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「乳幼児に危険な食べ物」(視点・論点)

東洋大学 非常勤講師 太田 百合子

今年3月に6か月の男の子が、「乳児ボツリヌス症」で死亡するという痛ましい事故が起きました。蜂蜜は栄養豊富で「健康に良い」と思って、ジュースに混ぜて1日2回与えられていたそうです。
蜂蜜は「乳児ボツリヌス症」を起こしやすい可能性があることから、母子健康手帳には1歳未満の赤ちゃんには与えないようにと注意書きがされています。乳幼児を支援する人には「常識」と思われることであっても、今回のように誤解がありうるということは大変に残念なことです。実は、赤ちゃんにとって危険な食べものは蜂蜜だけではありません。今回は乳幼児に危険な食べ物について整理したいと思います。

子どもの健康を守るための衛生管理、発達に合わせた食品選び、病気予防の3つについて説明します。
一つ目は衛生管理です。赤ちゃんは細菌に対する抵抗力が弱いために衛生管理が重要です。母乳やミルクは赤ちゃんにとって大切な栄養源です。ほ乳びんを使う時は、簡単に洗うだけでは細菌が繁殖しやすいので、少なくとも3か月から4か月頃までは飲ませるたびに消毒し、常に清潔にします。
母乳を直接飲ませることができない場合は、手をよく洗ってから搾乳し、市販の専用の袋に移し、空気を抜いて封をします。室温が25度以下で6時間前後なら細菌はごくわずかしか増加しません。すぐに飲ませないなら冷凍か冷蔵で保存し、24時間以内で使用します。冷凍母乳の解凍には電子レンジを使用してはいけません。40度以上で加熱すると、赤ちゃんの免疫や消化にとって大切な母乳中の免疫グロブリンA、母乳由来のリパーゼが低下するので、流水もしくはぬるま湯で解凍してから、体温程度の適温にして飲ませます。
育児用ミルクは無菌ではありませんので一度沸騰させて70度以上の湯で溶かします。感染症を起こす恐れのあるサカザキ菌が混入しても70度以上なら殺菌されます。調乳後2時間以内に使用しなかったミルクは飲ませないでください。
離乳食は水分が多く、薄味で栄養価が高いために腐りやすいものです。調理方法もつぶしたり、裏ごしたりすることが多いので細菌に汚染される機会が多くなります。こまめに手を洗う、調理道具は清潔にする、新鮮な食品を使う、十分加熱する、調理後は時間を置かずに与えます。残った離乳食は与えないでください。
2つ目は、発達に合わせた食品選びです。赤ちゃんは、消化機能が未熟ですから食品選びには気をつけます。
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与える量に気をつけたい食品は、消化に悪いもの、油脂・調味料・食品添加物を多く含むもの、生もの、カフェインなどです。ジュースに関しては、現在は離乳開始前に果汁などを「あえて与える必要はない」としています。果汁を与え過ぎると、母乳やミルクを飲む量が減ってしまい、栄養不足や発育障害を招きやすいことが言われているからです。
最初に紹介したケースからわかるように蜂蜜だけではなく、ジュースも早期から与えていましたので、赤ちゃんの食生活については保護者に向けてもっとわかりやすく伝える必要性を感じました。

次に食べ物による誤嚥(ごえん)、窒息についてです。

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母子健康手帳には、直径39ミリの中を通るものは窒息の恐れがあると書かれています。
誤嚥、窒息を起こしやすいものは、乳幼児の口の大きさより小さく、咽頭と呼ばれる、のどや気道の太さより大きいものや丸いものです。こんにゃく入りゼリーなどの弾力がある固めなもの、りんごの一口サイズなどの水分が少なく固いもの、ピーナッツなどの、そのまま飲み込めるものは十分に気をつけます。
こんにゃく入りゼリーに関しては、厚生労働省より製菓業界に向けて、こんにゃく入りゼリーを「子どもと高齢者には食べさせてはいけない」ことが一目で分かるような警告表示を設けるように伝えています。国民生活センターでは、「10歳頃までは食べさせないように」と呼びかけ、それでも食べさせたいなら、大人が先に食べてみて、舌で簡単につぶれるか確かめること、大人が小さく切りスプーンで与えることが必要であるとしています。
ピーナッツなどの豆類は、のどを通りますが、気道をつまらせる大きさのため、肺炎などを引き起こす危険があります。ピーナッツなどの入ったせんべいやチョコレートにも気をつけてください。
1歳までの子に「赤ちゃん用おやつ」を与えて、のどに詰まらせてあぶなかった経験は多く報告されています。立ち歩いて食べたとき、ベビーカーや車などの乗り物が揺れたときに詰まらせることもあります。食べるときは、大人の見ている前で座って食べることを習慣づけましょう。

最後に、病気を予防するための知識です。

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乳児ボツリヌス症予防には、蜂蜜や井戸水はボツリヌス菌の増殖による汚染の可能性があるので、感染に対する抵抗力が低い1歳までは使用しないことです。
食物アレルギーを起こしやすい卵・乳製品・小麦は、食べられるようになったら少量から始めます。卵の卵白は食物アレルギーの症状を起こすことがあるので、7か月頃に最初は固ゆでの卵黄を少量から始めて、様子をみながら全卵へとすすめます。日本そばやピーナッツは、強いアレルギー症状を起こすことがあるので注意します。
鉄欠乏性貧血は中枢神経の発達に関わるので、牛乳は飲料とするなら1歳までは飲ませません。多く飲ませると腸管アレルギーの一つとされる「消化管出血」が見られることや、カルシウムとリンが多く含まれ腸からの鉄の吸収を妨げるからです。ただし、離乳食作りの材料としては少量ですから使用してもかまいません。
これまで述べてきたことは気を付けることばかりなので食べ物を与えることに怖さを感じるかもしれません。しかし、適切な時期に離乳食を食べないと栄養素が不足します。鉄欠乏性貧血対策は、牛乳の影響だけでなく、9か月以降は鉄の多いたんぱく質や野菜などを積極的にとれるようにしなければなりません。

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他にも、背の伸びが悪くなったり足などの骨が曲がって変形する「くる病」という病気もあります。栄養不良やビタミンD不足、そして極端に日光に当たらないことが長期的に重なると、起こることがあります。授乳中の母親の食生活に偏りがあると、母乳に含まれるビタミンDが不足しがちなので、母親はバランスのとれた食事をこころがけましょう。ビタミンDは卵黄や魚に多く含まれています。むやみに離乳食の進行を遅らせないこと、母子共に散歩や外気浴で日の光を浴びることが大切です。
今回のケースを通して思うことは、核家族化や少子化が進む中で、子育てに関する知識を共有する機会が減っていることが背景にあると思われます。特に初めて子育てをする保護者にとっては、赤ちゃんの食事は家庭でも見たことがない未知のものといえます。
取り返しのつかない事態に陥らないように、「乳幼児には危険な食べもの」を正しく理解して欲しいと思います。保護者の方は、どんな小さな悩みでも1人で悩まずに、地域の小児科医、保健所や保健センターの栄養士などを頼って相談してください。

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