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「生物の大量絶滅と火山大噴火」(視点・論点)

東北大学大学院 教授 海保 邦夫

きょうは、地球の生物の大量絶滅の原因についてお話しします。

生物、なかでも動物の種の80パーセント以上、科の20パーセント以上が絶滅した場合に、大量絶滅が起きた、と言います。個体数はもっと減っていて、動物などを発見することはほとんどできない状態になります。大量絶滅が起きると、生き残った生物から大規模な進化が起き、新しい生物が出現します。

地球が誕生してから46億年が経っています。多細胞動物が生まれたのは7億年ぐらい前です。それから2億年ぐらいの間で、動物の大規模な進化が起きました。脊椎動物、軟体動物、節足動物など、現在見られる13種類の動物すべてが出そろいました。その後の5億年間に、5回の大量絶滅が起きた結果として、現在の動物がいます。

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大量絶滅の中で、一番有名なのは、5回目の大量絶滅でしょう。恐竜やアンモナイトなどが絶滅しました。この原因は、メキシコのユカタン半島で起きた小惑星の衝突と考えられています。その衝突クレーターができた年代は、大量絶滅の年代と同じでした。

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衝突により空高く飛び散った小惑星に多い元素と地下の有機物が燃えてできたすすが、ここに濃集、濃く集まっています。これらは地球をおおい、数年間のうちに降り積もり、地層にその濃集層を形成したのです。この地層の中の化石の種が大量に絶滅しています。衝突とすすの生成と大量絶滅が起きたのが同時とわかります。この同時性から、この大量絶滅の原因は、小惑星の衝突と言えるのです。クレーターの直径は180キロで、これは小惑星の速度の2乗と大きさを掛け合わせると算出できます。小惑星の速度が秒速20キロぐらいなので、小惑星のサイズは 9キロと推定されます。
では、この衝突で、どのようにして大量絶滅が起きたのでしょうか?

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衝突のエネルギーにより、衝突を受けた堆積岩の温度が上がるため、中の有機物の一部はすすになります。空高く放出されるすすは、太陽光を吸収します。放出されるすすの量は、東京ドーム1000倍の量に相当します。私たちの気候シミュレーション計算によると、このすすの2割が、高度約10キロ以上の成層圏に入り、地球をおおい、衝突から1か月後に、地上に届く光は、2割まで減少し、同時に地球全体で10℃の気温低下、陸上のみでは15℃の気温低下を起こしました。気温低下により海水の蒸発量が下がり、降水量は平均で2割にまで減少しました。気温低下は極付近から中緯度で大きく、降水量は赤道付近で砂漠状態になりました。その結果、中高緯度では気温低下のために恐竜が絶滅し、赤道付近では植物が枯れて食物連鎖的に恐竜が絶滅したと考えられます。しかし、ワニを頂点とする食物連鎖は枯れた植物を栄養源とする小動物から始まるので、ワニは生き残ることになります。ほ乳類はすみかが穴で、食物が木の実などのため、生き残ったのでしょう。この大量絶滅の結果、ほ乳類の大進化が起き、人類が誕生しました。

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3回目と4回目の大量絶滅は、大規模な火山活動と同時であるので、原因は、大規模な火山活動と考えられます。

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大規模な火山活動は、二酸化硫黄ガスを放出します。成層圏に入った場合、1年後には硫酸エアロゾルになり、太陽光を反射します。結果として、寒冷化が起き数年間続きます。また、大規模火山活動は、Co2ガスを放出します。大気に入ったCo2ガスは温室効果のため、温暖化を10年後から数百年間起こします。火山噴火は広大な地域で長期にわたり継続します。それらの積算として、寒冷化につづく温暖化が起き、絶滅の規模を増幅し、回復を遅らせます。大規模な火山活動地域は3回目の場合はシベリアに、4回目の場合は大西洋が形成される前の地域にありました。両者とも2000キロ以上に渡る地域が玄武岩質の火山帯で、最大級の規模です。3回目の大量絶滅は他の4回よりもずっと大きな大量絶滅です。これを境に主たる動植物の種類が変わりました。生物と環境の回復に500万年を要しました。極端な温暖化が長期に続いていたからです。

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1回目と2回目の大量絶滅の原因はわかっていませんでしたが、私たちは1回目の大量絶滅の原因は3回目、4回目と同じ大規模な火山活動であるとしました。大規模火山活動に特有の水銀の濃集が、遠く離れた2地点の大量絶滅時の堆積物の中に見つかったからです。米国ネバダ州と中国です。3回目と4回目でも濃集していますが、それが1回目で見つかったのです。火山の場所は特定されていませんが、原因と見られる可能性のある火山活動はありますので、今後、火山地帯探しが始まるでしょう。
この発見の結果、5回の大量絶滅の内少なくとも3回は火山活動で、1回は小惑星衝突である可能性が高くなりました。2回目の大量絶滅の原因はいまだ不明ですが、小惑星の衝突ではない証拠があります。小惑星衝突にしては、特有の元素が少ないからです。小惑星の衝突よりは、大規模な火山活動の方が大量絶滅の原因として多いのです。
なぜ、大規模な火山活動と小惑星の衝突が大量絶滅の原因になるかというと、それらは、寒冷化を起こす物質を成層圏に上げるエネルギーを持ちうるからです。温暖化は大量絶滅を起こしにくく、小規模の絶滅に留まる場合が多いです。温暖化で高緯度はかえってすみやすい環境になるからです。温暖化は100年オーダーの時間がかかりますから、移動が可能です。すすによる寒冷化は1か月、硫酸による寒冷化は1年で起き、ともに中高緯度の凍結をもたらし、低緯度では砂漠のような降雨量となります。
火山と衝突の規模だけでは絶滅の規模は決まりません。硫酸とすすが寒冷化を起こす物質であるため、堆積岩中のそれらの量と火山または衝突の規模を掛け合わせた「積」から、気温低下と絶滅の規模を推測することができます。5回目の大量絶滅の衝突現場も、3回目と4回目の火山地域も、当時の堆積岩はすすの元になった有機炭素と硫酸の元になった硫黄に富んでいました。
このようなことは将来起きるのでしょうか?地球に生物がいられる時間は限られていますが、その間にまだ数回は起きるでしょう。人類の近い将来に起きる確率は極めて少ないのですが、より小規模の被害は起きる可能性が十分にあります。わずか7万年前にインドネシアで噴火したトバ火山噴火で人類は危機的状況になったのです。今回紹介した事態は、現代人が経験している自然災害よりはるかに大きい被害をもたらし、生物を危機的状況に追い込みました。その規模が大きくなるほど発生確率は減ります。5億年間に5回の大量絶滅が地球の生物の進化と種類を決めてきたので、大量絶滅の原因を知ることは、現在生きている生物の存在理由を知ることにもつながります。
今、人間の活動により環境の破壊が進み、一部の生物が絶滅の危機にひんしています。6回目の大量絶滅に発展するかいなかは、私たち人類が今後、どのように活動するかにかかっているのです。

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