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「高齢者の健康長寿 鍵は"フレイル"予防」(視点・論点)

東京大学 高齢社会総合研究機構 教授 飯島 勝矢

わが国は高齢社会となり、高齢の方々がより多くなってきております。その時代の中で、要介護になる時期を遅らせ、健康寿命をさらに延ばすためには、さまざまな地域活動への参加を促すことによって高齢者も「社会の支え手」として活躍するような発想の転換の必要があります。また、それを推し進めるための新しい社会のシステムや受け皿も求められます。

さて、ヒトは年を重ねるごとに徐々に心身の機能が低下し、日常生活活動や自立度が低下し、最終的には要介護の状態に陥っていきます。それが一般的にいう「老い」というものなのです。しかし、同世代にもかかわらず、趣味をもち、地域活動に積極的に参加している非常にお元気な方々もいらっしゃれば、大きな病気を患う方もいます。また一方で、大きな病気を持っていないにも関わらず、あまり他の方々と交流を持つこともなく社会性が低い方もおられることも事実です。
なぜ、このような差が生まれるのでしょうか?単に医学的な病気の有無だけがこの方向性を決めているのでしょうか?

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われわれ老年医学の分野では近年、健康と要介護のちょうど中間に存在する虚弱の状態を「フレイル」と呼ぶことになっております。これは「虚弱」の英単語「Frailty」からフレイルと呼んでいるのですが、この「フレイル」の兆候をより早期に発見し、いずれ医療の専門職にもサポートをしてもらうにしても、まずは介護状態になる一歩二歩手前で本人が気づき、そして自分の事と考え、予防意識を高め、普段の日常生活の中に継続性のある対策を取り入れることが重要となります。
これが最終的には要介護を予防し、健康寿命を延ばすことにつながります。
この「フレイル」はしかるべき適切な努力や介入によって、自分の持ち合わせているさまざまな機能を戻すことができる、いわゆる「可逆性」がある時期です。また、身体の衰えだけではなく、図に示しますように、こころや認知の衰え、および社会性の衰えが存在します。すなわち、フレイルというものは多面性があります。

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フレイル予防につながる重要な視点を見出すために、われわれは地域にお住いの要介護に至っていない高齢者を対象に、大規模な健康調査研究を実施しました。その大規模研究の名称は「栄養とからだの健康増進調査」というものであり、千葉県柏市で実施しているため「柏スタディー」と言われております。
その大規模研究において、特に筋肉の衰えや減少を中心に、約4年間経過を追ったところ、さまざまな新しい知見が数多く分かってきました。

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そこで、重要なポイントはこの図に示す【健康長寿のための「3つの柱」】です。具体的には栄養と運動と社会参加の3つを指しますが、一つずつに対して説明を加えていきましょう。
まず最初は、「食」と「口腔機能」の2つによる「栄養」の視点です。
「食事摂取」に関しては、食品多様性が高いかどうか、すなわち普段の食事内容にいかに幅広く食材が使われているのかが重要です。特に筋肉の維持にはたんぱく質を積極的に摂らなければなりません。なかでも、お肉やお魚、豆類などのたんぱく質をより多く摂取する必要があるのですが、実は思っているよりも摂取できていない現実があります。

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続いて、「歯を含むお口の機能」が衰えないように、いかに早い段階から予防するかが重要です。
歯の喪失や舌の機能の低下、咀嚼(そしゃく)の機能の低下からかみ応えのある食べ物がかめなくなってくるなど、食べる力が全体的に弱まれば、徐々に食事内容の偏りも目立つようになり、どんどん栄養不足となり、筋肉の衰えや体力低下につながります。最終的には、転倒や歩行困難も起こしやすくなり、要介護になりやすくなってしまいます。

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例えば、お口の代表的な機能を設定します。歯の残っている数が20本未満、咀嚼の力が弱い、舌運動の力の低下、滑舌の低下、かめない食物の増加、むせが増えてきた、の6つです。そのうちの3つ以上、該当した場合に「お口の衰え:オーラルフレイル」と仮定してみました。結果では、その集団はそうではない方々と比較しますと、この約4年間の追跡調査においては要介護になってしまう危険度は約2.4倍、そして死亡に対する危険度は2.2倍になることが判明しました。
以上より、歯も含めてお口の状態を維持向上させることが、栄養状態を維持することにつながります。今まで以上に食事内容とお口のケアに強く意識を持ち、幅広い食材で積極的に蛋白質を摂りましょう。

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2つ目は「身体活動・運動」です。
一定以上の体に負荷を与える運動を行い、体を鍛えていくことは当然ながら推奨されます。とはいえ、なかなか多くの方々はそれを継続的に日常生活の中に取り入れることはできません。
また、運動ということを考えるにあたり、歩くだけでは十分とは言えないのです。なぜならば、歩くことは足腰の中でも「ふくらはぎの筋肉」を鍛えることに大きくつながりますが、もっと大きい筋肉である「太ももの筋肉」はあまり鍛えられていないのです。太ももの筋肉を鍛えるためには、上下運動が入った動作が必要になってきます。例えば、階段を上ったり、ご自宅で椅子やテーブルに手を添えて転ばないようにした上でのスクワットなどが有効でしょう。
よって、意識としては「今よりも10分でも多く体を動かしてみよう」という気持ちが必要です。さらに、歩くことと同時に自分のできそうな簡単な筋トレを取り入れていくことです。
そして最後の3つ目は「社会参加」や「社会貢献」です。
この要素は非常に重要です。筋肉の衰えが進行してしまう方の中に、早い段階からその社会性が低下してしまっている方々が少なくありません。特に、いつも一人で食事をしている、いわゆる孤食の方は体の衰えのリスクが非常に高いことも分かってきました。
やはり、健康長寿を達成するためには、単なる食事量や一つの運動で決まるのではなく、むしろ「いかに社会性が高く維持されているのか」に大きく依存します。趣味を大いに生かすでも良いですし、ボランティアでも、収入を伴う就労でも、地域活動でも何でも良いのです。多くの方々と接しながらつながり、刺激を得て、継続的に内容の濃い毎日を過ごすことが重要です。また、お独り暮らしの高齢の方でも、仲の良いお友達と一緒にワイワイ楽しく食事をしましょう。

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そして、最後に一番重要なことは、国民の皆様にとって先程お示しした健康長寿の3つの柱が「自分自身のやりやすい形できちんと継続されている」ということが重要です。
そのために、我々は新たな健康増進活動として、栄養・運動・社会参加の3つを含む【フレイルチェック】を考案しました。これは住民による住民のためのフレイル予防であります。
現在の健康への考え方は、とかく「どのような医療を受けるのか」に意識が行きがちです。しかし、それだけではなく、「自分がまずどのような日常生活を過ごせるのか」という原点の部分に大きなヒントがあることをもう一度再認識してみてはいかがでしょうか。

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