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「復帰45年目の沖縄を考える③『基地と沖縄経済』」(視点・論点)

沖縄国際大学 教授 前泊博盛

 今日は「慰霊の日」です。72年前の沖縄戦で犠牲になった20万人余の冥福を祈りたいと思います。
沖縄は今年「本土復帰」45年の節目です。終戦から27年間の軍政下で、沖縄には県土を覆う広大な軍事基地が建設されました。基地は「銃剣とブルドーザー」と呼ばれる強権的な手段で、家屋や田畑を踏みつぶし、住民を銃剣で排除して建設されました。本土の基地の87%が国有地ですが、沖縄の基地の77%を民有地と公有地が占め、国有地が少ないのは、そのためです。

1952年に「サンフランシスコ講和条約」が発効した後も、沖縄はアメリカ軍の統治下に置き去りにされました。日本国憲法の庇護もない米軍統治下で基地建設は加速され、沖縄経済は基地に依存する「基地依存経済」の様相を深めていきました。

そのころ、日本本土はその後「アジアの奇跡」と呼ばれるほどの復興を遂げます。特に1960年代は「高度経済成長時代」と呼ばれ、所得倍増計画が華々しく打ち出され、世界の先進国の仲間入りを果たしました。

しかし、軍統治下にあった沖縄は、経済発展から取り残され、朝鮮戦争やベトナム戦争の出撃基地となり、多くの基地犯罪や演習事故の犠牲を強いられました。女性暴行事件も多発しました。読谷村では自警団を組織して女性たちを守ったとの記録もあります。

人権と主権を取り戻そうと、沖縄では「日本国憲法の庇護の下へ」という声が高まり、「本土復帰運動」が本格化しました。終戦から27年後の1972年5月15日。沖縄の「本土復帰」、いわゆる「沖縄返還」が実現しました。

「沖縄返還」を受け日本政府は、米軍政下で遅れていた空港、港湾、道路、学校、病院、ダム、公共施設などの整備を加速するため沖縄開発庁を設置しました。「本土との格差是正」を柱に、「沖縄振興開発計画」が策定され、「復帰特別措置」などの支援措置が講じられました。その結果、空港、港湾、道路、学校などのインフラ整備は一気に進みました。しかしながら、復帰後45年を迎える今でも、「本土との格差」を含め、沖縄経済は復帰前と変わらない多くの課題を抱え続けています。

検証してみましょう。

 沖縄はいま、好調な観光産業が注目を集めています。観光客は毎年急増し、ここ3年は連続二けた増です。昨年は前年比11%増の861万人と800万人越えています。

中でも外国人観光客は急増し、昨年はついに200万人を超えました。県内の観光地は韓国、台湾、香港、中国からの観光客であふれています。

その観光収入は復帰時の324億円から2014年には5342億円と16倍に増えています。昨年は6000億円を越え、復帰時には「基地収入」の3分の1程度だった観光収入は基地収入の3倍を超える基幹産業に成長しています。

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職業別の賃金分布を示すグラフを見てください。
沖縄県は宿泊・飲食業などの第三次産業の比率が高く、製造業などの比較的高賃金で雇用安定度も高い第二次産業の就業比率が全産業の15%程度と全国最低です。一方で、低年収が課題の第三次産業比率は76%と東京都の77%に次ぐ全国2位となっています。

沖縄は「観光立県」と言われますが、観光業の中核を担う「宿泊業・飲食業」の所得は、年収100万円以下が最も多くなっています。全国では製造業が大きな雇用のヤマを作っていますが、年収は300万円を超え、1000万円を超す所得のヤマも伸びています。

観光業界の課題は低賃金構造。沖縄県は観光収入の経済波及効果は1兆143億円とアピールしていますが、年収100万円を切る低賃金に2万3千人が喘ぎ、将来も年収400万円越えは「夢のまた夢」と嘆く業界関係者も少なくありません。「観光業の低賃金構造」は、沖縄の低所得の原因の一つと指摘されています。

最近の好景気の中で、沖縄県の有効求人倍率も1倍を超え「人手不足」が深刻化してきています。しかし観光業も含め、正社員になれるのは6割程度。42%に当たる23万7千人は「非正規」社員という全国一過酷な雇用環境にあえいでいます。

全国平均は55%と二人に一人が大学にいく時代に、沖縄県の大学進学率は40%と全国最低です。伸び悩む進学率の背景には、低所得の問題が指摘されています。沖縄県は子供の貧困問題も深刻で、貧困率は全国ワーストの現状が続いています。

山積する課題に心も折れそうになるのが沖縄経済の現状ですが、山積する課題が逆に沖縄経済の夢と可能性を示しています。
高失業率は「全国一雇用しやすい場所」。低賃金は「企業誘致のマグネット」。離職率は「人材の流動性」。高開業・高廃業率は「創業精神の旺盛さ」。低進学率は「教育ビジネスと人材育成の潜在的可能性」を示していると沖縄県はアピールしています。

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図表は、基地返還前と後の経済効果の比較です。いずれも返還後が30倍から100倍も経済効果が高くなっています。返還効果は絶大です。沖縄県の試算では、基地があるための逸失利益は「毎年1兆円」とされています。
沖縄は「基地依存経済」で、「米軍基地撤去で県経済は破綻する」と言われてきましたが、大規模な基地返還の跡地を見る限り、基地経済の不経済ぶりが顕著になってきています。
 
 その基地問題では、普天間問題が注目されています。

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図表は、復帰後の沖縄での米軍機事故のデータです。
政府は「普天間は世界一危険な基地」として「危険性除去には辺野古への移設が唯一の解決策」と強調しています。そして、沖縄本島北部の辺野古沖に新基地建設を強行しています。
 しかし、本当に普天間は「世界一危険な基地」でしょうか。データをみると米軍機事故は、「普天間基地内」では16件。一方で「嘉手納基地内」では489件。普天間基地の30倍も事故が起きている計算になります。データを見る限り、最も危険な基地は「嘉手納基地」です。でも、なぜか政府は嘉手納基地の移設の話はしません。不思議です。

「普天間は世界一危険」というのは政府による印象操作の印象さえ受けます。
もう一つ、データをみると、むしろ普天間を飛び立った米軍ヘリは、基地外で事故を多発させています。基地が危険ではなく、飛び立った米軍機が危険。その意味では、基地の移設は抜本的な問題解決策とはいえそうもありません。
 
いま、沖縄県経済の新たな可能性を示すのが「新10K経済」です。
新10K経済とは、基地、公共投資、観光の3K経済の新しい展開です。新7Kとは環境、健康、金融、教育などです。合わせて「新10K経済」といわれます。
基地経済は、返還による新たな経済拠点に、観光は医療ツーリズムなどの高付加価値ビジネスへ、公共事業は環境再生や補修ビジネスに、増える高齢者の移住者向けの健康ビジネス、金融特区や鉄道、モノレールの延伸など交通ビジネスなど新10K経済が、沖縄県の新たな経済戦略として注目されています。

沖縄は「基地のない平和な沖縄」を求めて、45年前、「本土復帰運動」を展開しました。しかし、本土復帰した45年後の今も国土面積の0.6%に過ぎない沖縄県に、70%を超える米軍専用施設が集中しています。沖縄本島の2割近くを占める米軍基地は、今後の返還促進で日本の「経済基地」へと生まれ変わる可能性が高まっています。

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