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「デジタル時代の著作権」(視点・論点)

コンピュータソフトウェア著作権協会 専務理事 久保田 裕

皆さん、著作権のルールについて、どの程度ご存じでしょうか。
恐らく、ほとんどの方は著作権という言葉は聞いたことがあり、他人が創作した音楽や書籍などを勝手にコピーしては駄目だということをご存じかと思います。
著作権とは、音楽や映像、小説や絵、写真、さらにコンピュータプログラムなど、人間が創作的に表現したものに与えられる権利です。
作品を創作した人や会社などには著作権という権利が与えられ、著作権を持つ人や会社だけが、その作品を自由に使うことができ、他人は許可を得ないと使うことはできません。

著作権のルールは著作権法という法律で定められていますが、そもそも世界で初めての著作権法は、活版印刷技術が生まれた後、印刷出版を保護する制度としてイギリスで1710年に生まれました。その後、技術の進歩に伴い映画やレコード、放送そしてインターネットと次々に新しいメディアが登場するのにともない、保護の対象や内容が拡充されてきました。
この著作権法は、永らく小説家、作詞・作曲家や画家など、プロのクリエイターにとって重要な権利であり続けましたが、近年のデジタル化の進展でその状況が一変しました。
今では、スマートフォンやタブレット、パソコンを使って、誰もが簡単に写真や映像、イラストなどの作品をつくることが出来ますし、インターネットを通じて世界中に公開することも簡単にできます。子供たちの憧れの職業はIT技術者、ゲームクリエイターに続きユーチュウブに動画を投稿してお金を稼ぐユーチュウバーだそうですが、頷けるところです。
一方で、新聞記事を写真撮影してSNSで公開したり、自分の好きなアーティストの曲のファイルをUSBメモリーにコピーして友人に渡すなど、他人の作品をコピーし、配布することも簡単に行えるようになりました。また、自分の映像や画像をつくる素材として、インターネットから他人の作品を取り込むことも簡単です。
ビジネス現場では、インターネット上の多くの情報サイトにおいて、別のWebサイトで公開されている文章や写真を無断で流用した記事が大量にあることが発覚して、大問題になったことも記憶に新しいところです。
著作権で保護されている他人の作品を無断でコピーしたり、改変したり、インターネットで公開することは、著作権法違反であり、犯罪にもなってしまう行為です。著作権を侵害した場合の罰則は懲役10年以下、または1000万円以下の罰金で、その両方を科すことができます。ちなみに他人の財物を盗む窃盗罪も上限が懲役10年ですからその重さは理解できるはずです。
このような現状では、まず、自分の創作した作品の著作権を守るために、一方で、他人の著作権を侵害しないためにも全ての人が著作権の知識を持つことが必要です。つまり、著作権のルールは、デジタル時代の一般常識といってもよいでしょう。
私が著作権保護の活動を始めた30年前は、それが違法なことであると知らずに、コンピュータソフトの海賊版を使う人が大勢いましたし、店舗で普通に海賊版が販売されていました。

現在では、企業、学校などの組織内における違法コピーの稼働率は低く、先進国の中でもトップクラスであり、店舗で海賊版を見ることもなくなりました。
さらに、学校での指導やコンプライアンス経営が進んだことにより、私たち国民の著作権に対する認知も上がっているはずなのですが、しかしながら先の例のとおり、現代は、誰もが容易に著作権侵害ができてしまう環境にあります。スマートフォンを日々持ち歩き、かつ様々なSNSサービスが提供されていて、以前のパソコンだけの時代と比べてよりカジュアルに著作権侵害ができてしまう時代になっているのです。
また、ビジネスシーンにおいて著作権侵害をしてしまうと、その事実がインターネットで広く拡がり、世間から大きな批判を浴びるというリスクがあります。いわゆる炎上というものです。業務以外でも、もし会社の重要なポストにある人が無邪気に新聞記事やテレビ番組の映像をSNSにアップロードしたらどうなるでしょうか?「御社の○○さんは著作権侵害をしているがコンプライアンスはどうなっているのか」という苦情電話が殺到する恐れもあるでしょう。
では、このような心配や不安を払拭するためにはどうすればいいのでしょうか。
私は、これまでの著作権保護の活動を通じて、著作権法が守られる社会を実現するために必要なことは、法と技術と教育のバランスだと考えるようになりました。
つまり、著作権のルールが適切であり、また、うっかり著作権侵害をしてしまわないようなコピー防止技術が社会に普及し、さらに一人一人が適正に判断できる知識を持てる著作権教育の充実が大切なのです。
この3本柱はバランスが重要で、どれかが突出すべきものではないのですが、著作権教育は効果が出るまでに時間はかかるものの、長い目で見るともっとも効果的な手段だと思います。
著作権教育に関しては、生徒にどう教えるのか、と、その指導者をどう育成するのか、の二つの側面があります。
私が現在特命教授をつとめている山口大学は、著作権を初めとする知的財産権の教育拠点大学に指定されており、医学部から教育学部まで、全ての学部の学生が著作権法を学んでいます。山口大学での著作権教育の特徴としては、画一的な講座ではなく、各学部で学ぶ学問内容にあわせて、講座の内容を変えており、卒業後、専門分野に進んだ後に役立つ実践的な教育を行っている点が挙げられます。具体的にはコンテンツ産業に就職希望学生には企業体験講座を設け、新聞社、音楽管理事業者、レコード会社、アニメ制作会社等で講義が行われました。
また、大阪教育大学と連携して、将来先生になる教育学部の学生を対象とした著作権検定試験の実施を目指して準備を行っています。この検定が普及し、すべての先生が正確な著作権知識を持てば、各教科の指導の中で適切な著作権教育が行われることでしょう。
さらには、新任の先生だけでなく現役の先生がたに対しては、著作権教育ができる先生の育成を目的としたセンター機能を有する研修機関の創設を検討しています。
では、今まさに業務を行っている社会人、勉強をしている学生の皆さんはどう著作権を学べばよいでしょうか。
実は、既にやさしく著作権を学ぶことができる教材が、文化庁や著作権関連団体から公開されています。
インターネットで「著作権教材」と検索していただければ簡単にたどりつくことができますので是非利用してください。

「デジタル時代の著作権」という言葉自体は、著作権に関わる私たちの間では言い古された表現なのですが、人工知能で生み出された作品はどう保護するのか、ビッグデータを活用する中で収集されるデータの著作権はどう考えるか、など、日々新しい問題が生じており、毎年のように審議会で検討され、デジタル時代の実態に合わせて著作権法が改正されています。
モノより情報が経済や文化を牽引する流れが強まる情報社会では、今後ますます著作権は重要になります。ぜひ著作権に関心を持ち、自分の生活にいかしていただきたいです。

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