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「食文化と地域活性化」(視点・論点)

エッセイスト 玉村豊男

玉村豊男です。
今日は食文化と地域活性化というタイトルで、私のやっていることに絡めて地方創生のアイデアということで、お話ししたいと思います。

私は元々東京生まれ東京育ちなんですが、38歳のときに長野県の軽井沢町に引っ越しまして、そこに8年くらいいたんですけど、その間にちょっと体を壊したのがきっかけで、後半生は農業、畑をやって暮らそうと、夫婦で話し合って、土地を探して、いまの東御市の里山の上に引っ越しました。

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そこでハーブを作り、西洋野菜を作り、ワイン用のぶどうを植えて、2003年からワイナリーを始めました。ちょうど標高850メートルくらいの景色のいいところで、非常によく乾いた、雨の降らない土地なので、ぶどうがいいだろうと思ってぶどうを植えたんですが、ここの眺めが、正面に北アルプス、その下に上田盆地と千曲川が見えるというすばらしい景色です。
この景色が気に入って移ったんですが、いまはこの周りが全部ぶどう畑になってます。

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メルロー、シャルドネ、その他、ワイン用のぶどうが、今6ヘクタールくらい広がっております。これは秋になって収穫の近くですけど、収穫して、醸造場で潰しているところですね。ワインというのは非常にシンプルで、このまま潰したジュースを、発酵させて置いておくだけなんです。寝かせたあとに瓶詰してワインとして製品になります。

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工場の2階がショップになっていまして、ワインも売ってます。

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その奥がカフェレストラン、そこでワインを召し上がっていただくこともできますし、その奥のほうへ行くと、先ほどの景色が見えるテラス席がありまして、ここでゆっくりと景色を眺めながらワインと食事を楽しんでもらうという、そういう店になっています。

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食事の材料は近くで採れた畑の野菜とかジビエとか、地元のものが特色ですが、特にこの眺めがいいところが自慢で、景色を眺めながらゆっくりと時間を過ごしていただくというための施設になっています。

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東御市というところは、ちょうど軽井沢から少し行ったとこですね。北陸新幹線で行きますと、佐久平と上田の間くらいのところで、東京から比較的近いんですけど、このあたりずっと千曲川の沿岸です。千曲川っていうのは川上村から出てずっと下流のほうは長野まで行くわけですけど、この周辺は元々養蚕の盛んな地域で、すばらしい上質の桑ができるということで有名でした。
ところが昭和40年を境に養蚕業がなくなりまして、近代工業化を進めた結果、桑山は全部荒れ果てたんですね。その荒れ果てた桑山を利用して、今続々とワイナリーが造られている、ぶどう畑が作られているのが現状です。
養蚕製糸業、シルク産業が栄えたこの地域は、50年間放置されてきましたけども、それをもう一回ワインで盛り返そうということで、「シルクからワインへ」という合言葉で、今この地域に小規模ワイナリーを集積しようという取り組みを今やっているところです。
大きなワイナリーが一つできるのではなくて、小さいワイナリーが5件も6件も10件もできるということは、そこを巡りながら旅行される方が出てきますし、そうなると宿泊施設ができたり、レストランができたり、いろんなショップができたりと、そういう非常にすそ野の広い産業なのです。
またその農業の機械を作ったり、あるいはITを利用して栽培をするみたいなことで、周辺の産業にまで影響するということで、近年、この10年20年ぐらいの間にワイナリーの数が一気に増えるという地域が世界中で結構あるんです。ニュージーランドもそうですし、アメリカではオレゴン州とかニューヨーク州とか、バージニア州もそうですね。
あと今、世界中でワインを作るようになりまして、タイでもインドでも、中国でも、かなりいいワインが出来てきてます。そういうところでは、ワイン産業による地域活性化というのが、かなり進んでいるところがあります。
ワイナリーが小さいのができると、そこに観光に来る人が何泊かしながら動きますから、ワインが作られてるところで、その風光を味わいながら、その作り手と話をしながら飲むというのが、いちばんのワインの楽しみです。
そういう意味で必要な要素というのは、そこでできるワインを、そのぶどうが実ってる風景を眺めながら、そのワインを飲んで、そこの土地で採れた食べ物と合わせるというのが、いちばんの楽しみなんですが、実は、今、長野県内に33件ワイナリーありますけど、その中で畑の見えるところで食事ができて、ワインも楽しめるというところは以外に少なくて、まだ3、4か所しかないんですね。
これはいろんな法的な問題があります。農地法とかで、ワイナリーというのは農産物の加工施設ですから、農地に造ることは可能なんです。だけど、農地にワイナリーが建っちゃった場合は、そこで飲食業は営めないんですね。飲食業を営むには農地転用しなきゃいけないので、これが普通許されないということで。自分のところで作ってるワインを試飲してもらうのはいいんだけれども、コーヒー一杯出すのは飲食業だからダメですよ、というふうな規制がほとんどのところで行われています。
ですから、せっかく眺めのいいところに工場ができてワインもあるのに、レストランができないという。こういった規制はこれから是非、僕は緩和してもらいたいなと思うんですけれどもね。
新規就農の人はどんどん増えてきてます。できればそこに住んで、そのすぐ近くでぶどうを作って、ワインを作ってという暮らしを見に行くのがワイナリー観光の楽しみですから。その意味で、ものを食べる、食文化の成立というのは地域活性化、地方創生に非常に大きな問題です。箱物を建てるよりも一軒おしゃれなレストランができると、そこに人が集まって来ますから。
いまはもうインターネットでみんな探して行きますからね。

