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「乳幼児期のスマホとの付き合い方」(視点・論点)

相模女子大学 准教授 七海 陽

持ち運びも操作も簡単で、1台で何役もこなすスマートフォンは、ほんの数年で私たちの生活に無くてはならない存在となりました。こうした中、電車や病院、飲食店などで、乳幼児が保護者のスマートフォンやタブレット端末を小さな手に持ち、上手に扱う姿を目にすることも多くなっています。こうした、いわゆる「スマホ子守」などの言葉が表すように、その弊害について社会的な懸念も広がりつつあります。今日は、このスマホ育児の本質的な問題と、どのようにすれば適切な使い方ができるのかを考えます。

乳幼児にとって、スマートフォンやタブレット端末は、自ら小さな手で握ることができ、指先でタッチすると画面の中が変化したり音が聞こえてきたりする、とても楽しいものです。

5月に内閣府が発表した調査結果によりますと、乳幼児のスマートフォンの利用率は、0歳で3%、1歳で6%、2歳になると31%に上昇し、4歳児では41%となっています。タブレット端末も2歳で17%、6歳児では31%となっています。

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また、ある民間の調査によりますと、“子ども一人で操作できるデジタルメディアは何か”という質問に対して、スマートフォンをあげた人は1歳後半児で23%、2歳児で35%、3歳児で41%であり、テレビに次いで高い比率となっています。

では、乳幼児はスマートフォンなどでどのようなことをしているのでしょう?

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保護者へのアンケートによりますと、0歳から2歳児は、「その機器の中にある写真や動画を見る」が53%ともっとも多く、次に、「写真や動画を撮る」が30%となっており、乳幼児の頃から、最先端の情報機器を操作していることがわかります。

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3歳から6歳児でも、同様ですが、0から2歳児に比べて「ゲームをする」が34%、「知育系アプリ」が24%と増えています。

 このように、育児にスマートフォンを取り入れている保護者は増えてはいますが、その一方で、乳幼児期からスマートフォンなどのデジタルメディアを使って大丈夫なのかと不安に感じている保護者も多くいます。
先ほどのアンケートによりますと、子どもが機器を利用することによるトラブルや影響を気にしているかについて、9割以上が何らかの懸念や不安をあげています。具体的には、「視力や脳、運動能力や心理発達への悪影響の有無」(54.7%)、「睡眠時間や睡眠の時間帯と、健康や成長の関係」(46.9%)といった、心身への影響への関心が高い保護者が多く、「子どもへの節度ある使わせ方のコツ」(39.3%)が知りたいという声も多くなっているのです。

 では、不安を感じながら、なぜ保護者はスマートフォンを子どもに利用させているのでしょうか。次の調査からは、乳幼児の保護者が、「子守」をさせたくてスマートフォンなどを子どもに与えているわけではない一面もみえています。

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 どのような場面で子どもがスマートフォンやタブレット端末など情報機器を使うのかという質問に対して「家事などで手が離せない時」(31.7%)、「自家用車で移動している時」(23.1%)、そのあとに「子どもが騒ぐとき」(21.4%)、「外出先での待ち時間」(19.3%)、「電車などで移動中」(16.1%)となっています。
 これらから、一人で育児を担わなくてはならないという、今の時代の子育ての大変さや、子どもが騒ぐと冷ややかな目で見られたり、周囲に迷惑をかけてはいけないという親の気持ちが垣間見えます。このようにスマホがなかなか子育てから切り離せない、そうした時代にあるからこそ、乳幼児期にどのように適切にスマホとつきあっていくかを考えなくてはなりません。

しかし、急速に普及したスマートフォンなどの利用が直接の原因で乳幼児の発達に悪影響を及ぼすという、科学的根拠のある研究はまだありません。ただ、間接的に、睡眠時間の減少などが健康な発達へ影響を及ぼす可能性が指摘されています。

そこで、参考にできるのが米国小児学会の提案です。
米国小児学会(AAP)は2016年10月、0歳から5歳までの乳幼児が、テレビやスマートフォンなどを過剰使用した場合の発達へ及ぼす影響と、教育的な効果をもたらすための方法について、次のように提案しています。

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デジタルメディアの過剰使用により、子どもの他の遊びや睡眠などの発達に必要な睡眠時間が減少することにより、後の肥満などのリスクがあるので、2歳~5歳の使用時間は1日1時間以下にすること。乳幼児にとって睡眠は、脳、身体、情緒の発達に非常に大事なのです。
また、教育的な効果としては、子どもは視聴したものから多くの学びを得ることができるため、保護者は視聴させる内容を教育的および社会的なものにし、親子で楽しむこと、などです。

そして、家族に対して、次のような具体的な提案を行っています。

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・生後18ヶ月未満の乳児には、応答性のあるテレビ電話などの使用にとどめましょう
・生後18~24ヶ月の乳児が利用する場合は、ひとりでの利用は避けましょう
・乳幼児が使用するときは、品質の高い内容に限定し、保護者は子どもが観ているものを理解し、それを自分の日常世界に活かすのを手助けしましょう。
・乳幼児を落ち着かせるためだけにデジタルメディアを使用するのは避けましょう

こうした米国小児学会(AAP)の宣言と提案を参考に、日本でも低年齢児のデジタルメディアを使用する場合の適切な方法に関する研究が進んできています。
 
学識経験者や保護者などでつくる民間の、「子どもたちのインターネット利用を考える研究会」では、私もその委員を務めていますが、子育ての負担が大きい乳幼児の保護者が、特に注意を払うべき内容を厳選し、保護者自身の「気づき」を目的とした「保護者向けセルフチェックリスト」を作成しました。
ぜひ乳幼児を育てる保護者に活用していただきたいです。

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リストには、利用を1日1時間程度にする、ベットに入る一時間前には利用を終わらせるなどの利用のルールについて、人と話している時は使わないなど保護者自身の機器の使い方を含めて、具体的な生活場面を想定した16のチェック項目とその理由を確認することができます。
意識していただくとよい点は、ご家族で約束を作ったら、子どもと大人が共有して一緒に守っていくことです。これにより、子どもの生活習慣づくりの一部としてデジタルメディアの利用習慣も確立していくことが期待できるでしょう。

以上、乳幼児とスマートフォンなどのデジタルメディアとのつき合い方について述べてきましたが、デジタルメディアを使いこなす、学んでいくという面についても触れていきます。

デジタルメディアの映像表示技術は、エンターティメントだけでなく医療、教育にも浸透し、私たちの暮らしに大きく役立つものになっていくでしょう。
この時代に育つ乳幼児が大人になり、変化し続ける国際社会や世界経済の中で活躍するためには、これらの技術を主体的に有効活用できる力、リテラシーを、この先成長する過程で身につけていく必要があります。
「スマホ育児」を否定的な視点のみで議論していても、本質的に子どもたちのためになるのかわかりません。
私たちは今、子どもたちのために、この問題を多様な視点と角度から論じ、国、自治体、保育・教育業界、産業界など社会のさまざまな立場において、子育て支援と教育の観点から対策を講じ、連携していく必要があります。

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