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「プルトニウム被ばく事故を考える」(視点・論点)

法政大学大学院 客員教授 宮野 廣

今日は、先日、原子力研究開発機構JAEAの大洗研究開発センターで発生した「プルトニウム被ばくの事故」について考えたいと思います。

今回の事故は、実験で使い終わったプルトニウムなどを貯蔵する容器の点検中に、作業員が容器を開けたところ、内部の袋が何らかの理由で破裂し、プルトニウムの粉末が飛び散り、作業員5人が被ばくしたというものです。1945年の米国のマンハッタン計画での作業員の被ばく事故があげられていますが、数100から6000Bqのプルトニウムを体内に取り込んだという事例として、示されています。
それに比べて、今回の事故では、当初、2万Bqという極めて大量のプルトニウムが体内に取り込まれたという発表があり、驚きの目で注視していました。
しかし、最近の発表で明らかとなったように、測定時に表面に付着したプルトニウムの除染が十分なものではない状態で、計測してしまったものと説明されています。
さらにその後、全員の尿からごく微量のプルトニウムが検出され、内部被ばくをしていることが確定しました。放射線医学総合研究所では「すぐに健康に影響が出るとは考えていない」と説明していますが、今後も健康状態を注意深く見ていかなければなりません。
「今回の事故がどのように起きたのか」という事に関しては、既にJAEAの発表もあり、次のような背景があったと推察されます。

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一つは、プルトニウムを貯蔵する容器が長期間放置されていたことは一般的なことであり、一般廃棄物の処分程度に考えていたこと。
一つは、ガスが出て膨らんだ状態もあり得ることも理解はしていたが、プルトニウムの個体が爆発的に飛び散るようなことが起きるとは想定していなかったこと。
そのため普段と変わらず、簡単な防護マスクを付けただけで、処置に入ったものと考えられます。
そもそも、本来厳重に管理すべきであるプルトニウム貯蔵容器を、20年以上点検していなかった上に、どんな状態で保管されているのかも把握していなかったのであり、プルトニウムの管理のずさんさが引き起こした事故といえるでしょう。
事実を明確にすることはもちろん重要なことであります。
しかし、今回の問題で最も重要なことは、「なぜ、事故を起こさせてしまったのか」ということです。 
どのような経緯で事故が起きたのか、は分かったのですが、その根本にある”要因”が何か、ということを明らかにして、対応しなければ、同様の事故が再び起きることにもなりかねません。
現場の行為のどこに問題があったのか、という単純な問題ではなく、安全を確保する仕組み、管理上の問題が重要な論点であると言えます。
今回の事故が、なぜ起きたのかの、技術的な問題よりも、管理上の問題の方が重大であるということです。
JAEAは、これまでも長年、このような安全管理の仕組みに問題があるとの指摘を受けてきました。

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平成27年、2015年には、「もんじゅ」の運用問題をめぐって、原子力規制委員会が「安全を任せられる組織ではない」と、JAEAに対して根本的な改善を求める勧告を発したのであります。
それを受け主管の文部科学大臣は、有馬東大名誉教授を主査として諮問委員会を立ち上げ、その結果として改善項目、実施項目を、報告書として、昨年2016年6月にまとめられました。
そして昨年暮れ、「もんじゅ」に関しては、「廃炉」を決定して決着を見たものでした。
私も検討会の一員としてこの問題に取り組んできました。
JAEAの組織に安全管理上の問題があると、原子力規制委員会は指摘し、「もんじゅ」ではその対応を検討してきたのです。
「もんじゅ」の廃炉が決まってしまえば、JAEAの重大な安全管理上の組織問題はなくなった、ということではないはずです。
「もんじゅ」で指摘された安全管理上の問題は、「もんじゅ」だけではなく、JAEA全体の組織、経営トップの問題でもありました。それを管理してきた文科省にも問題はあります。しかし、それを指摘して、「もんじゅ」を廃炉にまで追いやった、原子力規制委員会はどのように考えていたのでしょう。矛を収めて何も発言しなくなったのは、JAEAの管理問題は解決したと理解していたということなのでしょうか。
今回の、プルトニウムの保管容器の点検は、原子力規制庁、原子力規制委員会の指摘で行われたものであり、どのように実施すべきと指摘されたのかは、知る由もありませんが、規制庁規制委員会では作業を進めるにあたり、安全管理上、核物質の管理上、問題ないと判断してのことであったのでしょうか。なぜ、作業マニュアルを出させるなどの安全管理の確認と対応を取らせなかったのでしょう。
今回の「プルトニウム漏えい問題」は、JAEAが組織として、安全管理を任せられない、という指摘がそのまま残っていることを示しています。

JAEAは、2012年来、組織改革など根本改革に取り組み、品質管理、安全管理を十分にできるものとした、と主張されていたと思いますが。あの何年にもわたる組織改革はなんだったのでしょうか。
昨年の12月の時点で、原子力規制委員会はJAEAの組織改革を認め、十分に安全管理のできる体制ができたと判断された、と理解します。
しかし、JAEAも原子力規制委員会も、この問題、「安全確保を行える組織にする」ということに真摯に対応していたとは言えない、と言う結果を示したのが今回の事故ではないでしょうか。
わが国の原子力の安全研究を、一手に主体的に進めるJAEAは、組織全体として、安全管理を任せられる組織にすることが求められており、組織全体の安全管理点検を早急に進め、国民にわかるように示さなければならないと言えます。
原子力規制委員会は、原子力に係わる全ての組織が「安全管理を任せられる組織となっているのか」、それを判断する責務を負っているものと言えます。
まず、JAEAに投げかけた勧告の結末を、国民に明確に示すことが必要でしょう。その上で、原子力規制委員会は、全ての組織に対して「安全管理ができる組織」であるのか否かの判断をこれからも進めて行くことを明確に示さなければなりません。
今回の事故は、幸い重大なものではなかったようですが、
米国のマンハッタン計画での事故以来の、Pu被ばく事故となりかねなかったものです。
JAEA、原子力規制委員会ともに中途半端な安全管理への取り組みにより、事故が発生したと言わざるを得ません。
今回の被ばく事故は、福島の廃炉での同様の問題にも通じるものであり、国全体として原子力に係わる安全管理体制を確固たるものにしなければなりません。
事故が、作業員の不注意により起きた、という目先の責任のみに帰着されるようであれば、更に重大な事故に至る恐れが残ることになります。
安全確保には、人と資源の投入が必要だということも忘れてはなりません。
国もJAEAも、加えて福島の廃炉プロジェクトの組織も、これを機会に、安全確保の管理の本質に、真剣に取り組むことを願うものです。

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