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「鳥の生き方に学ぶ」(視点・論点)

立教大学 名誉教授 上田 恵介

今日は酉(とり)年にちなんで、鳥たちの面白い行動や生態、そして私たち人間と鳥との関わりについて、そして鳥を育む環境をいかに守るべきかについて、お話ししたいと思います。

鳥は多くの人に愛される存在です。それは、鳥はクジャクやオシドリのように美しい色彩を持ち、空を飛ぶというヒトにはまねのできない能力を持ち、しかも多くの哺乳類とは逆に、そのほとんどが昼間に活動するなど、いろんな面で私たちの身近な存在で、人にとても愛されている生きものだなと思います。しかし、多くの方々は、鳥たちの行動や生態について、案外、知っているようで知らないと思います。

 まず「オシドリ夫婦」に代表されるように、多くの鳥たちは一夫一妻制をとっています。

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オシドリが一夫一妻かというと、じつは疑問があるのですが、私たちの身近に住んでいるスズメやツバメ、そしてカラスもですが、かれらは一夫一妻を守っています。

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ツルやハクチョウも一夫一妻です。鳥類の92パーセントは一夫一妻だと言われています。

 これに対して、私たち人間の属する哺乳類は99パーセント近くが一夫多妻か乱婚制です。鳥の多くがなぜ一夫一妻なのでしょう。それは鳥の多くが夫婦で仲良く子育てをするからです。スズメもツバメも、オス、メス両方がヒナにエサを運んできます。オシドリの属するカモ類や、クジャクの属するキジ類では、卵から孵(ふ)化したヒナはもう目が開いていて、全身を羽毛に包まれ、ヒナは自分の足で歩いて、餌をついばむことができます。一方、スズメのヒナやツバメのヒナは、目も開いていないし、赤裸です。両親がしっかり面倒を見て、餌を運んでやらないとヒナが死んでしまうのです。これが多くの鳥で一夫一妻が進化してきた理由です。

さて、つぎに私が研究して来たカッコウのお話をしましょう。

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カッコウはよく知られているように、自分では巣を作らずに、他の種類の鳥の巣に卵を産み込んで、産まれたヒナはその仮親に育てられます。これを「托卵」といいます。日本ではモズやオオヨシキリ、アオジがカッコウの仮親になります。
 カッコウは卵を産むときに、巣から仮親の卵を1個抜き取り、しかも産まれたカッコウのヒナは、仮親の卵を背中に乗せて巣から落としてしまいます。つまりカッコウに托卵されると、仮親の鳥は自分の子どもを残すことができません。

 しかし仮親もやられっぱなしではありません。托卵されることが続くと、中にはカッコウの托卵を見破って、カッコウの産んだ卵を捨ててしまう親もいます。こうなるとカッコウの方が子孫を残せなくなります。仮親の反撃が強くなってくると、カッコウは托卵する種を別の種に変えてしまうのです。

 戦前に集められた博物館の標本を見ると、かつては、カッコウはホオジロに托卵していたことがわかります。

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しかし現在、ホオジロはほとんど托卵を受けていません。しかもホオジロは卵を識別する能力がとても高くて、模様の違う卵を巣に入れると、すぐに放り出してしまいます。だから現在、カッコウはホオジロに托卵できないのです。

 この変化はほんの数十年の間に起こっています。ということは、今後、モズやオオヨシキリが賢くなって、カッコウの卵を放り出すようになれば、カッコウはまた別の種を仮親にしなければなりません。このように托卵をめぐる攻防は、カッコウと仮親の間で、これまでずっと繰り広げられて来たのです。

 一夫一婦制で夫婦仲良く子育てをし、時には、托卵をしてまで、したたかに生き抜いてきた鳥たちですが、現在、世界に1万1000種いると言われる鳥類の8分の1の約1500種が絶滅の危機に瀕しています。現代は恐竜絶滅についで、地球史で6番目の大量絶滅の時代であると言われています。ゾウやサイなどの大型の獣、トラやヒョウといった肉食獣も、人間の影響でとても危うい状態に追い込まれています。鳥たちも例外ではありません。ライチョウやシマフクロウ、アホウドリなど、私たちが手をこまねいていては、この地球上から永久にその姿が消えてしまう危険にさらされている鳥は数多くいます。

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 たとえばライチョウですが、日本のライチョウは3000メートルの高山に生息しています。もし地球温暖化がこのまま進めば、高山地帯にまで森林が広がって、ライチョウがすみ場所にしているハイマツ帯はなくなって、ライチョウもすめなくなってしまいます。

 トキやコウノトリはいまでは数が少なくなって、絶滅危惧種ですが、江戸時代を通じて明治のはじめまでは、野山に普通に生息し、それが農村の風景を形づくっていました。しかし私たち日本人はトキとコウノトリについて、とても苦い経験を持っています。戦後の高度成長期、トキもコウノトリも農薬の乱用によって、日本の田んぼからあっという間に消えてしまいました。その後、中国やロシアから再導入がはかられて、現在、野生復帰への取り組みが懸命に続けられています。近い将来、全国のあちこちで、田んぼにトキやコウノトリがたたずんでいる風景が普通に見られるようになることを心から願っています。

 ところで、日本の農村の風景はトキやコウノトリのいる田んぼと、里山がセットになって存在しています。ここでちょっと里山の鳥についてもお話ししましょう。いま里山が放置され、荒れているといわれています。かつて里山は薪炭林として、山菜やキノコ採りの場所として、常に人が立ち入って手入れをし、維持・更新されていました。里山はクヌギやヤマザクラなど、西日本ではアカマツなどの明るい林から成り立っていましたが、放置されるとササが侵入し、林床はアオキなどの常緑樹に覆われ、いずれはシイ・カシなどの常緑樹林に移り変わって行きます。

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 こうした林の環境の変化は住んでいる鳥たちにも大きな影響を及ぼします。関東地方でかつては普通に見られたサシバやサンコウチョウ、ヨタカやミゾゴイ、サンショウクイなどの夏鳥が姿を消しました。ヨタカには巣を作る明るい開けた林、サシバには餌のカエルやヘビの住む谷津田の環境が必要だったのです。かわりに笹やぶの好きなウグイスやホトトギス、キビタキなど新しい鳥たちが定着しはじめています。外来種のガビチョウも増えはじめました。

 里山の維持には多大な人手がかかります。今後、里山が昔の懐かしい風景のまま維持できる場所は限られてくると思います。自然の風景も変遷し、そこに住む鳥たちの種類も変わって来ます。私は、それはそれで仕方のないことだと思っています。自然の力は人間の営みより、はるかに大きいものです。大切なことは、私たちが今後、変化して行く日本の自然をどのように保全し、どんな自然を子供たちに残すべきかを考えることだと思います。
 鳥たちの生き方に学ぶとともに、かれらといつまでも共存して行けるよう、私たちに人間も、地球の未来に向かって、自然環境をまもるために賢く、知恵を働かせる必要があると思います。

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