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「父親の育児と夫婦関係」(視点・論点)

玉川大学 教授 大豆生田 啓友

イクメンという言葉が、ずいぶんと一般化されました。最近では、赤ちゃんを抱っこしたり、おむつ替えをしたり、ベビーカーを押したりする父親の姿は当たり前になりました。日本の父親たちが大きく変わってきたと言えるでしょう。みなさんは、いかがでしょうか?
しかし、世界的に見て日本人の父親はどうでしょうか。日本人男性の育児時間は、世界最低水準であるというデータもあります。欧米の父親は、家事・育児に一日、2~3時間かけている一方、日本では1時間程度です。この背景には、わが国の男性の過剰な働き方の問題があり、男性の育児休暇があまり進んでいない実態もあります。

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現代の子育て環境は大きく変わりました。“ワンオペ育児”という言葉が話題になるように、母親一人で子育てを回さなくてはならない実態が現在も解消されていないのです。そのため、母親の育児ストレスは、子育て支援が進んできた現代においても大きな課題となっているのです。そもそもいまだに、子育ては母親が中心にやるものという意識もあるのかもしれません。昔から、子育ては母親一人がやってきたという方もいます。しかし、それは違います。マンガ「サザエさん」を見てもらえればわかるように、昭和初期の母親であるサザエさんは一人で子育てをしていません。タラちゃんの子育てを大家族みんなで支えているのです。地域の人も支えてくれています。夫マスオさんもよくタラちゃんと遊んでいます。人間の子育ては、昔から群れで行うという特徴があるのです。「共同育児」です。核家族の現在、妻がもっとも頼りにしたい存在は圧倒的に夫であることはさまざまな調査でわかっており、夫の役割はきわめて大きいことになります。

父親が子育てを積極的に行うことの意義については、さまざまな研究があります。大きく言うと、3つの視点から説明することができると思います。第一には、子どもの成長、第二には、父親自身の成長、第三には妻への影響、ということがあげられると思います。
まず、子どもの成長への影響ですが、父親が子どもと積極的に遊んだり、しつけなどにかかわることは、子どもの自立性や社会性など、子どもの生きる力に影響を与える可能性があると言われています。
続いて、父親自身の成長です。父親の子育てへの積極的関与は、自身の人格的発達に重要な役割を持つのです。父親自身の自己理解、他者への共感的理解の発達に影響すると言われています。それは、ビジネスに対してもプラスの影響があるのではないかと考えられます。父親が子育てに積極的にかかわることは、子どもにとっても、父親自身にとってもよい影響があるのです。3つめの妻への影響についてですが、これはあとで話します。

さて、私自身ついても少し話をします。私には、3人の子どもがいます。私は乳幼児教育について専門的に学び、幼稚園教諭の担任経験もありますから、どう考えてもよい父親になるに決まっています。しかし、そうはならなかったのです。私は当初、イクメンのはしりだと思っていました。しかしある日、妻から「あなたは言っていることとやっていることが違う」と言われたのです。まったく意味がわかりませんでした。今考えると、週末、ちょっと子どもと遊んであげるくらいでイクメンだと言っていたのです。二男の誕生を機に、何とか挽回できないかと夜泣きの対応などもやってみました。その時に、泣き止まない子どもに、気持ちが切れそうになる経験をしたのです。多くの母親がこうやって毎日、24時間、子どもとかかわりながら、家事もやっているのかと思った時に、私は少しずつ意識を変え始めたのです。育児休暇をとったパパたちから、これなら仕事の方が楽だと感じたという声をよく聞きます。妻の子育ての大変さを本当にはわかっていない夫は、私だけでないのかもしれません。

さて、話を戻しましょう。3つ目の視点、妻への影響です。父親が家事を行うことや家族コミュニケーションが少ない場合、母親のストレスが高くなるといわれています。また、父親が子育てや家事に積極的にかかわることは、妻の子育てや生活満足感に大きな影響を与えうることがわかっています。妻が夫から精神的に支えられることは、夫婦関係を良好にし、妻の子育てにもプラスの効果を与えます。父親の子育てや家事へのかかわりは、妻によい影響を与えるのです。

さて、ここにとても興味深い調査結果があります。女性の愛情が、出産を境にどのように変化するかというものです。この女性の愛情曲線からわかるように、子どもの出産を境に、これまで高かった妻の夫への愛情が大きく減少しています。つまり、出産育児は夫婦関係を大きく変える可能性があるのです。しかし、この調査で重要なのは、その後、愛情が上がるグループと、低迷のままになるグループがあるということです。どうも、夫が子育てに積極的にかかわったかどうかに原因がありそうです。

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私は、イクメンパパの悩みを聞くことが度々あります。仕事を早く切り上げて帰ろうとすると、周囲からの冷たい視線を感じる。仕事がかなりハードで、家でも子育てがあるため、ほっとできる時間がない。子育てや家事を手伝っても、やり方が違うと否定されることも多い、などです。最近、私が出演した、ある子育て番組で、イクメンパパの悩みを聞く会がありました。そこで多かったのが、「自分は他のパパと比べてもこんなに子育てをやっているのに、妻からの理解が得られない」というものでした。パパは子育てに積極的なのに、妻はとても自分に対してイライラしているというのです。実は、このような悩みがとても多いようです。なぜ、このようなことが起こるのでしょうか?
それに対して、私と一緒に出演された発達心理学を専門にする先生がそのパパたちにこうおっしゃったのです。『妻に、「いつも、ありがとう」「紅茶でも入れようか」って言ったことはありますか?』と。すると、そのイクメンパパたちは絶句だったのです。その先生は、大切なことは、子育てに積極的なだけではなく、妻への思いやりだとお話しされたのです。妻が毎日置かれている状況を理解し、そうした妻への共感的なかかわりが必要なのかもしれません。私自身の反省も含め、まったくその通りだと思います。

先ほどもお話したように、夫の妻へのサポートは、妻の子育てを支え、子どもへのプラスなかかわりを生み出すだけでなく、夫婦関係にもよい影響を与える可能性があるのです。そう考えると、本当のイクメンであるためには、子育てだけでなく、妻への思いやりがとても大切になってくるのではないでしょうか?妻が毎日、何が楽しかったり、何が辛かったりするのかということに、夫はもっと心を傾ける必要があるのかもしれません。
仕事の負担が大きくてそれどころではないという方もいるでしょう。よくわかります。そうであれば、なお、夫婦での対話が必要だと思います。父親として何ができそうかを一緒に探ることが大切です。険悪なムードが続いて、対話をしないままでいると、それが常態化してしまいます。だから、愛情曲線は低迷したままになってしまうのではないでしょうか。もちろん、対話は妻の側から持ちかけてもいいのです。夫婦関係の良好さは、家族全員の幸せにつながる重要なことなのだと思います。イクメンへの道、妻へ思いやりのある声掛けや、対話から始めてみませんか?

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