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「東日本大震災から6年②」(視点・論点)

弁護士 在間 文康

東日本大震災から6年が過ぎ、甚大な津波被害を受けた岩手県沿岸部では、高台造成工事や災害公営住宅の建設が進み、被災者の生活再建は本格化を迎えています。
一方で、岩手、宮城、福島の被災3県では、仮設住宅に今なお7万人を超える被災者が入居しており、いまだ生活再建のめどが立たない方も多くおられます。

土地造成工事の工期が延長となり、移転先が確保できない被災者や、震災から時間が経過する中で家族関係が変化したり、将来の街の姿が見通せないことを不安に感じ、生活再建の方法を決められない被災者が多くいらっしゃいます。
また、自宅再建を望んでいながら、経済的な事情から、これを果たせない方もいます。
震災から6年が経った今もなお、解消されたとは言えない問題の一つとして挙げられるのが二重ローン問題です。津波で建物が全壊しても、ローンはなくなりません。被災者は、震災前のローンに加えて、新しい住宅のためのローンを負担することになります。これが二重ローン問題です。
この二重ローン問題に対処するために、2011年8月に、個人債務者の私的整理に関するガイドライン、通称、被災ローン減免制度の運用が開始しました。これは、震災がきっかけで返済が困難になった借入れを一定の要件の下で減額免除するという被災者救済制度です。
被災ローン減免制度は、一定の効果はあったものの、二重ローン問題を抜本的に解決したとは言えない状況にあります。

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制度を取り仕切る個人版私的整理ガイドライン運営委員会によると、2017年3月3日までに寄せられた個別相談5755件のうち、債務の減免に至ったのは1351件に留まると公表されています。つまり、相談した人のうち約4人に1人しか、債務の減免を受けられていないということになります。
その一因として、減免を受けるためには全ての債権者の同意が必要とされたり、一定以上の収入がある人は制度が使えなかったりするなど、厳しい条件が設けられたことが指摘されています。また、当初は、仮設住宅に入居した被災者は制度を利用できないとされていたなど、被災地の実態とかけ離れた運用がされてしまったことも問題でした。
被災ローン減免制度を利用できなかった被災者の中には、震災前のローンを負ったまま、新たなローンを組むことができず、二重ローンになることすらできずに、希望する生活再建、住宅再建を果たせずにいる方が多数おられると推測されます。

また、被災者の生活再建を後押しするはずの制度が十分に活用されていないことを示すものの一つとして、災害援護資金貸付という制度に関する問題も挙げられます。災害援護資金は、被災世帯が生活再建をする際に、一般の借入れに比べて緩やかな条件で最大で350万円を借りることができる制度です。

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2017年1月末日時点の利用件数は、宮城県内の市町村で2万3746件、福島県内で3133件、岩手県内で1057件と、被災3県で大きな開きがあります。
これだけ大きな違いが生じている背景には、財政基盤が乏しい市町村の中には、条件を厳しく設定し、貸し付けに消極的な運用を取っている自治体があるといったことも指摘されています。この制度は、市町村の貸付を国が支える仕組みになっていますが、十分に機能していないと考えられます。市町村が被災者に積極的に貸し付けを行えるよう、国がより手厚いサポートをする必要があります。

こういった制度の運用の問題のみではなく、被災者の生活再建を支援する制度そのものが実態に即していないという問題も指摘されています。
被災世帯に最大で300万円が支給される被災者生活再建支援金は、被災者の生活再建にとって貴重な資金となるものですが、次のような問題を含んでいます。
一つが、300万円という金額は、被災者が震災前の生活を取り戻すのに十分とは言えない点です。震災後、資材や人件費が高騰しているのに伴って、住宅再建のコストは増え続けており、支援金のみでは再建は果たせないという声が絶えません。
他に、支援金の対象となるのが一定以上の住家被害を受けた世帯に限られているという点も問題です。全壊もしくは大規模半壊の被害認定を受けたことが条件になっており、半壊や一部損壊といった被害認定しか受けなかった方は対象になりません。半壊と認定されたために支援金をもらえず、十分な補修もできないまま、被災した家での生活を余儀なくされている在宅被災者の存在も問題視されています。また、家は被災しなかったものの生業を失ったというような被災者も支援金の支給対象にはなりません。
このように、被災者の生活再建を支える制度が十分でないがために、支援の網から漏れてしまった被災者も救済の対象となるよう、被災者支援制度の抜本的な改善が求められています。

最後に、震災関連死の問題についてお話ししたいと思います。
災害で亡くなった方の遺族には、最大で500万円の災害弔慰金が市町村から支給されます。ここで、災害で亡くなったとは、災害そのものによる直接死だけではなく、広く災害によって亡くなったと言える場合、例えば、災害から一定期間が経った後に避難生活のストレスから亡くなったというような場合も含みます。震災によって亡くなったと言える場合には、震災関連死として遺族に災害弔慰金が支給されることになります。
もっとも、震災によって亡くなったと言えるか否か、震災と死亡の間の関連性を判断するのは容易ではありません。
震災関連死の認定を巡っては、東日本大震災後、遺族による訴訟が相次ぎました。遺族にとっては、震災関連死と認められることは、弔慰金を受け取れるか否かということに留まらず、大切な家族が命を落としたのは震災が原因なのだと公的に認められることによって、心理的な慰めになるものです。
しかし、震災関連死と言えるかどうかを判断する審査のあり方は市町村によってまちまちで定まっていません。東日本大震災では、本来判断をするべき市町村が県に審査を委託するケースが見られました。これに対しては、被災地の現場から離れたところで審査が行われることで、被災地の実態に即さない判断がされてしまっているという批判がされています。
震災関連死と認定されることは、遺族の救済となるだけでなく、将来の災害で同じような犠牲を生まないよう対策するきっかけにもなるものです。被災地の実情を考慮し、適正な審査が行われなければ、将来の災害に向けての遺訓となるべき事例が闇に葬られることとなってしまいます。
被災地の実態に即した適正な結果が導かれるために、震災関連死の審査のあり方はどうあるべきか、改めて検討される必要があります。

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震災から6年が経過して、今なお生活再建を果たせずにいる被災者の姿は、現在の被災者支援の制度や運用のあり方が十分ではないことを浮き彫りにしています。災害はいつどこで起きてもおかしくありません。東日本大震災の被災地で起こっている問題は、誰もが当事者になりうるものです。この国で生活する全ての方に、被災者支援はどうあるべきかを考えていただければと思います。

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