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「脳梗塞 基礎知識と最新治療法」(視点・論点)

兵庫医科大学 主任教授 吉村 紳一

脳梗塞は、脳の血管が詰まることにより起きる病気です。
日本では、年間6万人以上が脳梗塞が原因で死亡しています。
また、死亡しなくても、運動機能や言語に後遺症が残ることの多い病気です。
一方、適切な治療を受けることで、回復が期待できる病気でもあります。
今日は、この脳梗塞の基礎的な知識と新しい治療法についてお話したいと思います。
まず、脳梗塞という病気について説明します。脳梗塞は脳卒中の一種です。脳卒中には血管が破れて出血するタイプと、血管が詰まるタイプがあります。血管が破れるタイプには脳出血とくも膜下出血があり、血管が詰まるタイプが脳梗塞です。

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脳梗塞は時間経過とともに大きくなることが知られています。例えば図のように脳の血管に血の固まり、これを血栓と言いますが、その血栓が詰まった場合、脳に酸素や栄養が行き渡らなくなり、脳細胞が障害を受けます。これが脳梗塞です。
短時間なら一部の障害にとどまりますが、その後、脳梗塞は徐々に大きくなっていきます。

したがって、重要な点は、患者さんや家族が出来るだけ早く救急車を呼ぶことです。発症してから時間が早いほど、回復が良いからです。

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ここで、脳卒中の典型的な症状をお示しします。1番目は顔面の左右差です。「イー」という顔をしてもらった時に顔面の両側が左右対称に動くのが正常で、その動きが左右非対称である場合には異常とみなします。2番目は腕のマヒです。両手をまっすぐ前に伸ばすよう指示した時に、一方の腕が上がらないか、保持できず下がってしまう場合には腕のマヒがあるということになります。3番目は言語の異常です。質問に対して発語が不明瞭であったり、単語を間違える場合、あるいは全くしゃべれない場合に異常とみなします。
重要なことは、これら3つの症状のうち、1つでも異常なら、脳卒中の可能性が72%もあるということです。そのような場合には、一刻を争います。しばらく様子を見る、といったことをしていては治療のチャンスがなくなってしまうかもしれません。すぐに救急車を呼んでください。
また、脳梗塞を発症するリスクとしては、高血圧、糖尿病、肥満、喫煙などがあります。脳梗塞は生活習慣病で、動脈硬化と関係の深い病気です。こうしたリスクを避けることが脳梗塞の予防につながります。

さて次に脳梗塞の治療についてお話します。
脳梗塞に対してはまず血管を再開通させる治療を行います。

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例えば、この図では脳の血管の1カ所が詰まっていて、そこから分かれる3本の枝に血液が流れなくなっています。

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中心部は血流の低下が高度なので、すぐに神経細胞が死んで脳梗塞になってしまいますが、周辺には血流が低下して働きが止まっているものの、まだ細胞が死んでいないところがあります。しかし放置すると、ここも脳梗塞になってしまいます。もしこの部分に手足を動かす機能や言語機能がある場合、脳梗塞になってしまうと、症状が回復しなくなってしまうので、出来るだけ早く詰まった血管を開通させる必要があるのです。血管が開通すれば、血流が回復し、そこにある運動機能や言語機能などが戻るのです。

脳梗塞に対しては、点滴で血栓を溶かすt-PAという薬が使われています。この薬は発症後4.5時間まで使用可能で、一定の効果が確認されています。しかし脳の太い血管が詰まっている場合には、血栓が大きいことが多いため、血管が再開通せず、治療を行っても効果がないケースが多いことが分かってきました。

そこで最近、脳の太い血管を開通させる新しい治療が行われるようになりました。
血栓回収療法と呼ばれる方法です。動画でご説明しましょう。
脳の血管を塞いでいる血栓を取り除くため、
足の付け根から入れた管を血栓まで誘導します。
そして、詰まった部分でご覧のように金属メッシュを開き血栓を覆います。
手前の血管を風船で止めた状態で、金属メッシュをゆっくりと引き戻すと血栓が取れて、
血管が再開通するという仕組みです。
これまでは「血栓を溶かす」という発想でしたが、大きな血栓はなかなか溶けませんし、薬を増やすと出血合併症が増えてしまうという欠点がありました。その点、この方法は薬を使用しなくても機械的に血栓を取り出すので、大きな血栓にも有効とされ、注目を浴びています。

2015年に、血栓回収療法の有効性を確認するための5つのランダム化比較試験の結果が報告されました。「ランダム化比較試験」とはある治療の効果を確認するために、治療をするかしないかをランダムに割り振って、治療の結果を比較する方法です。この試験が世界各国で行われていましたが、そのうちの5つの試験を解析した結果、発症後3ヶ月の時点で社会復帰できたのは、標準的治療群では12.9%でしたが、それに血管内治療を加えると26.8%まで増加していました。また自宅復帰率は26.4%から46.1%に増加していました。つまり、tPA静注療法などの標準治療に血管内治療を加えると、社会復帰率が約14%、自宅復帰率が約20%増加することが科学的に示されたのです。この結果を受けて、アメリカのガイドラインはすでに書き換えられ、一定の条件を満たす場合には血栓回収療法を行うべきであると、強く推奨されています。

一方、わが国の現状はどうでしょうか?厚生労働省によりますと、脳梗塞による死亡数は平成26年で、年間6万6000人を越えています。一方、治療数については、t-PA静注療法が約1万件、血栓回収療法は6000〜7000件と推定されています。合計すると1万6000から7000件ということになりますが、一人の患者さんに両方の治療を行うことも多いので、これよりも少ないと考えられます。また、脳梗塞を起こしても死亡せず、後遺症となる人も多いことが知られています。つまり、5万人以上の方々が血栓回収療法を受けられていないと考えられるのです。

その原因は、なんでしょうか?血栓回収療法を行うことができるのは日本脳神経血管内治療学会の専門医かそれに準ずる経験を有する医師です。こうした専門医はすでに全国に1000人以上いますが、脳梗塞の患者数は極めて多いため、比較するとまだ少ないこと、あるいは地域的に偏在していることが原因の一つと考えられます。また、近隣に専門医がいても患者さんが紹介されないという連携不足も想定されています。
それではどのように対応すれば良いのでしょうか?

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一つの方法は、搬入された施設で、まずtPAの点滴治療を行います、しかし、重症例や太い血管が詰まっている患者さんはtPAの有効性が低いとされていますので、その後、血管内治療の専門医がいる病院に転送し、患者さんの症状が良くなっていなければすぐに血栓回収療法を行うという方法です。この連携システムは欧米ではすでに一般的であり、今後わが国でも積極的に取り入れていくべきと考えられます。
全国各地の連携を強化して、一人でも多くの患者さんが救われるよう取り組んでいきたいと思います。


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