NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「賞味期限と食品ロス」(視点・論点)

女子栄養大学 非常勤講師 井出 留美

まだ充分に食べられるのに、捨てられる運命にある食べ物のことを「食品ロス」と呼びます。いま日本では、一年間に632万トンもの食品ロスが発生しています。
ところで、みなさんは、卵の賞味期限が過ぎていたら、食べますか?それとも捨てますか?

冷蔵庫にある卵のパックの表示を見てください。「賞味期限が過ぎた後は、なるべく早めに、充分に加熱調理して食べてください」と書いてあるはずです。賞味期限が過ぎたからといって、すぐ食べられなくなるわけではありません。

s170202_1.png

市販の卵の賞味期限は「2週間」と設定されています。これは、「夏場に生で食べる」のが前提です。でも気温が10度以下と低い冬場であれば、産卵から57日間、つまり、2か月近くも生で食べられるのです。にも関わらず、市販の卵の賞味期限は、一年を通して「2週間」と設定されています。まだ充分に食べられる卵が、日本全国でたくさん処分されている、ということです。

卵だけではありません。多くの食品の賞味期限は、安全性を見込んで、実際の日持ちの期間から2割くらい、前に設定されています。そうした、短めに設定された賞味期限を、厳密に守っている人はとても多いです。
みなさん、もし6万円の現金を受け取ったら、どうされますか?それをそのままゴミ箱に捨てる人は、ほとんどいないと思います。
でも、日本じゅうで、それと同じようなことが起きています。京都市によれば、家庭から出される食品ロスは、1世帯4人の場合、一年間に6万円分にもなります。この6万円分の食べ物を処理するのに5千円かかります。日本全国では年間11.1兆円です。

s170202_2.png

これは、ある自治体の、家庭ゴミの集積場です。作業員が手に持っているのは、5,250円の高級菓子です。賞味期限が5か月残っている状態でゴミの中に入っていました。他にも、鉄火巻、菓子パン、カツ丼、ピザなど、まだ充分食べられるものが、ゴミの中からたくさん出てきました。
実に、日本に住む一人あたり、毎日136グラムの食べ物を捨てています。これは、おにぎり1個分です。日本に住んでいる人全員が、毎日、おにぎり1個分をゴミ箱に捨てている計算になります。

s170202_3.png

あるパン屋さんでは、毎日、大量のパンを作って、大量に捨てています。そのパン屋さんが入っている大型店舗から「閉店間際に来るお客さんがいろんな種類からパンを選べるよう残しておくように」と言われるからです。
大型店舗のブランドイメージが落ちるため、値下げは許されません。そのため、一生懸命つくったパンを、毎日捨てなければならないのです。
あるパン屋さんは、たくさんの人を雇い、たくさんの種類のパンをつくり、たくさんのパンを毎日捨てていました。あるとき留学生に、「安売りできないの?」「誰かにあげたら?」と言われ、「それはできないんだよ」と答えたそうです。そのパン屋さんは、今では夫婦ふたりで、数種類のパンを作り、売り切っています。「捨てないパン屋」を名乗っています。
いま日本では、まだ充分に食べられる、632万トンの食べ物が毎年、捨てられています。これは東京都民が一年間に食べる量と同じくらいだそうです。また、日本で一年間に食べられる、魚介類の量とも同じです。そして、世界の食料援助量の2倍です。2倍もの量を、日本の中だけで捨てているのです。

s170202_4.png

われわれ先進国は、途上国にたくさんの農産物や加工品を作ってもらっています。日本の規格はとても厳しいので、合わないものは現地で捨てられます。フィリピンで栽培されたオクラは、ひとつの会社だけで一年間に数百トン捨てられています。

s170202_5.png

日本の食品ロスの出どころは、家庭からが302万トン、企業からが330万トンです。
私は、企業から出ている量のうち、一部はわれわれ消費者がつくっていると思っています。
お店で買い物するとき、棚の奥へ手をのばし、できるだけ新しいものから取ろうとしたことはありませんか?
その食べ物を食べきるのに、何日もかかるのでしたら、余裕をもった日付のものを取ればいいでしょう。でも、すぐ食べきるのに、何日も賞味期限が先のものを、わざわざ奥からひっぱり出す必要があるでしょうか?
日付が迫ったものが売れ残れば、お店の人は、それを捨てなければなりません。恵方巻のような、季節もので、その日にしか売れないものはなおさらです。
食べ物を処分するということは、その食べ物をつくるためにかけた材料費や電気、水、人件費など、すべてを捨てることです。環境にも負担をかけます。そして、われわれ消費者が買う食べ物の値段の中には、すでに捨てるための費用が含まれているのです。
食品ロスを減らすため、世界ではさまざまな取り組みがなされています。
たとえばフランスでは、大手スーパーで、売れ残りの食べ物の廃棄禁止という、世界初の法律が施行されました。フードバンクなどの慈善団体に寄付します。フードバンクは、販売できない食品を譲り受け、福祉施設や困窮者へ無償で提供します。フランスに次いで、イタリアでも同様の法律が成立しました。
日本では、日本気象協会が、日々の気温の動きのデータを、ある食品メーカーに提供しています。日々の気温の違いにより売れ行きが変わるので、生産量を増減させ、ロスを減らしています。その結果、ある豆腐メーカーでは、一年間のロスの量を30パーセントも減らすことが可能となりました。
このように、世界の国々や日本の事業者は、さまざまな取り組みをしています。
では、われわれ消費者は何をすればよいのでしょう?
今日からできることのひとつは、すぐに食べるものは、買い物のとき、棚の手前からとるということです。

s170202_6.png

消費期限と賞味期限は違います。消費期限は、その日までに消費したほうがよいもので、日持ちが5日以内のものにつけられます。でも、賞味期限は、おいしさの目安です。品質が切れる日付ではありません。しかも、その日付は、実際の日持ちよりも2割近く短くなっていることが多いです。

s170202_7.png

食品には、2つの考え方があります。最後まできちんと食べきるという資源活用の考え方と、安全性を守るという考え方です。どちらも大切です。両方のバランスをとることです。でも今の日本は、安全性重視のあまり、リスク回避に過剰に偏ってはいないでしょうか。
企業の中には、賞味期限を延ばす努力をしている会社もあります。卵の賞味期限も、業務用、つまり法人向けでは、夏は16日以内、冬は58日以内など、季節に応じて変えています。温度管理がしっかりしているからです。
企業が賞味期限を短く設定する背景には、消費者の買い物の姿勢も関係しています。日本全国、さまざまな気温や湿度の条件で買われていきます。買った食べ物が即座に冷蔵・冷凍庫に入れられるとは限りません。食べ物を作る会社としては、最大公約数的なところに賞味期限を設定せざるを得ない、という事情もあるのです。
そうであれば、われわれ消費者が、賞味期限は「おいしさの目安」であり、「短めに設定されている」ことを理解して、買い物に臨むことです。

s170202_8.png

国連のサミットでは、2030年までに世界の食料廃棄を半減するという目標が決まりました。ある人が「世界じゅうの人を苦しめている賞味期限」という表現をしていました。
行き過ぎた賞味期限が食品ロスを生み出します。賞味期限は「短めに設定されているおいしさの目安である」ということを理解し、買い物や料理をしていきましょう。

キーワード

関連記事