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「単身増加社会に向き合うためには」(視点・論点)

みずほ情報総研 主席研究員 藤森 克彦

一人暮らしが増えています。増えているのは、若者の一人暮らしではありません。高齢者や中年層の一人暮らしです。
これまで日本では、結婚をして子どもがいる世帯を「標準世帯」と呼び、生活上の様々なリスクに対応してきました。単身世帯は、必ずしも家族のいない人ではありませんが、同居人がいないという点において、生活上のリスクへの対応力が弱くなっています。
そこで本日は、単身世帯の増加の実態とその要因、社会としての対策を考えていきたいと思います。

まず、単身世帯の増加状況をみていきましょう。

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2015年現在、全国の単身世帯数は1842万世帯にのぼり、30年前の789万世帯から大幅に増えました。今では、全国民の7人に1人が一人暮らしという状況です。
総人口に占める単身世帯の割合をみますと、1985年は全国民の約7%がひとり暮らしでしたが、2015年には約15%になりました。この30年間で総人口に占める一人暮らしの割合は2倍に高まっています。言い換えれば、一人暮らしになる確率が倍増したともいえます。
一人暮らしになる確率が高まったと言っても、若者の一人暮らしならば、さほど注目する必要はないと思います。進学や就職を機に親元を離れて一人暮らしをすることは、昔も今も珍しい話ではありません。

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しかし、年齢階層別に単身世帯比率をみると、顕著に増えているのは、中年男性や高齢女性です。例えば、1985年に50代男性に占める単身世帯の割合は5%でしたが、2015年には18%になりました。今では、50代男性の5人に1人弱が一人暮らしとなっています。

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一方、女性で単身世帯比率が大きく変化してきたのは、80歳以上の女性です。1985年には80歳以上女性の9%が一人暮らしでしたが、2015年には26%に上昇しました。実に、80歳以上女性の4人に1人が単身世帯になっています。
では、なぜ中年層や高齢者で単身世帯が増加するのでしょうか。
中年層で単身世帯が増加していく最大の要因は、未婚化の進展です。未婚者は、配偶者がいないという点で、単身世帯になりやすいのです。

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ちなみに、50歳時点で一度も結婚をしたことのない人の割合を「生涯未婚率」と呼びますが、男性の生涯未婚率は1980年代まで1%~3%台で推移しましたが、90年代以降、急激に上昇を始め、2015年には23%となりました。そして2030年になると、男性の生涯未婚率は28%になると推計されています。女性の生涯未婚率も、2015年の14%が2030年には19%に高まるとみられています。
一方、高齢者で単身世帯が増加するのは、高齢者人口の増加とともに、配偶者と死別した高齢者が子供と同居しなくなった影響が大きいです。また、未婚化の進展も、高齢単身世帯の増加に影響を与えています。

今後をみても、少子化の影響を受けて、「20代」の一人暮らしが2割程度減少するのに対して、「50代」や「80歳以上」の単身世帯が1.5倍前後増えていくと推計されています。若者の単身世帯数が減り、中高年や高齢者の単身世帯数が増えていくので、社会に与える影響は大きいことが予測されます。
では、単身世帯の増加は問題なのでしょうか。
言うまでもないことですが、一人で暮らすかどうか、結婚するかどうかは、私的領域の事柄です。それぞれの人がそれぞれの価値観に従って、ライフスタイルを選択するのに良いも悪いもありません。そして、多様なライフスタイルが広がることは、社会として歓迎すべきことだと思います。
しかし、リスクという面に目を向けると、単身世帯は、いざという時に支えてくれる同居家族がいませんので、二人以上世帯よりも世帯としての力が弱いことが考えられます。例えば、二人以上世帯であれば、失業したり、長期入院した場合に、一方の配偶者がやりくりをして、貧困に陥らないようにすることができますが、単身世帯ではそれができません。実際、単身世帯は、他の世帯類型に比べて貧困に陥る人の比率が高くなっています。
また、単身世帯は、同居家族がいませんので、介護を必要とする場合に、同居家族に頼ることができません。
さらに、社会的に孤立するリスクもあります。例えば、高齢単身男性の6人に1人が2週間に1回以下しか会話をしていないことが指摘されています。
では、単身世帯の増加に対して、どのような対応をすべきでしょうか。誰もが単身世帯になりうるのですから、私は「社会としての支え合い」を強化していく必要があると考えています。具体的には、3つの点があげられます。
第一に、社会保障の機能強化です。日本の社会保障制度は、家族の強固な支え合いを前提としてきたため、国際的にみると安上がりな制度となっています。

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こちらの表は、各国の社会支出を比較したものです。横軸は高齢化率を示し、縦軸はGDPに占める社会支出の割合を示しています。斜線は、全体的な傾向をとらえたものですが、日本の高齢化率はOECD33カ国中トップだというのに、社会支出は、全体的な傾向ラインを大きく下回っています。高齢化率が高いわりに社会保障が薄い「低福祉」の水準になっています。
しかし、家族や世帯の機能が低下する中で、家族に従来通りの役割を求めることは難しくなっています。財源をきちんと確保して、社会保障を強化していくことが求められています。
第二に、地域づくりです。身寄りのない一人暮らし高齢者であっても、安心して住み慣れた地域で自立した生活を送れるように、医療、介護、生活支援などを提供する専門職が、地域ごとにネットワークを築いて、一人暮らし高齢者の生活を支えていくことが求められます。
また、「住民同士のネットワーク」の構築も重要になるでしょう。特に、今後高齢者が増えていくのは大都市圏です。大都市圏のマンションや団地では、隣近所と人間関係が築かれていないことも珍しくありません。大都市圏で、どのように住民ネットワークを築いていくのかは大きな課題となっています。

第三に、働き続けられる社会の構築です。高齢単身世帯の抱える貧困や孤立のリスクに対して、働き続けることが大切になります。働けば収入が得られるだけでなく、職場の仲間との間に人間関係が生まれます。仕事を通じて社会との接点ももてます。健康寿命が伸びているので、元気で就労意欲をもつ高齢者が働くことによって貧困や孤立を防止できるように、就労環境を整える必要があります。
これまでみてきたように、家族機能が低下する中で、日本は岐路に立たされていると思います。社会保障給付を抑制して、本人やその家族による対応を求める社会にしていくのか。あるいは、税金や社会保険料は高まりますが、皆でリスクをカバーできる支え合う社会を作っていくのか。どちらに比重を置いていくのか、方向性が問われています。
確かに、巨額の財政赤字を抱えるなど、「重苦しい現実」はあります。しかし、財源をきちんと確保して、支え合う社会を構築することは、国民の意思でできることです。
誰もが単身世帯になる可能性がある中で、支え合う社会は、人々の暮らしやすさにつながっていくと思います。

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