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「部活動顧問と"働き方改革"」(視点・論点)

学習院大学 教授 長沼 豊

最近、政府や企業では“働き方改革”についての議論が活発になっていますが、学校の教員はどうなっているのでしょうか?教員の長時間勤務、特に部活動顧問の負担をどのように改革すればよいのでしょうか?そこで、部活動顧問の長時間勤務の実態について、次にその要因について、最後に改革のための具体例についてお話しします。
まず、部活動顧問の長時間勤務の実態についてです。

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これは、私が助言をしている「部活問題対策プロジェクト」という団体の活動に寄せられた、ある教員の声です。
初任の中学校教員で野球部顧問ですね。毎日の朝練習や放課後の練習などが本来の業務を圧迫していて平日は学校から帰宅するのは午後11時過ぎ、毎日15時間労働ですね。毎週末の土日は一日中部活ということで、休養がとれないまま月曜日を迎え倒れそう、という過酷な勤務実態です。
他には一年間に8日程しか休めないという教員もいました。

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これはOECDが調査した中学校教員の1週間あたりの仕事時間です。日本は参加国の中で最長の53.9時間、参加国の平均38.3時間を大きく上回っています。このうち課外活動の指導時間が特に長いという結果が出ており、日本は7.7時間、参加国の平均は2.1時間でした。
また連合総研の調査では、中学校教員の1日の平均在校時間は12時間10分であることがわかりました。さらに週60時間以上働いている割合は87%で、これは月に換算すると残業が80時間以上となります。つまり9割近い教員が、いわゆる過労死ラインを越えて働いているということになります。
それでいて教員の残業代はゼロですから、部活動顧問として長時間勤務してもサービス残業なのです。このような状況でよいのでしょうか?今こそ教員のワークライフバランスを考え、“働き方改革”を進める時が来ています。
次に、部活動顧問の長時間勤務を生んでいる要因について3つお話しします。
要因の1番目は、部活動の学校における位置づけがあいまいであることです。文部科学省の中学校学習指導要領には、部活動は「教育課程との関連が図られるよう留意すること」と書かれており、学校教育の一環ではありますが、教育課程外の活動であることがわかります。オプションなのです。これには、授業時間数が決められている教科の指導とは異なり、自由に時間を設定して活動できるというメリットもありますが、逆に活動時間が際限なく肥大化する原因にもなってきたというわけです。
要因の2番目は、保護者や社会からのニーズに応えることが求められているためです。「前の先生はもっと親身に指導してくれた」とか「大会に勝つために隣の学校はもっと長く練習している」と言われると、教員は「生徒のためなら」という価値観を最優先にするため、長時間勤務を自ら許容してしまうのです。そのような教員の熱心な姿勢を他の教員も賞賛する空気があると助長されます。また種目によっては、全国大会を頂点として、部活動で活躍する生徒が、やがてプロの選手やオリンピックに出場する選手として育っていくシステムとしても機能しています。こうなると部活動のシステムは社会的ニーズでもあり、簡単にはやめられないというわけです。
要因の3番目は、教員間の同調圧力です。スポーツ庁の調査では、全員顧問制をしている中学は87.5%であることがわかっています。「部活動の指導は当たり前」「残業も当たり前」という意識と勤務実態は、長い期間をかけて出来上がってきたシステムですから、なかなか変えられません。当たり前と思っていることを疑うのは勇気がいります。全員顧問制で成り立っているシステムですから、仮に過酷な勤務実態だとわかっていても、自分だけが顧問を担当しないとか、活動時間を短くしたいとは言えない空気が学校を覆っているのです。まさに同調圧力が働いています。
このような要因をふまえた上で“働き方改革”を進めないといけません。
では最後に、部活動顧問の働き方を改革するための具体例を3つ挙げましょう。
一つ目の例は、NO部活動デーを作ることです。私は昨年から「全国一斉NO部活動デー」を提唱しています。

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これは毎月ゼロのつく日、10日・20日・30日は生徒も教員も部活動を休んで、あり方を考える日にしようというものです。これは一人の教員でも始められます。何人かの教員が一緒にでもかまいません。学校全体でもかまいません。できるところからできる時に始めるのが改革の一歩です。この日が平日であれば授業の準備等に時間を充てることができます。土日であれば、少なくとも連続勤務日数が100日というような教員はいなくなります。始めてみて、授業の質が上がったというような成果や、何か問題点が出てくるのかどうか、などを、ぜひ共有してみてください。休養日がある方が生徒もリフレッシュして活動の質が上がったという例も報道されています。“働き方改革”というのは「量より質が大切」ということを示して成果を出すための改革なのです。仮に抜け駆けをする教員がいたとしても、量より質という価値観が全国で浸透すれば、同調圧力が働く業界だけに変わっていくものと思われます。
行政でもこのような動きを始めたところがあります。大阪府教育委員会は午後7時までに全校一斉に帰宅する日と、部活動をしない日を週1日設けるよう義務付けるとし、平成29年度から本格実施するそうです。このように自治体がリードする場合もありますが、各学校においても一人の教員から複数へ、そして全体へと着実に進めていけばよいのです。大切なことは誰かが始めることです。
二つ目の例は、顧問の就任を選択制にすることと外部指導員の導入をセットで進めることです。部活動は教育課程外の活動なのですから、本来顧問を引き受けるかどうかは自由のはずです。代わりに外部指導員を雇って、教員が担当しない部でも責任をもって指導するようなシステムを作るのです。既に外部指導員制度を始めている自治体もありますし、文部科学省も法的に位置づけようとしています。
三つ目の例は、平日の夕方以降と土日・祝日は学校ではなく地域が担うようにして、部活動のシステム自体を大きく変えることです。例えば岐阜県多治見市の中学校では、教育委員会が指針を作って、平日の下校時刻までは学校の部活動、それ以降の時間帯と土日・祝日は地域のジュニアクラブ活動として学校から切り離し、完全に区別しています。このような取り組みを他の自治体でも進めたらいかがでしょうか?
なお、これら3つの具体例は別々ではなく組み合わせて進めることも可能です。
以上、部活動顧問と“働き方改革”についてお話ししましたが、教員の長時間勤務の原因は部活動だけではありません。教員の業務量全体を見直し、改革する必要があります。このような改革は国だけでできるものではありません。各自治体で、各学校で話し合って改革に向けて動き出す時が来ていると思います。

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