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「第2の地球に生命を求めて」(視点・論点)

東京大学大学院 教授 田村 元秀

今年2月に、天文学者が地球に似た惑星を7つも持つ恒星を発見した、というニュースが大きな話題になりました。ついに宇宙人が見つかったのでは、と思われた方もいるかもしれません。しかしこれは、人類にとって根源的な問いかけとも言える、「この広い宇宙で地球だけが特別の存在なのか? それとも第2の地球はありふれた存在で、そこには生命がいるのではないか?」という課題に答えるために、画期的な発見となるものです。この問いは、二千年以上前の哲学者たちもいだいていたものですが、これに対する科学的な答えを現在の私たちもまだ知らないのです。

しかし、いま第2の地球を探す研究は新たな発見が続き注目を集めています。きょうは、この太陽系以外の恒星の周りの惑星、すなわち系外惑星の探査の最新事情をお話します。
第2の地球を探す研究をめぐる状況が一変したのは1995年のことです。この年に確実な系外惑星が初めて発見されたのです。太陽系内に留まらず、宇宙にある無数の恒星の周りに地球に似た惑星を探し、そこに生命の証拠を科学的に求めることができる時代が到来しました。実際、この20年ほどの短い期間でも約4000個もの系外惑星が発見されており、地球サイズの小さな系外惑星も、今では珍しくありません。
しかしながら、系外惑星を観測することは容易ではありませんでした。もっとも近い恒星でも、太陽系内の惑星と比べておよそ十万倍も遠くにあるからです。現在の技術では探査機をこれらの星に送ることは難しいため、望遠鏡を用いた天文観測に限られます。

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それでは、具体的にはどのようにして系外惑星は発見されてきたのでしょうか?
代表的な系外惑星の検出方法としてはドップラー法とトランジット法が有名です。ドップラー法は、惑星が中心の恒星、すなわち主星のまわりを公転する際に、主星自体の速度がふらつくのを、主星の光を数万色の虹に分けて、その波長変化を高精度で測定する方法です。トランジット法は、主星の前面を惑星が通過する際に、主星の明るさが変化するのを精密に捉える方法です。これらはいずれも惑星そのものを直接に見分けて観測しているのではないため、間接法と呼ばれています。明るい恒星の近くにある暗い惑星を直接に「見る」事、つまり直接撮像は、さらに困難な観測でした。

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2008年頃には、ようやく太陽系サイズの軌道にある系外惑星を「画像として直接に写す」ところまで技術が進みました。この方法は、あたかも遠く離れた灯台のそばにいる淡いホタルの光を捉えるようなものです。画像のピンボケの元となる陽炎のような大気のゆらぎを時事刻々と補正し、シャープな星像を得る補償光学や、日食を人工的に作り明るい主星の光を抑えるコロナグラフという最先端の観測技術が実現したのです。

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その結果、日本のすばる望遠鏡では「第2の木星」とも呼べる巨大惑星の撮像に最初に成功しています。また、惑星の誕生現場の微細な構造からは、惑星存在の証拠を初めて数多く得ることができるようになりました。

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このような天文観測手法で発見された系外惑星は、宇宙に多数の「新世界」があることを教えてくれました。なかでも、ホット・ジュピターと呼ばれる、恒星のごく近くを周回する高温の惑星の存在や、スーパーアースという、地球より少しだけ重い惑星が宇宙には多数存在することは、多くの科学者の想定外でした。また、このような種類の惑星は太陽系には存在しないので、太陽系を唯一の手本として積み上げられてきた標準的な惑星形成論に大きな修正を迫るものとなりました。
地球とは異なった、さまざまな年齢や違った環境にある「第2の地球」を調べることで、生命の起源や進化に迫ることが可能になります、そして近年、数多くの地球サイズの惑星が発見されています。
2009年に打ち上げられたNASAのケプラー衛星は、大気の揺らぎの影響の無い宇宙空間からの観測により数千個の惑星候補を発見し、いくつかのハビタブルな地球サイズの惑星も見つけました。
ハビタブルとは生存可能という意味ですが、天文学では、生命にとって重要な水が液体で存在しうる惑星のことを意味します。しかし、ケプラー衛星が発見した惑星は、いずれも数百光年以上と地球から遠すぎて、現在の観測技術ではもちろん、近い将来でもそこに生命の証拠を探すには不向きでした。
このような中で、去年の8月に、欧州南天文台の研究者たちが太陽の隣の星であるプロキシマ・ケンタウリにハビタブルな地球型惑星を発見し、その温度は生命の存在に適するという大きなニュースがありました。これは、地球からわずか4光年しか離れていません。最も近い星なので、将来的には、この星を目がけて小さな衛星を飛ばすというブレークスルー・ショット計画もあります。

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さらに、今年の2月には、冒頭で述べたような、ベルギーのリエージュ大学のグヨン博士らがトラピスト1(いち)という恒星のまわりに7つの地球型惑星があることを発見し、そのうちの少なくとも3つはハビタブル惑星であることがわかりました。これら7つの惑星は、太陽系でいえば水星のはるか内側の、恒星のごく近くに密集していることも、多くの人々の想定外でした。どうのようにしてこのような惑星が生まれたのか、多数の地球型惑星を持つ惑星系はありふれているのか、今後の研究が必要になる発見でした。

プロキシマ星やトラピスト星の面白いところは、太陽と比べると重さが1/10程度と軽いため、温度が低く、赤くて暗い赤色矮星と呼ばれる星であることです。実は、宇宙の大部分の恒星は、太陽型の星ではなく、赤色矮星です。このような星のまわりの惑星は、太陽と全く違う環境だと考えられますが、そこにどのような生命が存在しうるのか、興味は尽きません。
さて、系外惑星の研究は今後どのように展開して行くのでしょうか?
「太陽系の近くの、軽い恒星のまわりの地球型惑星」は、すばる望遠鏡のIRDと呼ばれる新装置や、来年初めに打ち上げ予定のNASAのTESSと呼ばれる小型宇宙望遠鏡および地上からの確認観測などで、今後も数多く検出されると期待されます。
さらに、これらの星は十分に近くて明るいため、同じく2018年後半にも打ち上げられる予定の、NASAのジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を用いると、その惑星に、水や酸素やメタンの有無が確認できるでしょう。ひょっとすると、植物のクロロフィルに特徴的なスペクトルさえ見られかもしれません。これらの特徴は生命存在の強い証拠となるものです。
日本の研究も盛んです。大学共同利用機関法人である自然科学研究機構は平成27年からアストロバイオロジーセンターを立ち上げました。正に、このような系外惑星研究の著しい発展を背景に、国内外の研究機関と連携しつつ、宇宙、とりわけ系外惑星における生命の探査を目指した、国際研究拠点となることを目指しています。

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いま、約10年後に完成するTMTという口径30メートルの次世代超大型望遠鏡などを用いて「第二の地球を直接に見る」というプロジェクトが進んでいます。このような生命存在の証拠を望遠鏡を用いて捉えることは、地球一つに限らず、多くの恒星のまわりに沢山の「第2の地球」を発見し、そこにどのような生命が有り得るかという、天文学と生物学の融合が期待されます。
系外惑星研究は、今後もアストロバイオロジーという「宇宙における生命」の研究に不可欠な情報を提供する、基盤分野でありつづけるでしょう。

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