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「エンケラドス 地球外生命の可能性」(視点・論点)

東京大学大学院 准教授 関根康人

宇宙には地球のような星はあるのでしょうか?これは、小さい子供でも考える素朴だが深い、根源的な問いかけではないでしょうか。地球の特徴とは、地球を宇宙から見た時にはっきりします。青い海があり、白い雲が漂う大気があり、茶色の陸地があり、そこに生命がいる。生命を育む環境があるということが地球最大の特徴といえます。では、地球以外に生命を宿す星はないのでしょうか?
今年4月、NASA=アメリカ航空宇宙局が、土星の衛星「エンケラドス」に「生命を育める環境があるかもしれない」と発表し、話題になりました。

今日はエンケラドスを中心に太陽系内の地球外生命の可能性についてお話しようと思います。
さて、どうやったら宇宙に生命を探せるか、まずは生命にとって必要な要素を満たす星を探すことから始める必要があります。地球の生命にとって必要な要素とは、液体の水、有機物、そしてエネルギーです。液体の水にはミネラルなど生命に必要な物質を溶かすことができます。有機物は、いわば我々の体を作る部品であり、エネルギーは、その部品を組み立てて生命を形作るために必要です。では、宇宙にこれら3つの要素を満たす星はあるのでしょうか。

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我々の住む太陽系には、8つの惑星が回っています。太陽に近い側に岩石惑星、外側に巨大ガス惑星、巨大氷惑星があります。地球は岩石惑星の一つですが、他の岩石惑星はどうでしょうか。金星は、地球より太陽に近い場所を周っており、地表面温度は450℃。水はたちまち蒸発します。では、火星はどうでしょうか?火星は、かつては液体の水が豊富にあったと考えられていますが、現在は大気も薄く、気温も平均マイナス60℃で液体の水の存在は望めません。では、火星の外はどうかというと、さらに極寒の世界です。水は完全に凍り付いてします。
このようなことからも、10 年前までは、水、エネルギー、有機物のうち一つでも地球外に数千万年、あるいは数億年というような長期間にわたり
存在したとは考えにくく、仮に存在していたとしても、その場にアクセスすることは難しいというのが常識でした。地球外に生命を探すということは、完全にSFの範疇であり、科学者が真剣に考える問いではなかったのです。

しかし、誰も予想しなかった意外な場所で、これら3要素を満たす天体が見つかりました。それは木星や土星の衛星、つまり月です。地球の月は、岩石でできています。しかし、木星や土星の月は氷と岩石でできています。

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NASAのカッシーニ探査機は、2004年以来、土星とその衛星たちを調べる探査をして驚くべき発見をしたのです。

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土星の第2衛星であるエンケラドスは、直径500 km程度の小さな氷のかたまりのような天体です。この写真は探査機カッシーニがとらえた画像ですが、

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南極に巨大な割れ目が存在していることにすぐに気づかれるでしょう。エンケラドス地表の温度はマイナス200℃以下です。しかし、この割れ目周辺は周囲より150℃以上も温度が高い領域でした。
地球上でも周囲より150℃温度の高い領域があれば、それは地熱地帯です。探査機カッシーニは、その氷の地熱地帯である南極付近の割れ目に近づいてみました。

すると、驚くものを発見したのです。割れ目から宇宙空間に水が噴出していたのです。では、噴水の水はどこから来たのでしょうか。

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エンケラドスの地下には、内部海とよばれる液体の海が存在していて、その海水が宇宙に噴出していたのです。探査機カッシーニは、エンケラドスの近くを何度も通過して、噴出する海水を採取しました。
人類が手に入れた初めての地球外の海水です。その海水を、分析した結果、海水には地球と同じような塩や二酸化炭素、さらには多くの有機物が溶けていました。つまり、液体の水、有機物という生命に必須の要素のうち2つが、エンケラドスで見つかったのです。
・では、最後の要素であるエネルギーはどうでしょうか。エンケラドスの内部海には太陽の光は届きません。したがって、植物が行う光合成のように太陽光のエネルギーを使うことはできません。実は、地球上にも、太陽光の届かない深海底に生命が繁茂している場所があります。

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それは海底熱水噴出孔と呼ばれる、海底にある100℃を超える温泉のような場所です。そこでは、岩石と熱水の化学反応でできる物質を食べる微生物がいるのです。100℃という高温でも、彼らにとっては心地よい温度で平気で暮らしているのです。
つまり、地球上には太陽ではなく熱のエネルギーを使って生きている生命がいます。2015年、我々はエンケラドスの海水の中に、地球上の海底熱水噴出孔や温泉に見られるナノシリカと呼ばれる物質があることを発見しました。ナノシリカはどこから来たのか。それは、海底の岩石と水が触れ合う場所からです。ナノシリカができるのに必要な熱水の温度は90℃以上、つまり、ナノシリカは、地球の熱水噴出孔のような環境がエンケラドスにも存在する事を示す確かな証拠だったのです。

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エンケラドスは、地球以外で初めて見つかった液体の水、有機物、エネルギーという3要素がすべて現存する天体だったのです。
今年の4月、さらに驚くべき発見がありました。カッシーニは噴出する海水の中に熱水噴出孔での化学反応でできる水素分子という物質を見つけました。水素分子は地球の熱水噴出孔でも生まれています。そして、そこで生きる微生物にとってなくてはならない食べ物です。エンケラドスには、生命の食べ物も十分に存在していました。地球上の熱水噴出孔に生きる微生物をエンケラドスに持って行っても、彼らは十分そこで生き続けることができるのです。
・探査機カッシーニは今年の9月に土星に突入し、およそ13年の探査ミッションを終了することになっています。カッシーニが残した功績を受けて、今度はもっと直接的に生命に迫る探査が行われることになるでしょう。エンケラドスには、生命の材料物質はあるのか、生命の痕跡や生命自体が海水と一緒に噴出していないかを調べる探査です。さらに、木星の衛星であるエウロパやガニメデといった天体にも、エンケラドスと同様に内部海があると言われています。そして、これら天体への国際探査も複数計画されていて、日本も国際探査の一つである JUICE 計画に加わっており、地球外の生命の探査に貢献しようとしています。
・宇宙には地球のような星はあるのか、地球以外に生命がいるのか、我々は孤独な存在か。我々はまだ答えを知りません。でも、エンケラドスの探査で得られたデータは、きっと生命は地球だけに特別に存在しているのではないと、我々に強く思わせてくれます。エンケラドスの生命は、きっと地球生命とは違った形や構造をしているでしょう。似ても似つかない異様な生命かもしれません。しかし、そんなエンケラドス生命が見つかったとき、我々はきっと、地球上の生命は一つの進化という道筋、家系の上に存在する家族だと感じるのではないでしょうか。

もし、そういう考えを人類が得ることができれば、地球外生命の探索は科学を超えた価値があるのではないかとも思うのです。

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