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「復帰45年目の沖縄を考える②『過去と未来を分かち合うために』」(視点・論点)

ジャーナリスト 津田大介

 戦後、米軍によって統治されていた沖縄の施政権が、日本に返還され、まもなく45回目の、慰霊の日を迎えます。
 現在の沖縄は観光業が好調で、ある調査会社の調べによれば、40カ月連続で景気動向指数、全国1位を記録しています。そんな、沖縄の経済発展を阻んでいる、大きな要素の一つとして、沖縄における米軍基地の問題があります。

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 復帰以降、約35%が返還され、昨年12月には県内最大の米軍専用施設だった北部訓練場の約半分が返還されましたが、防衛省によると、現在の米軍専用施設の面積は沖縄県内だけで1万8609ヘクタールに及びます。国土面積でいうと、「0.6%」しかない沖縄に、全国の米軍基地の70.6%が集中するという構図は変わっていません。
 実は、本土に復帰した1972年時点での米軍基地の集中度合いは今より低い58.7%でした。復帰以降35%も基地が返還されたにも関わらず、なぜ集中度合いが上がるのでしょうか? 理由は簡単です。沖縄よりも、本土の方が、米軍基地の整理・縮小が進む度合いが大きかったんですね。本土の米軍基地がどんどんなくなっていく中、沖縄の基地は温存され、その結果、米軍基地の「集中度」は、復帰後むしろ上昇しました。
 戦後、沖縄復帰を進めた佐藤栄作政権は「核抜き、本土並み」という方針を掲げました。これは、返還にあたって沖縄に配備されている核兵器を撤去する代わりに、返還後の沖縄にも日米安保条約を適用するというもので、つまりは、復帰後も沖縄の米軍基地が存続することを意味しました。そのため、日本政府がこの方針を掲げたときには、多くの沖縄の人たちから反発を受けました。
 沖縄の人たちの思いとは裏腹に、1971年6月には、この「核抜き、本土並み」の方針で沖縄返還協定が結ばれました。東京の首相官邸で行われた調印式には、沖縄の屋良朝苗(やら・ちょうびょう)琉球政府主席も招かれましたが、屋良主席は「県民の立場からみた場合、わたしは協定の内容には満足するものではない」として出席しませんでした。このことからも、当時の沖縄県民が返還協定をどのように受け止めたのか、その一端を知ることができます。
 「核抜き、本土並み」は、米軍基地が復帰後も沖縄に残り続けるという意味で多くの沖縄人を落胆させるものでしたが、その一方で、沖縄の米軍基地負担を本土と同じレベルまで、つまり本土並みに軽減するという日本政府から沖縄県民への約束でもありました。
 さて、復帰から45年が経ち、復帰時の約束である沖縄の基地負担は本土並みになったのでしょうか? 冒頭で紹介した「国土面積の0.6%の沖縄に、全国の米軍専用施設の70.6%が集中」というデータを見れば一目瞭然です。基地負担は本土並みになるどころか、増えているのです。
 こうした経緯があるにもかかわらず、政府は米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設を強行しようとしています。
 いま「移設」という表現を使いましたが、この言葉は正確ではありません。なぜなら、普天間飛行場の施設がそのまま辺野古に移動するわけではないからです。新しい辺野古の基地案では、普天間飛行場にはない軍港機能や燃料桟橋、弾薬庫などが追加されています。単なる「移設」ではなく、機能強化した基地を「新設」する計画になっているのです。「機能強化した基地」が辺野古に新設されることで本当に沖縄県民の負担が減るのか、そのことを考えなければいけません。
 かつて沖縄は、「基地がなければ経済的にやっていけない」と言われていました。実際にデータを見ると、復帰前の1960年代では、県民総支出における基地関連収入の割合が25~40%と高く、基地に依存せざるを得ない構造がありました。しかし、近年は徐々に基地が返還され、その跡地の再開発に相次いで成功したことから、2010年度にはこの割合が5.3%まで減りました。その過程で「基地がない方が経済がうまくいく」という意識が県民の間に浸透してきました。沖縄県民の多くが米軍基地に対して否定的なのは、反戦平和という観点だけでなく、経済的な理由も背景にあるのです。

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 近年、沖縄と本土の溝が深くなっていると言われています。それは、今年の春に行われたNHKの沖縄に関する全国世論調査でも明らかです。「現在、本土の人は、沖縄の人の気持ちを理解していると思いますか」という質問に対して、沖縄と本土で11ポイントの差が付いています。

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 また、「米軍基地について、沖縄は他の県とくらべどう扱われていると思いますか」という質問に対しては沖縄と本土で16ポイントの差が付きました。それだけ沖縄の人は本土から差別されているという感覚を強く持っているのです。

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 沖縄県民向けの「ここ5年ほどの間に、沖縄を誹謗中傷する言動や行動が増えたと感じますか」という質問に対して、増えたと感じる人が57.1%と、半分以上の人が本土から沖縄に対する感情が悪化したと感じています。ネットで沖縄関連のニュースを見ると、「沖縄は振興金目当てでゴネている」「基地反対運動をしているのは沖縄県民ではなく、中国に雇われた工作員だ」といった偏見のコメントに満ちています。
 沖縄と本土の溝はなぜうまらないのか? それは「沖縄を苦しめている様々な要因は、本土側がつくったものである」という認識が本土の人々に共有されていないことと、本土の人々が沖縄固有の文脈をまったく無視して「沖縄とは○○である」と断定的に語ってしまうことにあると私は考えています。

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 例えば、今回の世論調査で沖縄の米軍基地について尋ねたところ、沖縄県民でもっとも多かった回答は「全面撤去すべきだ」ではなく、「本土並みに少なくすべきだ」でした。沖縄県民の多数派は「沖縄から全て基地はなくしてくれ」ではなく、「せめてほかの都道府県並みに米軍基地を少なくしてくれ」なのです。
 本土から沖縄を批判する声の中に「安全保障上、地理的に仕方ないんだから我慢しろ」という意見があります。それは現実主義的な意見に見えますが、安全保障という国全体で考えなければいけない問題を沖縄という一地域に押しつけてるに過ぎません。
 今必要なのは「安全保障の最前線」である沖縄が置かれている厳しい現実に本土の人々が目を向けることであり、沖縄の基地問題は沖縄だけの問題ではなく、日本の全国民が当事者である問題だという意識を本土の人々が持つことです。
 沖縄の人と話すと「どうせ本土に何を言っても状況は変わらない」という強い諦めの気持ちを感じます。沖縄の人がなぜこれだけ怒ったり、主張したりしているのか。それは今までの歴史的な経緯があるからです。沖縄の人たちに取材をしていて感じる共通の思いは、「本土の人たちは、今までの歴史的経緯を知ってから沖縄について語ってくれ」という思いです。彼らがなぜ怒っているのか、そのことをきちんと理解することから始めるべきです。過去と未来を分かち合い、この問題を解決できるのは47都道府県分の46という圧倒的な力を持つ、我々本土の有権者以外にはいないのですから。米軍基地が集中する状況が変わらない限り、沖縄の戦後は終わらないのです。

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