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「少子化の背後にあるものは」(視点・論点)

中央大学 教授 山田 昌弘

今日は、少子化の背後にある若者の気持ちを考察してみたいと思います。
先日、国立社会保障人口問題研究所より、将来人口推計が発表されました。前回推計よりも緩和されたとはいえ、日本では人口減少が続き、2015年時点で1億2709万人から2053年には1億人を切ると推計されています。

人口減少の原因は、少子化、つまり、子ども数の減少にあります。40年前までは、女性一人当たり、平均2.2人の子どもが産まれていました。

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1人の女性が一生の間に生む子どもの数を合計特殊出生率といいます。それが、1975年以降徐々に低下し、1989年には1.57、2005年には1.26、近年は多少回復していますが、2015年には1.45、依然低水準となっています。30年近く、合計特殊出生率が1.5以下になっている。これが人口減少の原因です。
 
最近、私も少子化問題の専門家として、海外のメディアや政府関係者から取材をよく受けます。すると、欧米のジャーナリストは、なんで25年間も政府は少子化を放置してきたんだと聞いてきますし、現在少子化が日本以上に進行している韓国や台湾など東アジアの関係者からは、日本みたいにならないためにどうすればいいんだと聞いてきます。

そんな時、若い人の状況を正確に把握しなければならないと答えてます。若い人の置かれた環境や気持ちの持ち方は国によって違います。特に、日本を始めとした東アジアでは、子どもに苦労させたくないという思いが強いことが、少子化を加速させていると答えています。

政府は、少子化対策を本格化させ、合計特殊出生率1.8への回復を目指しています。ただ、意気込みは評価しますし、私が従来主張していた「結婚支援」なども入っていますが、従来施策の延長が多く、効果は薄いのではないかと思ってしまいます。

なぜなら、少子化の背後にある「若い人の願い」に応えていないからです。その願いとは、「子どもを産み育てるなら、自分が受けた以上のことをしてあげたい」というものです。
それが無理と思えば、産む予定の子どもの数を減らしたり、そもそも結婚を控える、これが、日本の少子化の背景にある本当の原因だと考えています。

未婚者を調査している中で、収入の高い男性でなければ結婚しないという女性に話を聞いた時です。その理由を尋ねると、「私は小さい頃習い事させて貰って、短大まで出して貰った。私自身は貧しい生活でもかまわないが、子どもにはお金がないからできないという事は絶対に言いたくない。だから、収入が不十分な男性とは結婚したくない」というものだったんです。ある自営業の未婚男性は、俺の収入で結婚したら妻と子どもがかわいそうだから、結婚は諦めているという話も聞きました。

私が、学生に子どもを何人欲しいかと聞いた時も、両親に、授業料負担で苦労をかけて心苦しい。自分が将来結婚しても、何人もの子どもの大学の費用を負担する自信がない、だから、一人が精一杯という学生がけっこういました。

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国立社会保障・人口問題研究所の調査でも、既婚女性が理想の子ども人数を産めない理由の不動の一位は、「子育てや教育にお金がかかるから」なんです。
これを専門的にいえば、「子どもの下降移動リスクを回避したい」ということです。子どもが嫌いだから子どもをもたない、結婚しないのではなく、自分の子どもを大切に思っているから、子どもを多くもたない、結婚しないという人が増えているのです。

どうしてこのような状況が生まれたのか、その変化を歴史的にお話ししたいと思います。
戦後の経済の高度成長期から1990年ごろまでは、自分が受けた以上に子どもにお金をかけることは容易でした。それは、二つ理由があって、そもそも当時の若者の親は豊かでないため、親に多くのお金をかけて貰えなかった若者が多かったこと。二つ目は、若者の就職状況がよく、若い男性はみんな正社員となれ、収入も年々増えるのが当然でした。女性は自分が主婦になっても、子どもに自分がかけられた以上のお金をかけることができたからです。
だから、当時は、早く結婚して、二人子どもをもつことが容易だったのです。

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しかし、バブル経済が崩壊した1990年以降、状況は変わります。こちらの表は男女別に未婚率の推移を示したものですが、バブル経済が崩壊した1990年以降、未婚率が大きく上昇し、結婚難、少子化が深刻になっていることがわかります。子どもを産む前提の結婚をする人が少なくなったからです。2015年 30代前半で未婚の人は、▼男性約47% 女性、約34%まで上昇してます。

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その理由を三つに整理すると、
① 若い人の経済状況が悪化した
② 未だ、男性が生活を支えるという慣行が根強い
③ 豊かな親の元で育った親同居未婚者(パラサイトシングル)が増えた
この三点の組み合わせが日本に少子化をもたらしました。

若者が厳しい経済状況に置かれています。正社員の収入はなかなか増えず、それだけでなく、正社員になりたくてもなれない若者が増えていきます。一方、塾代から大学の授業料など教育費は高騰します。
そして、未だ、日本では、生活を支えるのは男性であるという意識が強いです。男性一人の収入で、子どもの教育費を出すのは難しい。収入が高くない男性と結婚したら、子どもに悲しい思いをさせてしまうかもしれない。
そんな状態に陥るリスクを回避したいという気持ちが、結婚や子どもを持つことをためらわせています。
さらに、日本では、未婚者の大多数、7割以上は親と同居して、豊かに生活しています。結婚して独立したら、まともな生活すらできないといった人が増えています。とりあえず、結婚せず親と同居して、年齢を重ねる未婚者が多いのです。

では、どのような対策があるのでしょうか。
女性が、子どもをもって働きやすい環境を整えることは最低条件です。収入を教育費に充てることができるからです。今の政府の女性活躍推進政策は、その意味で正しいのです。ただ、女性にも非正規化の波がおしよせていて、収入が不安定な女性も増えています。この状況を改善することが必要ですね。
そして教育費は親負担が当然という状況を変えなくては、少子化は止まらないでしょう。これが、日本や韓国、香港、シンガポールという東アジア諸国の少子化を加速させています。それは、中国やタイでも広がっています。

もう一度繰り返しますが、今の若者は十分なお金を子どもにかけられない、そんなみじめな思いを子どもにさせたくない、そんな思いをさせるくらいなら、結婚や出産をしないというのが、少子化の大きな要因なのです。
何人産んでも、教育費の負担を考えなくてもいいようにする。これが、少子化対策という意味では一番です。大学の授業料を、二人目は半額、三人目はタダとすれば子どもが増えるなどと言うことはあります。その位思い切った政策をしなければ、少子化はなかなか反転しないでしょう。
若者の将来の経済不安、特に、自分の子どもの学費を心配しなくてよいような社会を作ること、これが少子化対策、人口減対策の最も大きな柱にすべきなのです。

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