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「東日本大震災から6年③ 福島第一原発 廃炉への課題」(視点・論点)

法政大学大学院 教授 宮野 廣

東日本大震災から6年が経ちました。衝撃的な情景と共に福島第一原子力発電所の事故の印象が、焼きついて消えませんが、そろそろ、しっかりと国のエネルギー問題とこの事故炉の廃炉を、▼どのように進めて行くべきかの議論に真摯に向き合うべき時期になったと思います。
廃炉の作業では、2号機の格納容器内部の映像が得られ、損傷が想像以上に大きく、高い放射線が測定され、かなり厳しい環境にあるという状況がわかってきたようです。

今年の半ば、夏頃には、内部に残された多くの燃料デブリの扱いの方向が、まとめられる予定です。そこで、今日は、福島第一原子力発電所の事故炉の廃炉について、
その論点を明確にしたいと思います。

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まず今の福島第一原子力発電所の状況を簡単にみてみます。福島第一の敷地全体の広さは、約350万m2あります。東京ドームの75個分です。▼そこには、原子力発電所が1号機から4号機までの4基と、5号機6号機があります。1号機から4号機の前には、港湾施設があります。敷地内には多くの水を貯めるための、タンク、水槽類があり、現在まで、100万トンにせまる汚染水がこのタンクに貯蔵、保管されています。

発電所の状況は4号機では、既に使用済燃料は全数取出されて、今は、これから除染して解体する、一般の廃炉の廃止処置を待つのみの状態です。
1号機から3号機の事故炉の状況は、それぞれの特徴がありますが、大体同じようなものでしょう。炉内の燃料は、多くが溶融、破損し、一部は炉低部にたまり、固まっている状態で、一部は、炉低部から高熱の液状となって漏れ出し、フラスコ状の格納容器の底部にある、コンクリート部を溶かして、固まった状態となっていると推定されています。

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この廃炉の作業は、周辺地域の放射性物質による汚染の、除染や、住民の補償を含めて、国が全体の取りまとめ指揮をしている体制となっています。
実際には、組織のトップにNDF(原子力損害賠償・廃炉等支援機構)を置き、研究開発を分担するIRID(国際廃炉研究開発機構)やJAEA(原子力研究開発機構)、さらに実行部隊である東京電力ホールディングスの廃炉カンパニーがある、という体制です。
取り組みの基本方針は、「安全」、「合理的」、「迅速」、「現場志向」として、中長期戦略プランを立てて、それをロードマップの形に見える化を行い、実行管理をしていくものです。

最も重要な方針が、「リスク低減戦略」です。
それは、様々な放射性物質を特定し、その特徴を捉えて、分析、評価して、優先順位を決めた上で、リスク低減のための対応を決定する、というものです。これを着実に進めるために、プロジェクトリスクを特定して、適切に管理する方式です。これらの計画を社会と共有して、協働で廃炉を進めると言う考えです。

学術界は、この廃炉の活動に対して、積極的に貢献したいと考えています。これまでの活動の中から、見えてきた課題がいくつかあります。

まず、プロジェクト全体における問題です。廃炉事業は先に示したように様々に役割分担を行っています。重要な問題は、誰が責任を持って実行して行くか、全体の責任者が見えないことです。お互いに”お願いごと”になっており、指示する仕組みとなっていないのは、目標を達成する強い意思が見えないと言うことでしょう。
物事を進めるには、モーティベーションと言われる、「やる気」が必要ですし、個々の目標が達成、「できた、できなかった」での賞罰が必要なのではないでしょうか。このプロジェクトには、これらを管理する仕組みも、体制もできていないように見えます。実行部隊までの流れが管理できない体制では、目標達成を主導することは、できないのではないか、と危惧されます。

二つ目の問題点は、事故炉の安全目標です。通常の原子力発電所では、安全目標を定めて、それに基づき、格納容器の破損限界や炉心燃料の溶融限界、を定める性能目標を決め、設備の設計基準を定めています。しかし、福島第一原子力発電所は、既に事故炉となって大きく損傷しており、燃料を内在するとは言え、通常の原子力発電所に適用している、安全目標や基準を適用することは、適切ではありません。早急に、この損傷を受けた炉の具体的な安全の目標を定めることが必要と考えます。その上で、具体的に管理しなければならない項目とその管理値を明確にすることが必要でしょう。
現在のロードマップでは 2020年に汚染水の処理を完了させ、2021年には溶けた燃料の取り出しを始め、2051年までには廃炉が完了する計画です。しかし、このロードマップでは発電所内全体の、最終の姿については、示されてはいません。現在も、大量の廃棄物を抱えており、今後さらに大量の放射性廃棄物、特に高い放射線レベルの廃棄物が、原子炉内から敷地の方には出てきます。

三つ目の問題は、これらをどのように処置するのかが、議論もされてはいないということです。最終的な状態=すなわち、エンドステートが見えないと言うことです。限られた敷地内で、長期に渡り、これらの廃棄物をどのように管理して行くのか、またどのように処分して行くのか、その方向性によっては、発電所の廃棄作業は、大きく異なり、廃炉の手順も変わってくるのではないでしょうか。

福島第一原子力発電所としての、管理基準を定めなければなりません。
重要なのは、放射性物質の排出基準でしょう。大気への放出に対して現状は、放出する側には、規制は掛けられていない状況です。周辺のモニタリングポストでの測定で、異常がなければよい、としています。原子力発電所では、漏れることは許さない管理をしています。隔離も最も重要な要求でもあります。
また、地下水への排出においても、排出基準は明確には設定されていません。海水域での測定や井戸での測定など、いくつかの地点での測定は行われています。これも、どのような基準を要求するのか、またそれをどのように管理確保して行くのかを定めなければならないと考えます。

プロジェクトリスクには他に、投入費用と時間の制限があります。これは正に経営問題であり、プロジェクトの管理母体が国民に納得のいく計画を示すことが必要なことです。廃炉のプロジェクトが、国の予算で動くものである以上、国民の理解が重要です。これに対応する方策が、ロードマップによる管理です。ロードマップは、誰が、いつまでに、どれくらいの費用を使い、目標とする成果を得るかを示すものです。それを明確に示し、ロードマップに基づく評価と管理と、その修正、見直しをするものでなければなりません。

福島第一の廃炉は、我々国民一人一人が積極的に、プロセスを見守って行かなければなりません。
誰が責任を持って運営するのか
目標と責任を明確にしたロードマップとなっているのか
エンドステートをどのように見ているのか
安全目標、コスト運営、管理計測項目、達成時期などを、もう一度、明確にする試みが必要ではないでしょうか。


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