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「増える『エネルギー永続地帯』」(視点・論点)

千葉大学大学院 教授 倉阪 秀史

日本では、東日本大震災のあと、再生可能エネルギーの導入が進んでいます。
きょうは、その可能性、問題点と、企業主体ではなく、地域主体で再生可能エネルギーを導入することの重要性について、お話しします。

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再生可能エネルギーは、太陽の光や熱、水力、風力、地熱、生物を資源とするバイオマスが実用段階に達しています。
再生可能エネルギーの主な源である太陽エネルギーは、人類が使用するエネルギー量の1万倍の規模で地球に到達しています。再生可能エネルギーは量的には十分あります。日本は、再生可能エネルギーが豊かな国です。地熱の存在量は世界3位、降水量は世界6位で、国土の約3分の2が森林で覆われています。再生可能エネルギーは、石油や石炭と違って、得られる場所が地域的に偏っていません。再生可能エネルギー基盤の経済に移行できれば、化石燃料を巡る争いから解放されます。
2011年の東日本大震災のあと、日本では、再生可能エネルギーの導入が進んでいます。私の研究室と環境エネルギー政策研究所は、共同して、全自治体の再生可能エネルギーの供給量を推計する研究を12年間続けてきました。この研究では、住み続けるために必要なエネルギーとして、農林水産業用と民生用のエネルギー需要をとりあげ、これを計算上再生可能エネルギーで自給できる「エネルギー永続地帯」である自治体を公表してきました。

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その結果、電気と熱の双方を自給できる市町村の数は、2011年度末の50から、4年間で71に増加しました。電気だけ自給できる市町村は、この間、85から111に増加しています。

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都道府県単位では、地域のエネルギー需要の10パーセント以上を再生可能エネルギーで賄いうる都道府県数が、この間、8県から25県になっています。再生可能エネルギーによる供給が無視できない大きさになってきています。

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このように再生可能エネルギーの供給が増加した結果、2015年度には、日本全国の発電量の14.5パーセントが再生可能エネルギーで供給されるまでになりました。ちなみに、原子力発電は0.9パーセント%で、太陽光発電による供給の方が、原子力発電による供給を上回っています。
では、なぜ、日本で再生可能エネルギーの導入が進んだのでしょうか。大きな要因は、2012年7月から施行された「再生可能エネルギー特別措置法」にあります。この法律では、再生可能エネルギーで作られた電気について、投資収益が十分に確保できる水準として定められた価格で20年間にわたって買い上げることを、電力会社に義務づけています。
しかし、この法律は、企業主体で日本に再生可能エネルギーを導入しようとする法律です。このため、さまざまな問題が発生しています。

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第一に、地域の風土に合わない計画が地域外の企業によって進められるケースがあることです。山林を破壊したり、景観を害したりする計画がみられるようになってきました。
第二に、再生可能エネルギーの投資資金を集められる者がますます儲けることができるシステムであることです。すでに資金を持っている人がお金を借りやすい日本では、薄く広く電力料金に上乗せされたお金で運営される固定価格買い取り制度によって、富める者がますます儲けることができる仕組みとなってしまっています。
第三に、企業主体で導入するために投資収益を高めに見込んで買い取り価格を設定しているため、国民負担が大きいことです。たとえば、事業用太陽光発電は、投資収益率を当初6パーセントに設定して、買い取り価格を決めました。条件の良い場所では想定以上の収益を得ている企業も現れています。
では、固定価格買い取り制度をやめてしまうべきでしょうか。わたしは今やめてしまうのは最悪の選択だと思います。すでに固定価格買い取り制度の対象となった設備を持っている企業は、買い取り対象期間は儲け続けます。そして、何よりも今以上に再生可能エネルギーが広がることはありません。
そこで、わたしは、企業主体による再生可能エネルギーの導入から、地域主体による再生可能エネルギーの導入に政策転換すべきであると考えます。
そもそも、再生可能エネルギーは地域の資源です。

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この写真の左手前には、昆布の収穫の風景が写っています。漁業権の対象となっている昆布は域外の人が勝手に持っていくことはできません。

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一方、この写真の右奥の風車は、都会の資本によって設置されていて、発電収益は都会に持ち出されてしまいます。
地域主体での再生可能エネルギーの導入とは、地域がその地域の再生可能エネルギー資源の開発権をもっていることとし、地域住民が主体的に再生可能エネルギーの開発計画を進めることができるように政策的に支援することを指します。固定価格買い取り制度は維持しますが、銀行に預け入れるよりも高い利率を確保する程度に投資収益率の設定を抑えます。
この政策には、次のようなメリットがあります。

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第一に、人口減少に直面する地域に新しい収入源を提供できることです。農林水産業の就業者が高齢化し、農地や林地が次第に荒廃しています。農林水産業などの副収入として再生可能エネルギーを位置づけ、地元資本で再エネ開発ができれば、地域に人を残せます。これまで域外に流出していた地域のエネルギー支出を地域内の雇用につなげられます。
第二に、地域の風土に合った再生可能エネルギーの開発が行われる可能性が高まることです。地域が開発主体となれば、地域の風土に合わない開発を無理に進めるケースが少なくなるでしょう。
第三に、儲けるための投資ではなく、将来世代のための投資として、資金調達できることです。たとえば、林業は次の世代のための木を植えてきました。再生可能エネルギーへの投資も、次の世代のための投資です。さまざまな企業が業界の垣根を越えて、ひいては外国からも参入するような高い投資収益率を確保しなくても、地域の未来を考える人が投資しやすい環境を作れば、将来世代のための投資は行われるはずです。
第四に、地域のエネルギー政策が立ち上がれば、これまで十分に推進されてこなかった再生可能エネルギーのうちの「熱」の活用策につなげることができます。再生可能エネルギーのうちの「熱」は、固定価格買い取り制度の対象ではなく、その導入のペースが落ちています。熱は電気と違って遠くに運べないため、まちづくりの一環として熱を供給するための管を敷設するなど、地域で有効活用を図る必要があります。
第五に、地域の安全安心につながることです。自前のエネルギー源があれば、大規模災害の際や、将来的に化石燃料供給に不安が生じた場合など、安全安心な地域として人や投資を呼び込むことができます。
地域主体で再生可能エネルギーを導入するためには、まず、地域がその権利があるということを明確にした上で、地域主体を育成し支援すべきです。たとえば、岐阜県では発電目的で農協を設立した事例があります。地元の人が出資する事業主体を作りやすくすることです。次に、その事業主体が資金調達しやすくすることも重要です。たとえば、再生可能エネルギー目的の少額投資を非課税とする再エネNISAのような政策が考えられます。さらに、地方自治体が再生可能エネルギーの開発を自分の仕事として位置づけるための政策も必要です。また、地域外の企業が地域の再生可能エネルギーを使ってあげた収益については、自治体が条例で課税するということも考えられます。たとえば、原子力発電では、核燃料税を自治体がとっているケースがあります。
企業主体の再生可能エネルギー開発から地域主体の再生可能エネルギーに転換することができれば、儲けるために再生可能エネルギーを開発するのではなく、ずっと地域を持続させるために再生可能エネルギーを開発する政策に切り替えることができます。地方創生の切り札として、再生可能エネルギーに着目すべきなのです。

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