヒアリがどこから入ってきてもおかしくないことが示されました。

国土交通省は、ヒアリの生息国又は地域との定期コンテナ航路を有する全国の68港湾に対して、ベイト剤と言われる殺虫成分を含む餌剤をじゅうたん爆撃的に設置する方針を発表しました。しかし、この方針に対して私はすぐに反対して、方針の見直しを求めました。
ベイト剤は、殺虫剤入りの餌を働きアリに巣に運ばせて巣内の幼虫や女王に摂食、つまり食べさせることで、最終的に巣を崩壊させるという薬です。
従って、巣が見つかってもいないところで使用してもその薬効は期待できません。
また、ランダムにベイト剤をばらまけば、そのエリアに生息する在来アリが先に餌剤を摂食してしまい、それら在来種が減ってしまうことで、エリア内の生態系が砂漠化してしまう恐れもあります。
港湾エリアなんて人工的に造成された土地であり、そこに住む昆虫なんていなくなっても構わないではないかと思われるかもしれません。
実は、上陸して来た新参者かつ少数派である外来アリに対して、在来アリが攻撃を仕掛けることで、その繁殖を阻害する効果が期待されるのです。
実際に海外では、在来アリ類が豊富なエリアの方が外来アリの侵入が起こりにくいというデータも報告されています。
ベイト剤の使用については、まず綿密にモニタリングを行い、ヒアリ類の存在を確認することを前提とすべきです。
現在、環境省では、まず港湾およびその周辺エリアにおいてアリ類の調査を徹底することとし、存在が確認されたエリアについてはベイト剤もあわせて設置し、繁殖を予防するという方針に切り替えています

そもそもヒアリは日本に定着できるのでしょうか。
ヒアリは熱帯〜亜熱帯域の気温が高いエリアに生息する種とされますが、実際には巣穴さえ確保できれば日本の冬は乗り切れる可能性があります。
特に横浜港では、アスファルトの割れ目で営巣していた可能性が指摘されており、
このことは、彼らは街中のコンクリートやアスファルトの隙間を活用して巣を広げることができることを示唆しています。
彼らは都会のジャングルでも、電気や下水などの都市インフラの熱源を利用して、かなり緯度の高いエリアでも分布を広げる恐れがあります。
すでに日本の環境は人間の手によって大きく改変されており、外来生物は予想外の広がりを見せることがあります。
したがって、ヒアリについても日本各地で十分な警戒態勢をとっておく必要があります。

輸入されたコンテナ類は、国内の様々な地域に移送されており、ヒアリはどこに運ばれてもおかしくありません。
そうなると我々の身近なところに彼らが突如現れることもありえます
どうやったらヒアリを見分けて、刺されるのを防ぐことができるのでしょうか。
ヒアリの見分け方についてメディアや政府が盛んに広報していますが、わずか数ミリのアリが足元を歩いているのをみて、ヒアリと瞬時に見分けることは、昆虫学者でも簡単なことではありません。

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また、一番わかりやすい目印とされるアリ塚は、相当に巣が大きくならないとできないので、アリ塚が出没する頃には刺される被害も多数報告されていることでしょう。
まだひとつも巣が見つかっていない現段階から、アリさえ見ればヒアリかも、と恐怖心を抱くのも不便で仕方ありません。
まず、万が一にヒアリに刺された場合の対処法を身につけておくことが肝要です。
アリに刺されて激しい痛みを感じた時は、そのアリがヒアリである可能性を疑い、一人きりにならないようにします。
アナフィラキシー・ショックは10分〜30分という比較的短時間で現れるので、身体に異常を感じ始めたらすぐに周囲の人に助けを求めて、救急車を呼んでもらいます。この一連の応急処置をできるだけ広く認知してもらうことが重要です。

もしヒアリが定着してしまったら防除はできるのでしょうか?
この防除技術については我々国立環境研究所が、ヒアリ以上に増殖力が強いとされるアルゼンチンアリを対象として開発した駆除手法が応用可能と考えています。
我々は働きアリの行動範囲を常に監視しながら、そのエリアにベイト剤を定期的に設置し、行動圏の変化に合わせて、防除エリアや薬量を見直すという「順応的」防除を実施することで数年以内にアルゼンチンアリの地域個体群を根絶させることに世界で初めて成功しました。
防除技術の基礎はすでに完成しており、ヒアリについても早期に定着を発見できれば、こ
の技術を活用して速やかに根絶できると確信しています。

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また防除成功の鍵を握る早期発見技術についても、国立環境研究所では、LAMP法という、ヒアリDNAを短時間に検出する手法を開発し、キット化を目指しています。
この方法を使えば、調査現場で採集したアリを、ヒアリかどうか、すぐに判定することが可能となります。
かつて他国でヒアリの防除が失敗していたとしても、現在の日本にはそうした失敗事例も含めて最新の情報および技術が備わっています。
少なくともヒアリを野放しに増やすようなことは起こらないと考えています。

今回のヒアリ騒動は、我々日本人とヒアリとの果てしない戦いの序章にすぎません。
中国との貿易が続く限り、ヒアリの侵入は今後も続きます。
また中国と貿易しているアジアの他の国にもこのアリは広がって行くと考えられます。
今後はアジア全体で連携してヒアリ対策に取り組むといった国際協力が必要とされます。
それにしてもヒアリのせいでうかうか原っぱにお尻をついて花見やピクニックも楽しめなくなるかもしれないなんて、実に寂しく、悲しい出来事です。
しかし、そんな危険な外来アリを導いたのも、我々日本人が利便性を求めるあまり、グローバル化に依存してきた結果に他なりません。
これを機会に、我々日本人が自身の生活スタイルを見直すことも大切なことだと思います。

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