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「減らない飲酒運転 その対策は」(視点・論点)

法政大学法科大学院 教授 今井 猛嘉

飲酒運転は、非常に危険な運転です。飲酒により、体内のアルコール濃度が一定の数値を超えると、自動車を安全に運転する能力が低下し、自分や他人の生命、身体を危険にさらす可能性が高まるからです。そのため飲酒運転は、法律上、禁止されており、禁止に反して飲酒運転をすると犯罪にも問われます。

このような飲酒運転の危険性は、運転免許を取得する際にも学び、誰もが知っていることなのですが、飲酒運転による悲惨な事故は、いまだに減っていません。昨年は、飲酒運転の死者数が16年ぶりに増加に転じています。

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本年2月23日の警察庁の発表によりますと、交通事故による死者数は3904人で、67年ぶりに4000人を下回った一方、飲酒運転による死亡事故数は213件、死者数は221人と、前年から16人増えました。飲酒運転による死亡事故率は、それ以外の場合と比べて8倍以上高く、二日酔いの運転手が死亡事故を起こしたケースもあったとのことです 。
国も、飲酒運転の撲滅に向けて、多くの対策を講じてきました。例えば、道路交通法による、飲酒運転をした者を処罰する規定が改正され、刑罰が引き上げられました。また、自動車運転死傷行為処罰法が制定され、アルコールの影響で正常な運転が困難な状態であることを知りつつ、運転を開始し、よって人を死傷させた者は、より重く処罰されるようになりました。
これらの法制度の整備は、飲酒運転により多くの人命が一度に失われた悲惨な事故が相次いで生じ、社会問題となったことを受けての対応です。

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例えば、2006年には、飲酒して暴走してきた車に追突された車両が、海に転落し、幼い子供三人が死亡し両親も負傷した事故が福岡で発生し、飲酒運転の撲滅を目指す機運が、非常に高まったところです。
以上の新たな法制度が施行されると、しばらくの間は、飲酒運転による事故は減少に転じました。
しかし、最近になり、また、悪質な飲酒運転による死傷事故が増えつつあるようです。例えば、北海道では、飲酒した者が自動車を暴走させて多くの人命が失われる事件が起こっています。
こうした状況は、飲酒運転者を処罰する法律の改正、整備が、効き目がなかったことを、意味するものではありません。飲酒運転が大変危険で、悪質な運転であることは、免許取得者は、誰でも知っているはずの基本事項です。先の法律の整備は、飲酒運転が、どれだけ悪質で非難されるべき行為であるかの再確認を目指したものでした。そのための罰則の引き上げ等は、正しい対応でした。
問題は、こうした基本的な事項を忘れて、なお飲酒運転をしてしまう人がいること、そうした人の中には、飲酒運転をしたものの、幸いにも事故に至らなかったので、飲酒運転が悪いことだという意識がますます低下し、最後に重大事故を引き起こした人がいる可能性がある、という点です。こうした、飲酒運転の常習者、言い換えると、最も危険な行為者群に属する方は、飲酒運転に対する抵抗力が低下しているおそれがあります。そこで、彼らの飲酒運転に対する意識を変えるべく、科学的・心理学的措置をとることと、飲酒運転をできなくする技術的措置を導入することが、必要です。
前者の、飲酒運転常習者の意識改革の前提として、社会意識の向上が必要ですが、これは、既に、国、地方自治体によってなされているところです。
警察庁は、飲酒運転に対する罰則を強化する際に、飲酒運転の悪質性と、その予防が、最終的には、国民各人の意識にあることを強く訴えています。

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地方自治体でも、例えば、福岡県や北海道では、条例により、飲酒運転の撲滅に向けて、運転者、彼らに酒類を提供する可能性がある飲食店等事業者、及び、飲酒運転によって被害を受ける可能性がある社会全体が、毅然として、飲酒運転を拒絶すべきことをうたっています。
こうした広報活動は、すぐには効果を上げないかもしれません。しかし、飲酒運転の予防は、最終的には、飲酒運転は、運転者として最低限のルールすら守れない恥ずかしいことだという意識を各人が持つことでしか、達成できません。そこで、社会全体での飲酒運転撲滅活動は、更に強化される必要があります。
同様の意識改革を、飲酒運転をする可能性が高い危険な行為者に対して行うには、精神医学や心理学の知見が活用されるべきです。具体的には、アルコール依存性が認められる方への認知行動療法の積極的活用に加えて、コミュニティー強化法と家族トレーニング(CRFT)等の手法の利用も、検討されるべきです。
飲酒運転の技術的予防策としては、飲酒した者による自動車の操作ができなくなる器具を、自動車に装着することが考えられます。

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この器具は、アルコール・イグニッション・インターロックといいます。運転しようとする者が、インターロックに息を吹きかけると、その者の体内のアルコール濃度が検知され、法律で禁止されている程度に至っていると判定されれば、エンジンが作動しない、つまり、ロックされたままになるのです。この器具の利用は、海外では広まっています。例えば、公務用車両、児童を学校に送迎するためのバス、一般乗客が乗り合うバス等の運転者は、インターロックの検査をパスしなければ、車両を運行できない制度が採用されつつあります。
インターロックにも、課題があります。第一に、他人の呼気によりインターロックが解除され、実は体内のアルコール濃度が高い者が運転してしまう可能性もあります。第二に、インターロックの装着には高額の費用がかかるため、一般ドライバーは余分な経済的負担を嫌い、これを用いない可能性もあります。しかし、呼気検査を受ける者と実際の運転者の同一性確保は、ドライブレコーダーによるモニター等で可能となりますし、飲酒運転による悲惨な結果を防止するためであれば、補助金を更に活用するなど、公費を用いたインターロックの導入を加速することが、少なくとも事業用車両との関係では検討されるべきでしょう。
インターロックの導入と並行して、他の技術的対応も考えられるべきです。例えば、飲食店等に簡易呼気検査器具を無償配布し、飲酒した者は自分で呼気検査をし、運転不能と分かれば、代行業者を利用しなければならないとすることが考えられます。簡易呼気検査器具の無償配布は、フランスでは以前から行われており、一定の効果を上げているところです。
以上のように、飲酒運転を、よりよく防止するには、整備された罰則規定を更に周知させることと、飲酒運転を繰り返す最も危険な行為者群に、先に述べた医学的、心理学的対応をすることが、望まれます。こうした、人々の心理に訴えかける科学的措置と並行して、技術的施策としては、インターロックの導入も急がれるべきです。また、将来、自動運転が可能となり、車両の乗員が全く運転操作をしなくても安全な走行が出来るようになれば、つまり、自動運転のレベルが4以上になれば、公務用車両、業務用車両から、そうした自動運転の利用を進め、飲酒運転による死傷者数を抑えるようにすべきでしょう。
飲酒運転の防止には、心理学・医学的措置と、技術的措置のいずれもが重要だと思われます。

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