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「性犯罪厳罰化 被害者救済のためには」(視点・論点)

弁護士 望月 晶子

性犯罪は、警察が把握しているだけで、ここ数年、強姦は年に1200件、強制わいせつは7000件くらい起きていますが、これは氷山の一角に過ぎず、多くの性暴力被害者は声もあげられず苦しんでいます。そういった被害者や支援団体の声の高まりも受け、性犯罪の規定が厳罰化され、施行されました。性犯罪が刑法で規定されてから110年ぶりの大きな改正となりました。
これから、その改正のポイントと、まだ残っている課題についてお話させていただきます。

まず、今回の改正のポイントは大きく4つあります。
1つ目は、強姦罪が強制性交等の罪になりました。具体的にどういうことかといいますと、強姦罪は、女性に対し暴行や脅迫をしてセックスつまり性交すること、でしたが、強制性交罪は、性器と性器の性交だけでなく、肛門など性器以外で行う性交も処罰対象となりました。それに伴って、性別を問わず全ての人がこの犯罪の被害者となりうるということになりました。
次に、2つ目のポイントです。強姦罪はこれまで親告罪でしたがそうでなくなりました。

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親告罪というのは、「被害にあいました」という事実を話すだけではなく、被害者が積極的に加害者の処罰を求める、これを告訴といいますが、告訴をして初めて事件になる、というものです。今後は、この告訴が不要になりました。被害者の負担が一つ減った、ということです。
3つ目のポイントは、刑が重くなりました。これまで強姦罪は3年以上の懲役刑、とされていたのが、5年以上、と最低ラインが3年から5年に引き上げられました。

そして、監護者、つまり親等子どもの養育をする者による性犯罪についての規定が新しくできました。これは親による性虐待が多いという背景があります。

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これまでの刑法では、13歳未満と性交をした場合は無条件で処罰されますが、13歳以上と性交して処罰されるのは、暴行や脅迫を用いた場合に限られていました。ですが、まだ一人で生活していくことが難しい子どもに対し、その面倒をみている親等が、子どもの弱い立場を利用して性虐待を行うような場合には、13歳以上であっても18歳未満であれば、暴行や脅迫がなくても処罰されることになったのです。
明治時代に作られた法律がようやく見直されたことは一歩前進、ではありますが、まだまだ問題は残っていると思います。ここからは、さらに改善すべきと私が考えていることをお話させていただきます。

先ほど、強姦罪が強制性交罪になり、対象が広がったと説明しましたが、犯罪が成立するためには加害者から暴行や脅迫を受けて性交されたことが必要、という点は変わっていません。この条件は本当に必要なのでしょうか。内閣府の調査では、女性の15人に1人は性交を強要されたことがある、という結果がでています。しかし、処罰されるのはごくわずかなケースです。

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それは、犯罪となるのは、被害者の抵抗を著しく困難にする程度の暴行、つまり非常に激しいレベルの暴行脅迫があった場合に限る、という厳しい条件が付けられているからです。
実際に、裁判でも、「殴る等のひどい暴行は加えられていない」「覆いかぶさって足を押さえつけ服を脱がせた程度」「下着が破れたり傷んだりしていない」「叫ぶ等強い拒絶は示していない」等激しい暴行はない、という理由で無罪にされているケースがありますし、そもそも激しい暴行の証明が難しいとして裁判にすらならないケースは少なくありません。また、逃げきれないと思った被害者が「避妊具をつけて」と言ったことで、同意したんだろう、と言われてしまうようなこともあります。
ですが、暴行もなく、いきなり覆いかぶさられるなどの不意打ちのような場合でも、被害者は恐怖で抵抗できないのがむしろ普通です。同意していないのに性交を強要していいはずがありません。それなのにこのグレーの部分は今の法律では野放しになっています。そして、ここに該当して泣き寝入りしている被害者は大勢いるはずで、ここを救う必要があると思います。
この点、外国では、例えばフランスでは不意打ちによる場合、イギリスやアメリカのニューヨーク州では同意がない場合は犯罪と規定されており、日本でもさらなる見直しが必要と考えます。

次に、親等・監護者による性犯罪の規定が新しくできましたが、子どもに近くかつ支配的な関係を持ちうるのは、親等の養育者に限られません。例えば、先生やコーチといった指導的立場にある人にも子どもが逆らうのは容易ではありません。まだ未熟で弱い立場にある子どもを守るために、親等に限定することなく、子どもが心理的に抵抗できないような関係性にある場合に広げるべきと考えます。

次に、時効についてですが、時効停止のような制度を検討すべきです。強制性交罪の時効は10年、強制わいせつの時効は7年ですが、特に、子どもが被害にあった場合に、されたことの意味がよく分からなかったり、支配的な関係にある人から被害を受けて誰にも言えなかったりえないということがあります。そうすると例えば、8歳の子どもが被害にあっても、強制わいせつなら15歳のときに、性行為を強要されてしまったケースでも、18歳になったら時効が成立してしまい、加害者は処罰されないということになります。このような不都合を解消するため、外国では、子どもについては、成人してから時効のカウントをスタートする、という制度を設けているところもあります。民法も含め、時効について見直す必要があると考えます。

次に、犯罪予防、再犯防止ですが、多発している性犯罪をなくしていくためにも、他人の嫌がることはしない、性行為は合意に基づいてするものだ、という基本的な人権教育や性教育、性暴力による被害の深刻さ等を義務教育で教えることが重要でしょうし、そして、事件を起こした場合には、刑罰以外にもカウンセリングや再犯防止教育、また、社会に復帰した際には、社会の中でのサポートも、再犯防止に必要でしょう。

そして、最後に、被害者のケア、ですが、現在、性的な被害にあった人が、そこに行けば必要な治療やサポートが受けられるワンストップ支援センターというものが、全国に40近くできています。

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しかし国連は、ワンストップ支援センターを女性20万人あたりに1か所作るように、としています。現在日本の女性の人口が6500万人くらいですから、全国に300か所くらい必要ということで、まだまだ充分ではありません。また、これまで性犯罪の被害者は女性、と思われがちでしたが、私が運営しているNPOでも、1割は男性被害者からの相談ですし、性的マイノリティーLGBTの方からの相談もあります。ですが、このような方々の相談窓口は極めて少ないです。一日も早く、全ての被害者が必要なサポートを受けられるような体制を整えることが必要です。

110年ぶりの改正によって、性犯罪に対して社会の意識も高まったと思います。しかし、最後にもっとも強調しておきたいことは、被害者にも落ち度があったのではないか、といった偏見でみられることがまだまだ多いという現実です。せっかく刑法が変わっても、被害者が偏見を恐れて声をあげられなければ意味がありません。被害者を責めるのではなく、被害者の痛みを理解する社会に変わることがいま求められています。

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