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「世界とつながる私たちの消費」(視点・論点)

NGO難民を助ける会 理事長 長 有紀枝

 昨年7月、バングラデシュの首都ダッカで、外国人が多く集まるレストランを武装集団が襲撃、日本人の援助関係者7人を含む、22人が殺害されるという大変痛ましい、テロ事件が発生しました。ご記憶の方も多いと思いますが、では、同じくバングラデシュのダッカ近郊でその3年前、2013年4月に発生した8階建てのビルの倒壊事故はいかがでしょうか?縫製工場が多く入った商業ビルで、3000人を超える女性や少女が劣悪な環境下で、働いていました。事故の前からビルの壁には亀裂が入り、大型発電機と何千台というミシンの振動とがビルの崩壊を招いたと言われています。この事故で1000人を超える人々が犠牲になりました。衣料産業で働くのは10代から30代の女性たち。賃金もインドや中国の3分の1程度といわれます。

いかなる理由であれ、テロを正当化することはできません。しかし、その背後にある人権侵害や貧富の格差、貧困から私たちは目をそらすことができません。なぜなら、そうした安全や労働環境に配慮せず、賃金を不当に安くおさえることで可能になる、低価格の衣類、ファスト・フードになぞらえ、ファスト・ファッションとも呼ばれる、世界的に大量に生産され、販売される衣類が、私たちの身近にあふれているからです。
大切なお金を無駄にしないこと、安い品物を買うことは一見、大変道徳的で倫理的な行為です。しかし安いことの背景に、こうした人権侵害があり、私たちが消費者として、知らず知らずにその構造や仕組みを肯定し、加担しているとしたら、私たちは堅実な消費者として胸を張れるでしょうか。

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今から3年前の2014年、パキスタンの少女、マララ・ユスフザイさんにノーベル平和賞が贈られました。同時に受賞したカイラシュ・サティヤルティさんは、児童労働に反対するインドの活動家です。児童労働根絶に向けた世界的なネットワーク作りにも尽力し、織物業界で、細かな織りのじゅうたんなどの製品が児童労働によって作られていないことを認定する「グッド・ウィーブ」というNPOを設立しています。チョコレートを食べたことのない子どもたちが、カカオ豆の栽培にも携わっているなど、消費者としての私たちと世界の貧困や児童労働は深くつながっているのです。
だからこそ、「フェア・トレード」商品、文字通り「公平・公正な貿易」の意味ですが、途上国の生産者に不当な扱いや不利益を強いることのない取り引きによって輸入された製品をできるかぎり選ぶ、あるいは、人権や環境、社会問題に配慮して素材を選び、生産された商品を販売している「エシカル・ファッション」を選択する。エシカルとは倫理的、という意味ですが、まさにそうした選択や行動が、人権や貧困問題に私たちが向き合う一つのヒントを提示してくれています。
 私たちに身近な携帯電話やスマートフォンも紛争とは無縁ではありません。携帯電話の心臓に当たる電流を制御する超小型コンデンサーの製造には、耐熱性に優れた金属元素タンタルが欠かせません。そのタンタルの原鉱石コルタンをめぐって、また携帯電話の小型電池に使われるコバルトをめぐって、コンゴ民主共和国では採掘にかかわる強制労働や資源の配分を要因とする紛争に拍車がかかっています。
環境や人権に配慮した衣服や食材は選べても、携帯の部品やパーツまでは選べないと思われるかもしれません。
しかし、オランダの社会的企業「FairPhone・フェアフォン(公正な電話)」は、鉱物調達のみならず、製造に関わる労働者の権利を守り、製造から廃棄まで包括的に環境への負荷を減らすことを目的としたスマートフォンを発売し、大きな話題を呼んでいます。エシカル・ファッション同様、エシカル・携帯、エシカル・スマホも夢物語ではないのです。
私たちが消費者として関わる、という点については、兵器も同様です。
1990年代後半から2000年代にかけて、非人道的な2つの通常兵器の使用や生産を禁止する条約が作られました。対人地雷禁止条約と、クラスター爆弾禁止条約です。
クラスター爆弾は親爆弾に数十から数百の子爆弾が詰められた非常に破壊力の強い兵器です。地上からロケットで打ち上げられたり、航空機から投下されたりした親爆弾が、空中で割れ、子爆弾が広い範囲に飛散します。親爆弾を投下する航空機の高度や子爆弾の落下の角度、地表の状態、不良品の混入などにより、不発率が高いのも特徴です。その不発弾が地雷と同じ働きをすることから、「第二の地雷」「事実上の地雷」とも呼ばれています。
第二次世界大戦で初めて登場し、ベトナム戦争でも米国がラオスで大量に使用しました。ラオスでは、現在もその被害が深刻です。さらにその後も、コソボやアフガニスタン、イラク、レバノン、そしてシリアでも使用されています。 
被害者の圧倒的多数は、紛争とは無関係の民間人です。
90年代、対人地雷の禁止キャンペーンでは、各国政府に条約への参加を呼びかけるとともに、製造企業や部品を納入している企業に生産中止を働きかける取り組みが行われました。さらに進んでクラスター爆弾の禁止運動では、投資を行う金融機関や年金基金に対して、クラスター爆弾をはじめとする、武器製造企業への投資を禁止するよう求めています。
先日、クラスター爆弾の製造企業に対し、世界の金融機関166社が過去4年で310億ドル(約3兆4千億円)を投融資したとする調査結果をオランダのNGO「PAX・パックス(平和)」が発表しました。5月にはこの調査の担当者が来日し、「戦争に加担する投融資が行われないように、日本政府にも取り組みを呼びかけたい」と語りました。
なぜ日本なのか。それは、現在、クラスター爆弾禁止条約には119か国が署名、うち101か国が批准していますが、2013年6月から2017年3月にかけて、PAXがクラスター爆弾を作る米中韓の主要企業6社の取引を調査したところ、投融資した金融機関数は米国が圧倒的に多く85社、続く中国が30社、韓国が27社、台湾が5社でしたが、これらはいずれも、クラスター爆弾禁止条約の未加入国です。その次に続いたのが、4社と数は少ないものの締約国の日本だったのです。
SRI、「社会的責任投資」という考え方があります。これまで、投資というと、その企業の業績や財務状況から投資先を判断するのが一般的でした。しかし、こうした従来の基準に加えて、その企業が、人権や環境、紛争、社会問題にどのように配慮し、倫理的にどのような社会的責任を果たしているのか、そうした観点から投資先を選ぶ行動のことです。
日本では、世界の紛争や平和、武器の問題について考える際、(水爆実験による被害は別として)、「唯一の被爆国日本」として、被害者としての視点から、核兵器の非人道性を訴えることに重きが置かれることが多かったように思います。これは非常に大切な取り組みですが、同時に、先進国の消費者である日本人として、世界の紛争や貧困の問題に積極的にかかわる視点を、エシカル・ファッションや、こうしたNGOの取り組みは教えてくれているように思います。

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