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「アレルギー疾患対策 総合的な推進を」(視点・論点)

日本アレルギー学会 顧問 西間 三馨

いまや国民の30~50%が罹患しているアレルギー疾患。
このアレルギー疾患への対策を総合的に推進するための政府の基本指針案が先月まとまりました。この指針案は、2014年6月に国会で成立したアレルギー疾患対策基本法を受けて作成されたもので、今日はこの指針案の意義と今後のアレルギー対策の課題についてお話しさせていただきます。

まず、アレルギー疾患の現状について説明しておきます。
日本では、この約20年間でアレルギー疾患の患者数は約2倍に増加しました。長期管理薬や強力な薬剤の普及により、喘息による死亡率やアトピー性皮膚炎は最近減少傾向にありますが、一方で、アレルギー性鼻炎、結膜炎は、全年齢層で有病率の増加が止まりません。
その主な原因はスギ・ヒノキ花粉症の増加です。また、乳幼児の食物アレルギーの急増と、アナフィラキシーショックの多発も対応に追われています。
これほど、common disesse、国民病とも言われるアレルギー疾患ですが、治療や研究体制などについてはいくつもの課題を抱えていました。
ひとつは、アレルギー専門医が少ないため、一般病院やクリニックの外来で治療を受ける患者が多く、中には専門医の作成した診療ガイドラインに基づいた標準的な医療が受けられない患者がこれまで存在していたことです。治療の均てん化、つまり、どの地域でも、標準的な治療が受けられるようにすることが急がれる状況でした。
また、これだけ多くの国民が罹患しているにもかかわらず、最新の治療や薬の開発につながる研究費も乏しいのが現状でした。それどころか10年ほど前、厚生労働省の審議会では、アレルギー科の標榜を廃止する見直し案が一時提示されたほど、政府のアレルギー疾患の重要性への認識は薄かったのです。
これでは、アレルギーの医療が崩壊しかねない、こうした課題を打破するには、がん対策基本法や肝炎対策基本法のような確固たる法律基盤を作る必要があると考え、患者会や関係学会が要請し続け、2014年6月、アレルギー疾患対策基本法が成立しました。

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この法律では、「国や自治体、医療関係者、学校などの責任を明確にし、アレルギー疾患対策を総合的かつ計画的に推進する」ことがうたわれ、主に次の3つが基本理念として掲げられています。
①    科学的知見に基づいた、言いかえれば正しい診療ガイドラインに基づいた的確な医療を全国どの地域でも受けられるように、医療の均てん化を企ること。
②    患者の生活の質、QOLの向上と、研究の推進とその活用・発展を図ること。
③    そして、専門性の高い医師の育成と医療機関の整備、他の医療従事者の教育と育成、相談体制の整備を進める、とされています。

そして、この基本法を受けて厚生労働省は、昨年から具体策を検討する協議会を立ち上げ、先月末に基本指針案をまとめ、今、一般の方からの意見を募集しています。
この主な内容と課題をみていきます。
まず、指針案では、アレルギー疾患の重症化を防ぎ、最新の情報に基づいた、標準的な治療を、どの地域に住んでいても受けられるようにするためには、「診療ガイドラインにのっとった医療をさらに普及していく」ことが重要だと強調されています。

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日本アレルギー学会では、すでに3年ごとにアレルギー総合ガイドラインを改定し、このように様々なアレルギー疾患に対応した内容を掲載しています。複数のアレルギー疾患を有していることの多い患者さんが、診療科をたらい回しされることなく、的確な診断、適切な医療に早くたどり着くためにも、このガイドラインの普及をさらに徹底させることが重要でしょう。
次に、医療機関の連携の強化についてです。
指針案では、「アレルギー疾患医療の全国的な拠点となる医療機関と、地域の拠点となる医療機関の役割、そして、拠点医療機関とかかりつけ医の連携体制」を整備していくことが盛り込まれました。

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なぜ、医療機関の連携が大切かと言いますと、一つには、アレルギー疾患の特徴があります。アレルギーマーチの概念に示されるように、アレルギーと他の疾患との大きな違いは乳児から高齢者まで、一人の患者さんの身体に、時を変え、場所を変え、強さを変え、合併をし、発症、増悪、軽快、寛解、再発を不定期に繰り返すことです。このため、全身の疾患として診る必要があるのです。
もうひとつは、専門医が少なく、専門医以外の医師をかかりつけ医にしている患者が多いことです。しかし、アレルギー治療の研究は日進月歩で次々と新しい事実や治療法がわかってきています。
だからこそ、この専門医以外の医師の能力を継続的に向上させていくことが、制度的に必要になるのです。

そのためには、まず、専門医以外の医師が、専門医との連携で容易に最良の知識を得て、適切な治療や管理ができるようにバックアップする、アレルギー診療の拠点病院を全国的に整備することが必要となります。しかし、残念ながら、今はそれに該当しうる病院は少ないのです。

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しかも、その人的な中核となるアレルギー専門医は全国で3,700名弱でありまして、国民の30~50%が何らかのアレルギー疾患に羅患していることからみても、いかにも手薄です。
また、地域差もあります。都市部に専門医が集中しています。 
それから、患者の生活を支える専門の人材の育成も大切です。
今、日本では、喘息による死亡の多くは高齢者ですが、その問題の1つとして、この年代層ではきちんとした治療・管理がなされていない、なされにくい環境であることが指摘されています。それに対して、今、吸入の手法、環境整備、スキンケアなどに熟練した能力を持つアレルギーエデュケーターが学会認定で育成されつつあります。  
今は小児領域の看護師が主ですが、全年齢に拡大していく素地は十分にあり、その育成はきちんとした制度として作っていくことが必要でしょう。  
アレルギー疾患の治療や管理には、患者だけでなく、家族や介護者の存在は重要です。
それらの観点から、拠点病院や中核病院にはアレルギー疾患相談センターや情報センターを併設することも、大きなポイントではないかと考えています。
そして、もう一つ重要なのは、アレルギー疾患の調査・研究の充実です。
指針案にも、「疫学研究、基礎研究、治療開発、臨床研究の長期的かつ戦略的な推進が必要である」と盛り込まれています。

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たとえば花粉症を例にとって話しますと、これは小学児童の1992, 2002, 2012のアレルギー性鼻炎、結膜炎、花粉症の推移ですが、全学年とも増加の一途です。ちなみに今年のスギ花粉の飛散予測は大量飛散が報じられています。花粉症はいまだに対症療法が主で、早急に根治治療法を普及、発展させなければなりませんが、残念ながら、未だ全く不十分な研究体制となっています。
最後に、アレルギーを取りまく問題は、私がアレルギー疾患対策基本法を強くつくらなければならないと感じた10年前と比較しても残念ながら根本的には変わっておりません。
多くのアレルギー疾患の人々にとって良質な医療の提供と高い生活の質を保障し、それをバックアップする医師、研究者を中心に関係分野の総合的・継続的なアレルギーの病態解明・新しい薬や治療管理法の開発が行われて、適切なアレルギー対策・施策が推進されるよう、この法律をもとに、我々はエネルギーを傾注し続けなければならないと強く思っているところです。

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