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「復帰45年目の沖縄を考える① アジアの『共通の平和』を求めて」(視点・論点)

法政大学名誉教授、日本ユネスコ協会連盟理事長 鈴木佑司

今日は、復帰45年目の慰霊の日をまもなく迎える沖縄について考えてみたいと思います。少し視点を広げて、アジアの中の沖縄、そしてその視点から見た沖縄が果たす役割について検討してみたいと思います。

6月23日は沖縄での組織的戦闘行動が終わった日、慰霊の日です。沖縄での日米の戦闘は大変激しいものでした。日米の軍人を含む24万人もの犠牲を出した激しい戦争でした。多くの民間人が犠牲となりました。しかし、本土に訪れた平和は沖縄には訪れませんでした。米軍の占領が続きました。むしろ1950年6月25日に始まった朝鮮戦争は、米軍の基地の拡張をもたらしました。そして、1952年4月28日にサンフランシスコ講和条約が発効した後には、本土には主権が戻りましたが、沖縄は本土から切り離されて、琉球政府という自治政府が成立しました。しかし、自治とは名ばかりで実質的にはアメリカの施政権下に置かれたのです。

ようやく沖縄に主権が回復されるのは、1972年5月15日です。それは同時に沖縄の本土復帰の日でもありました。にもかかわらず、それは「本土並み」の平和が訪れたことを意味しませんでした。米軍専用施設が占める日本での面積の70.6%が沖縄に集中しているのです。青森県や神奈川県と続く他県と比べて群を抜いています。しかも、領空に関してもアメリカ軍用の空域が圧倒的です。加えて、復帰後の世界情勢の変化に応じ、基地機能は極東地域と言われた領域の安全から、明らかに広がりを見せた「周辺地域」に拡大され、さらには1990年代には中東地域を含むはるかに広い領域のそれに拡大されてきました。米軍人による犯罪も一向に減少せず、安心、安全は確保されたとはとても言えない状態がいまだに続いています。

では沖縄にどうしたら平和が訪れるのでしょうか。これまでの議論は、特に冷戦の終結をきっかけとするアメリカ軍のいわゆる「前進基地戦略」の見直しを手がかりに、現在問題となっている普天間基地の返還など、米軍基地の縮小、県外移転、さらには基地の撤収といった選択肢の検討という形で進んできました。しかし、アメリカにとっても、日本にとっても、そして沖縄にとっても満足できる結論を得られていないのが現状と言わざるを得ません。実際、安倍政権によって進められている現在の普天間基地の辺野古への移転は、「世界一危険性の高い普天間基地」の県内移転でしかありません。やはり、長期の視点に立った安全保障政策の構築が欠かせません。

ではどんな安全保障政策がありうるのでしょうか。多くの識者が説くように、安全保障、より厳密には国家的安全保障は、軍事的手段によってのみ確保できるものではなくなっています。非軍事的な手段による安全の確保はどの国家にとっても喫緊の課題になっています。我が国においても、著しくグローバル化が進んだ1980年代以降は、日米安全保障条約という二国間の取り組みだけではなく、むしろ近隣諸国をすべて含む、つまり敵も味方も包摂した包括的な地域安全のプロセスを築くという試みが進みました。アジアにおいていち早くこうした試みを実現したのが1967年に設立された東南アジア諸国連合、ASEANです。そしてこのASEANと緊密な経済協力関係を築いた日本は、ASEANとの関係を軸に1989年にAPEC(アジア太平洋経済協力会議)、さらには経済協力から安全保障に進んだ1995年にASEAN地域フォーラム(ARF)の設立に指導的な役割を果たしました。二国間から多国間、そして何よりヨーロッパで進んだ冷戦後の地域的安全保障のプロセスを築いた「共通の平和」へのアジアにおける取り組みでした。要するに、軍事的手段と非軍事的手段のベストミックスを求めることが、新しい時代の要請だったと言えます。

ところが、今世紀になってグローバリズムとその地域における実現を求める地域連合の設立と拡大は一直線には進まないことが明らかとなってきました。奇妙なことにこうした反グローバリズムは欧米や日本といったグローバリズムを領導した先進国にも、そしてその先進国に追いつこうとするBRICSと呼ばれるブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ諸国にも生まれることになりました。とはいえ、グローバルな人、モノ、金、情報の動きはとどまるどころか一層加速しつつあります。長期的にはどの国家も共通の問題、例えば貧富の格差の是正、環境、人権の保護等々の課題に対応せざるを得ません。できることからできる方法で一つ一つ課題を解決することが避けられないのです。まさにこうした「機能的統合」と呼ばれるグローバル化への対応が欠かせないのです。

ではこうした課題と沖縄の課題はどうつながるのでしょうか。私の主張は、まさにこうした視点の展開が沖縄の課題の解決には欠かせないという点にあります。一つ面白い前例をご紹介したいと思います。今世紀初頭、グローバル化の波に乗って東シナ海、南シナ海、インド洋はアジア各国の商船とタンカーで溢れるようになりました。そしてそこに生じたのが海賊の跋扈でした。2001年に当時の小泉首相のイニシアティブで「アジア海賊対策地域協力」の必要性が提唱され、2004年11月には交渉に参加したASEAN、日中韓を含む16か国によって採択され、2006年9月に発効し、早速同年11月にはシンガポールに情報共有センター(ISC)が設置されました。これがReCAAPと呼ばれる協力協定です。現在、アメリカを含む20か国が参加しており、日本はずっとこの協定の事務局長を務め、大幅な被害の削減に貢献してきました。

現在「共通の平和」を求めることが急を告げているのは、アジア地域の安全を脅かす事態が生じつつあるからです。その始まりは2010年以降尖閣諸島の領有に反対する中国の動きの活発化です。中国は南シナ海に点在する諸島や岩礁への領有権を主張し、合意形成を図らずに一方的に基地建設を進め始めました。2016年7月12日に、ハーグの南シナ海仲裁裁判所は、フィリピンの主張を認めて、中国の領有権主張に根拠がない趣旨の判決を発表しました。残念なことに中国はこの判決を尊重する気配を示していません。

こうした中国の動きに刺激されて地域各国が主権を主張し、軍拡に走るという動きを惹起しています。そしてアメリカはこの海域で「航行の自由」を確保する行動をとり、我が国もそのアメリカに協調する動きを強めていることは周知の通りです。まさにこうした危機状況にあって、沖縄の軍事的役割を強化するのではなく、むしろ非軍事的な手段による地域的な安全と安心を実現するプロセスを沖縄から始める必要があるという点です。

こうした海域をめぐる争いの原因の一つは域内国家のいずれにおいてもますます必要性が増している漁業権の確保です。要するに経済的権益です。そして、交渉を通じて地域的取り決めを必要とすることへの共通認識が強まっています。沖縄はこうした多国間の「共通の平和」のプロセスを築く「要石―キーストーン」となるべきです。これまでの多くの漁業交渉は主権問題に絡み決して平坦ではありませんでした。日中、日韓、日ロの漁業協定はお互いに矛盾する点をも抱えています。こうした二国間交渉の問題性にかんがみ、関係国が合意できる多角的交渉を始める必要性が強まっています。日本のイニシアティブが望まれるゆえんです。加えて、その事務局機能を、沖縄が果たすべきだということも提唱したいと思います。こうした小さな一歩が、長期的に見て「共通の平和」のプロセスを築く重要な一歩となると同時に、地域的な信頼醸成を通じた沖縄の基地の縮小という選択につながると信じます。

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