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「土砂災害から身を守るには」(視点・論点)

砂防・地すべり技術センター 専務理事 大野 宏之

6月が始まりました。6月は土砂災害防止月間です。土砂災害に関する知識を普及し災害から身を守ることができるよう防災訓練、講習会など多くのイベントが国、都道府県、市町村、NPOなどによって行われます。

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日本では、毎年平均1000件を超える土砂災害が発生しております。昨年も1492件の土砂災害が発生しました。これは最近十年では最も多い発生件数となっております。

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4月に発生した熊本地震や年間6個も上陸した台風による被害、梅雨時の豪雨などがその原因です。特に、熊本地震による阿蘇山の大規模な斜面の崩壊や多数発生した地すべり等は地域に大きな被害をもたらし、今なお、そこに住む人々の暮らしに大きな悪影響をもたらしています。
また、8月の台風10号は、過去にあまり台風被害の出なかった東北や北海道でも多くの被害を発生させました。台風が東北地方の太平洋側に上陸したのは気象庁が1951年に統計を開始して以来初めてのことでした。記録的な大雨が降った岩手県岩泉町や北海道十勝川流域などでは山の斜面が崩れ、土砂や流木が下流へ押し寄せ、被害を発生させました。

我が国では、なぜ土砂災害が多いのでしょうか。土砂災害が発生する主な原因は、豪雨、地震、火山活動の3つです。日本は台風も多く、梅雨もありますから、雨による土砂災害が多いのですが、地震も発生しやすく、火山活動も110の活火山を抱え非常に活発です。また、地形が急しゅんで、地質は脆弱です。さらに都市部の拡張などにより、土砂災害の起こりやすい危険な箇所に多くの人が住んでいます。これらのことから、土砂災害が極めて発生しやすい自然条件・社会条件を抱えた国であると言えます。

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土砂災害は突発的に発生するため、予知・予測が難しく人命被害が発生しやすい災害です。土砂災害から人命を守るためには、土石流などが人の生活の場を襲う前に安全な地域に避難することが必要です。そのためのポイントは3つです。まずどこが危ないのか、そしていつ危なくなってどのタイミングで避難するのか。さらにどこへどのように逃げるのか。この3つのことを知っておかねばなりません。これは専門的な知識がないとなかなかわからないことです。
ではどうすればいいのでしょうか。

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まず危ないエリアを知る方法です。土砂災害警戒区域、土砂災害特別警戒区域という土砂災害防止法に基づく2つのエリアがあります。土砂災害警戒区域をイエローゾーン、土砂災害特別警戒区域をレッドゾーンと呼んでいます。
レッドゾーンは土砂災害によって家が壊れたりする可能性が高いエリアです。イエローゾーンも土砂が到達したり土地が崩れたりするエリアで、災害が起こる可能性があります。

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都道府県ではこれらのエリアの範囲を確定する調査を行い、その調査結果を公表するとともに、市町村と協力して土砂災害ハザードマップを作成しています。今これらの公表がかなり進んできました。HPや印刷物などで公表していますので、自分の家がどのような災害リスクのある箇所に建っているのか確認できます。これらのエリアのどの場所に自分の家が建っているか、ぜひ確認していただきたいと思います。

次に、いつ危なくなり、どのタイミングで避難するかですが、ここで知っておいていただきたい重要な情報があります。「土砂災害警戒情報」と呼ばれるものです。気象台と都道府県砂防部局が共同で発表する情報ですが、過去の実績から土砂災害の発生する2時間程度前にこの情報が出されます。この情報が出た時点で避難をしていれば土砂災害に遭遇する確率は極めて低くなります。避難のタイミングはこの土砂災害警戒情報を活用するのが現時点では一番合理的です。ですから市町村は土砂災害警戒情報が出た時点で避難勧告、避難指示を出すべきです。
その前の段階として市町村が避難準備情報を出す場合もありますがこれは住民に避難行動を促す意味で有効ですし、避難に時間を要する要援護者や老人、子どもを早めに、安全に避難させるための情報として積極的に活用すべきです。

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この非常に重要な土砂災害警戒情報ですが、以前は市町村単位で情報が出されており、市町村のどの地域が危ないか危険度がわかりにくいという欠点がありました。そのため、警戒避難に役立てにくい情報でしたが、現在では市町村単位でなく5キロメッシュのもっと狭い範囲で、地域によってはさらに狭いエリアで危険度がわかるようになってきました。気象庁、都道府県や市町村のHPでは危険度がメッシュ毎に色分けされています。これらの表現も年々わかりやすいものに改善されています。この情報を有効に活用しましょう。

土砂災害警戒情報や、避難勧告、避難指示はテレビ、ラジオ、パソコンやスマートフォンで情報を得ることができます。パソコン、スマートフォンが使えなくても地域の防災無線や携帯電話のエリアメールなどで土砂災害警戒情報の発令がわかるような地域もあります。このように避難に関する重要な情報が伝わるような重層的な情報伝達システムを作っておくことが地域の防災力を高める上で必要です。行政はこれらのシステム整備を着実に行うべきでしょう。

次に、避難の際にどこにどのように逃げるか知っておくことが大事です。普段から土砂災害ハザードマップを利用して避難場所や避難経路も確認しておきましょう。これが基本になります。しかし、避難に関する情報が住民に伝わっても避難されない例が多いのが現状です。人間は自分のところは大丈夫という根拠のない思い込みをする心理が働きます。
これを「正常化の偏見」または「正常性バイアス」といいますが、夜間の豪雨時などにはなかなか避難行動を起こせません。道の険しい山間部などでは尚更です。このため、避難訓練などの平常時の活動が大きな意味を持ちます。訓練で慣れておれば避難行動につながりやすくなります。災害時の避難は平常時からの知識の習得や訓練があって初めて行動につながることを忘れてはなりません。各家庭ごとに家族構成などもさまざまですので、家庭ごとに避難計画を作成し、実際に避難訓練を行うことをお勧めいたします。

最近、行政も災害発生が予測される場合には何をすべきか時間ごとに整理し、タイムラインと呼ばれる時系列の対応手順の作成を始めています。土砂災害は突発的ですので細かく時間までは決めれられないこともありますが、何をすべきかという手順はしっかりと作成しておく必要があります。
特に土砂災害警戒情報が発令された場合に避難勧告、避難指示をきっちり出せるよう市町村の対応手順に明記しておくことがポイントになります。

この5月には水防法や土砂災害防止法の一部改正が行われました。これは昨年8月の台風10号により岩手県岩泉町の社会福祉施設が浸水し、死者9名の被害が発生した悲惨な災害等を踏まえたもので、避難計画が作成されていない要配慮者施設について避難確保計画を作成し、避難訓練を行うことが義務化されたのです。このように避難行動を促進する新たな動きも出てきております。

土砂災害を防ぐには行政だけでも、住民だけでもうまくいきません。両者の平常時からの努力と連携が何よりも大事です。お互いのなすべきことを知識として共有し、信頼関係があってこそ地域の防災力が向上し、人命を守ることができるのです。
6月の土砂災害防止月間を活用して自分たちの住む地域の防災力が向上するよう行政、住民、NPOなど一体となって努力してまいりましょう。

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