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「小池都政半年 これからの課題」(視点・論点)

中央大学 教授 佐々木 信夫

 毎日のようにマスコミに登場する東京都の小池知事ですが、都知事に就任してから今月でちょうど半年になります。この間、豊洲市場への移転やオリンピック施設の見直し、都議会の政党復活予算廃止など、さまざまな問題を提起し、話題に事欠かない都政でした。
 ことし7月に行われる都議会選挙も話題になり始めています。現在の都議会で多数を占める自民党に対し、小池新党をつくり、それを大きく切り崩せるかどうか、注目されています。
これまで自民党都連をブラックボックスと呼ぶなど、既存の体制を批判し、その改革に挑む小池氏の姿に多くの都民は拍手を送ってきました。ある意味、ローカルな都政の問題が、これだけ全国の話題になった時代はないでしょう。それだけに、小池都政が全国に与えた影響は小さくないと思います。

ただ、就任から半年が過ぎ、「何をやっても甘くみよう」という政治のハネムーンは終わりました。「問題提起はよいが問題解決はできるのか」「メディアに頼り過ぎ、既定路線を否定するやり方は危うい」との批判も出始めています。
その点、小池都政にとって、これからが正念場でしょう。
 これまでの取り組みで一番評価できるのは、政策の決定過程を公開するなど「都政の見える化」を図ってきたことです。負の遺産とも思える都政の「閉じた体質」、例えば豊洲市場の盛り土問題について、事実と違う説明をし続けてきた。こうした隠ぺい体質を無責任体制と呼び、幹部職員を処分し、丁寧に事実を説明するなど、「問題提起型」の都政として評価されてきました。
 しかし、問題はこれからです。都民ファーストと言いながら〝メディアファースト〟ではないか。都政の「見える化」というが、知事の活動を“見せる化”しているだけではないか。行政職員だけで4万人もいる巨大都庁のトップに立つ都知事にしては、部下の職員とも、都議会との対話も乏しく、信頼関係がないのではないか。
さらに一大看板である「東京大改革」の進め方も、権限も責任もない外部の特別顧問に頼り過ぎているのではないか。
小池ブームの一方で、そうした批判も聞かれます。もしそうであるなら、大組織を率いる経営者としての資質が問われかねません。
 2月から始まる予算都議会などを契機に、このような問題提起型の都政から問題解決型の都政に切り替え始めたらどうでしょう。例えば、オリンピックの準備はいろいろなゴタゴタで相当遅れています。幹線道路となる環状2号線の工事を始めるなど、東京の都市計画全体との整合性を図らなければ、無責任都政との批判も生じかねません。
 政治は結果です。政治家である都知事は大都市の経営者として、多くの都民が感じている現状への不満、将来への不安を取り除くのが基本的な役割です。
3年後に迫ったオリンピックの準備はもちろん大切ですが、それ以上に都政本来の仕事、東京が抱える構造的な問題に取り組むべきです。
2020年頃から東京は大きな転換期に入ります。人口減少が始まり、高齢化が加速します。待機児童問題に加え、待機老人の問題も大きくなってきます。建設から50年以上経つ道路や橋、トンネルなど都市インフラの劣化も進みます。貧困や格差、郊外から限界集落化が始まるなど、さまざまな問題が噴出してきます。
衝撃的なのは20年後、現在より高齢者が150万人も増えることです。
今でも高齢者の一人暮らしが多く、4割近くが借家住まいとされますが、この先、高齢者がどんどん貯蓄を食いつぶし、もし年金が切り下げられたら、税金や家賃を払えない高齢者が街に溢れ出します。高齢者難民の大量発生です。
今でも足りない介護施設は、圧倒的に不足します。現在は待機児童対策が急がれますが、この先は、それ以上に待機老人問題が深刻化すると思われます。
政策の方向として、これまでの“大都市は豊かだ”とする「成長する東京モデル」から、
人・インフラが「老いる東京モデル」への大転換が必要です。
小池都政が掲げる大看板は「東京大改革」です。ただ今の時点でいうなら、“都政大改革”ではあっても東京大改革ではない。もし、この先も「東京大改革」と言うのなら、問題とすべき領域は大きく3つあります。

第1は「都政の体質大改革」の推進です。これはすでに小池氏が都政改革本部を立ち上げ、改革の1丁目1番地として取り組んでいる領域です。秘密体質の伏魔殿都政を解体する、税金の使い方の「甘さ」「たるみ」を徹底的に都民ファーストの視点で変える。これは待ったなしの改革です。

第2は、「都民への政策加速」の推進です。金融都市など経済都市づくりも重要ですが、同時に、これまで例のない「老いる東京問題」の解決に立ち向かうことです。生活都市づくりの観点から格差、貧困、医療、福祉、介護、子育てを支援する。古くなった道路、橋、上下水、公共施設などのインフラをどんどん造り替えるなど、生活者の不安を解消する手立てを講じていくことです。
真の東京大改革は、こうした政策大転換を図ること、これが改革の本丸です。

第3は「東京の都市内分権」の推進です。とくに1300万都民の3分の2が暮らす23特別区との関係を見直すこと、身近な特別区を基礎自治体として強化する観点から権限、財源を移すことです。児童相談所を特別区につくるべきだという政府の方針が既に出ていますが、東京都は児童相談所のひとつも移管に応じようとしません。小池都政はこの状況に終止符を打つべきです。

いま述べた3つの「東京大改革」のうち、小池知事が熱心なのは第1の都政大改革です。しかし、首都直下地震など防災対策を含め、東京の抱える問題は広範な領域に亘ります。第2、第3の領域にもっと力を注ぐべきです。
さらにこの先、より広域の観点から埼玉、千葉、神奈川とスクラムを組み、環境、防災、交通などの広域政策を展開したらどうでしょう。東京大改革が「東京圏大改革」に進化していくなら、歴代都知事とは違う都政になると思います。
最後に、この夏の都議会選挙についてですが、小池氏はこの選挙で過半数をえて、改革のエンジンを確保したいと再三述べています。そのため小池新党をつくり、42選挙区すべてに小池氏の息のかかった候補者を出すと言います。
その意気込みは高く評価しますが、しかし、少し立ち止まって考えて欲しい。
というのも、自治体のしくみは国のような議院内閣制ではない、という点です。都政は、議員と知事を別々に選び、双方が抑制均衡を保つよう求めた2元代表制です。政権与党の党首が首相になり、内閣を率いる国の制度とは全く違います。行政の最高責任者である都知事は、本来、公正中立であるべきです。
それが今の進め方だと、あたかも都知事が政党の党首になり、都議会で多数勢力を形成し、都議会を差配する。それが「よい都政」を実現する道だと主張しているように聞こえます。果して、それは正しい方向なのか。
ひとつ間違うと、「会派あって議会なし」、小池派と非小池派という分断された都議会が誕生することになります。行き過ぎた政党政治を都政に持ち込むと行政は歪み、知事独裁ともなりかねません。都民はそんな事は期待しておりません。
むしろ、いろいろな考え方を持つ多様な127名の議員が誕生し、それぞれ民意を背景に真剣な議論をする、修正すべきところは修正する、そうしたまさに「都民ファースト」の都議会が誕生するよう望んでいます。

マスコミなど新党ブームを煽る動きがありますが、それに囚われることなく、本来の制度を踏まえ、中長期の視点から問題解決に取り組む都政を期待したいものです。

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