例えば東京の有名な店が、長野県のどっかに移りましたっていうと、それだけでお客さんも一緒についてきますから。こうやって食の活性化による地方創生というのは、今、東北とか北海道で、すでにそういう例がいくつかあって成功してるところもあります。地方はそもそも食材の宝庫なんですね。
そこで野菜が採れ、ジビエが獲れ、何が獲れ、それを普通は大都会に運んで、都会のレストランでやるわけですけど、実際にはそこでできた、とれるところで料理にして食べたほうがおいしいわけですから。むしろ素材のあるところに料理人を呼んでくるという、そういう発想のほうが活性化としてはいい方法だと思います。
田舎にこそ、本当はおいしいものがあるんです。例えば家の周りでも、これから夏野菜とかいっぱいできてくる。なすだ、きゅうりだ、トマトだって、そんなものばっかり毎日食べてると飽きちゃうと言いますけど、実際には採れたての野菜ほどおいしいものはない。それは東京では絶対味わえないものなんですよね。そういう意味では、地元の人たちは気が付いてないけど、本当においしいものは田舎にあるんです。
その素材のある、おいしさというものを、みんなが、地元の人が理解をして、そこでおいしく食べる料理をできる人を呼んできて、そこで都会から来る人に食べさせて。そうすると、「おいしい、おいしい」って喜んで食べてくれると、地元の人たちもすごくうれしい気持ちになりますし、そういって来た人たちが食べ物を媒介にコミュニケーションをしていく。そういうのが新しい観光のやり方だし、そうなるとそこの野菜を作ってる人のところにまた訪ねて行ったり、お互いにそういう行き来ができるようになる。
今、実際に、家の周りでも小さなパン屋さんとか、本当にわざわざ探さないと行けないような、どうしてこんな辺鄙なところに造るのかみたいなところにいっぱいそういう店が出来てるんです。若い人がみんな始めてます。
そういうところを巡りながら歩いて行くという、それが新しい食、ワインていうのはひとつのキーワードなんですけど、それを中心に食文化が広がっていく。で、一緒にワイン飲むということは、昔みたいに、おじさんたちが日本酒でワイワイ、男ばっかりが集まって飲むような宴会ではなくて、男女一緒にワインのある食卓を囲んで楽しむという、そういう新しいライフスタイルを生み出すことでもあるわけです。
地域によっていろいろ事情が違うでしょうし、あるものが違いますけども、それぞれの地域に、やっぱりその土地ならではのすばらしいものがあるはずで、そういった足元にある宝物を是非見つけて、それをおいしく食べさせる方法を、施設を造ろうと考える、これが今いちばん手近に関われる地方創生のアイデアではないかなといつも思ってます。そういう意味で、日本各地にそういう、そこへ行かなきゃ食べられないものというのがあるような店が増えるといいですね。
今日はありがとうございました。

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