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「日米首脳会談の成果は」(視点・論点)

双日総合研究所 チーフエコノミスト 吉崎 達彦

2月10日、安倍晋三首相が訪米し、トランプ大統領と初めての日米首脳会談を行いました。また週末は両首脳がフロリダ州の別荘「マー・ア・ラゴ」でゴルフを楽しみ、親交を深めました。
今回の訪米に対しては、「満額回答」との声もあります。それでは何が成功だったのでしょうか。一言で言えば、「トランプ政権の予見可能性が高まったこと」だと言えます。

日米首脳会談が行われたのは、新政権が発足してからちょうど3週間目。トランプ大統領はかねてから、対日貿易赤字や為替レート、在日米軍の駐留費負担などに対して不満を述べており、二国間会談ともなれば「何を言われるか分からない」。例えば「日本を守ってやる代わりに、アメリカ車をもっと買え」といった「無茶な取引」を持ちかけられるかもしれない、といった懸念さえありました。

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ところが終わってみれば、拍子抜けするほどの友好ムードだった。冒頭から、トランプ大統領と安倍首相の19秒間にわたる握手のシーンに目を奪われた。両首脳はお互いにいい雰囲気であることが印象づけられた。記者会見では、「米軍の駐留を受け入れてくれていることに感謝する」との意外な言葉も飛び出しました。
2月12日、北朝鮮は日本海に向けてミサイルを発射しました。これに対し、日米両首脳が即座に共同で会見を行いましたが、もしも発射が首脳会談以前に行われていたら、日米の対応はもっと迷走したのではないでしょうか。たまたま訪米中であったために、かえって日米同盟の緊密さを確認することになりました。北朝鮮にとっては皮肉な結果となったのではないでしょうか。
今回の日米共同声明を見てみましょう。まずは安全保障から。

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「日米同盟はアジア太平洋地域の礎(コーナーストーン)である」というのは、一種の決まり文句ですが、トランプ大統領は記者会見の席で、ときにペーパーに目を落としながらこの言葉を読み上げてみせました。日米のNSC(国家安全保障会議)の事務方の間で、既に互いに綿密な意思疎通が行われていることがうかがわれました。
共同声明では、安保条約第5条が尖閣諸島に適用されることが明言されています。これはマティス国防長官が事前に訪日した際に確認したことですが、同じことが首脳レベルでも確認できたことの意義は大きいです。
他方、南シナ海の問題については、「関係国」といういい方で、中国を名指しすることを避けています。トランプ大統領は日米首脳会談の直前に、習近平国家主席との電話会談を行っており、「ひとつの中国原則に敬意を払う」とも述べています。トランプ政権は中国に対し、単純な対決姿勢を取るつもりではないのでしょう。
現在のトランプ政権は、3週間で24本もの大統領令を発していますが、イスラム圏7か国からの入国停止問題をめぐっては、西側諸国やメディアからの非難を受け、国内では司法との対決状態にあります。また議会では新任閣僚の承認も進んでいません。
こうした中でトランプ大統領が安倍首相を歓迎したのは、「移民問題でうるさいことを言わない日本」が、アメリカにとって都合のいい存在であったということも忘れてはならないでしょう。例えば5月にイタリアで行われるG7サミットに向けて、トランプ大統領が孤立しないように、あらかじめ味方を作っておくという意味もあったのではないでしょうか。

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次に経済面を見ると、「財政、金融、構造政策という3本の矢のアプローチ」という文言が使われています。これはアベノミクスの3本の矢と同じですが、暗に「日本の金融緩和はあくまでも金融政策であって、為替誘導ではない」ことを言っているのではないでしょうか。
また、「日本が既存のイニシアチブを基礎として地域レベルの進展を引き続き推進する」という妙な文言が含まれています。この部分は、「既存のイニシアチブ」をTPPと読み替えてみると意味が通じる。つまり「アメリカがTPPを離脱したことは受け入れます。日米でFTAをやるのもいいでしょう。ただし、日本は他の10か国とともにTPPを諦めてはいませんよ」と言っているのです。TPPはかろうじて、敗者復活への道筋を首の皮一枚で残したといえます。
今回の日米首脳会談では、麻生副総理とペンス副大統領をトップとする新しい協議の枠組みが決まりました。これは大統領の「不規則発言」を回避するための工夫で、日米間の経済問題は閣僚レベルで協議することとなりました。
ペンス副大統領は、昨年までは中西部のインディアナ州知事を務めていました。日本企業が数多く進出している州であり、ラストベルトの中でもここだけは製造業が集中しています。

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同州の駐日代表事務所のホームページを見ると、「労働人口のうち5人に一人が製造業に従事しています」というペンス知事のあいさつが日本語で書かれています。つまりペンス氏は、日本企業のアメリカ経済への貢献を熟知している人物ということ。この人がアメリカ側のトップとなった意味は大きいでしょう。

日米の通商摩擦の歴史は長いです。最初は繊維、鉄鋼、自動車といった製品の輸出を日本側が自主規制する時期がありました。1985年にはプラザ合意があって、為替を大幅に円高に調整するということもありました。日米構造協議では相互の制度を取り上げ、日本の大店法が悪者になったこともあります。さらには日米包括協議で、「日本は黒字減らしの数値目標を作れ」と迫られたこともありました。その都度、日本側は反論したのではありますが、アメリカ側の言い分にも一理あるな、と感じたことも少なくはなかったです。
しかし、今ほど日本側に「やましい部分」がない時期はありません。今の日本は確かに対米黒字があるとはいえ、対中国や対欧州では赤字であり、全体としても2015年までは5年連続で赤字が続いていました。トランプ大統領には、1980年代までの「日本はズルくて、豊かになった国」というイメージが残っているようですが、そうした誤解には堂々と反論し、あるいは丁寧に説明する必要があるでしょう。
今後、日米新経済協議では、①経済マクロ、②インフラ、エネルギー、宇宙、サイバーセキュリティ、③貿易といったテーマを議論することになります。従来のおなじみのテーマのみならず、新しい課題であるエネルギーやサイバーといった分野でも、日米間で幅広い意見交換が行われることを期待したいと思います。
首脳外交には、ときとして個人的な人間関係がモノを言うことがあります。今からちょうど60年前にも、日米の首脳がゴルフをしたことがありました。

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終戦からまだ12年しかたっていない1957年、時の岸信介首相は訪米し、アイゼンハワー大統領と首脳会談に及びました。このとき、アイゼンハワー大統領は岸首相を誘い、バー二ングツリー・カントリークラブという名門ゴルフ場で一緒にプレーしています。このとき、アイゼンハワー大統領は記者団に対し、「大統領は時には嫌な奴とも笑顔で付き合わなければならないが、ゴルフだけは好きな相手とじゃないと…」と語り、日本側を喜ばせたそうです。
その孫にあたる安倍首相は、それから干支がちょうどひと回りした今年、「日米首脳ゴルフ」をプレーすることになりました。トランプ大統領と安倍首相は長時間にわたり、トップ同士でさまざまな話をしながら、喜怒哀楽をともにしたといいます。
おそらくお互いを「好きな相手」だと認め合ったのではないでしょうか。日米関係の歴史における記念すべき1ページと言えるかもしれません。

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