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「災害時の避難情報を考える」(視点・論点)

静岡大学防災総合センター 教授 牛山 素行

地震、大雨などの災害時に、市町村から「避難勧告」など、避難を呼びかける情報が出されることがあります。
「避難勧告」などの避難に関わる情報については、その名称や意味がわかりにくいのではないか、という指摘がこれまでもなされてきました。特に、昨年2016年の台風10号災害の際に、岩手県岩泉町で避難準備情報が町から発表されていたにもかかわらず、その意味が正しく伝わらず、高齢者グループホームで9人の方が亡くなった痛ましいできごとをきっかけに、これらの名称の見直しについての議論が行われてきました。
きょうは、災害時の避難情報について考えていきたいと思います。

こうした情報は、災害の危険性に応じて段階的に出すことができるようになっており、これまでは、危険性の低い方から順に「避難準備情報」「避難勧告」「避難指示」という名称になっていました。

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避難準備情報は、避難に時間のかかる人や危険な場所にいる人に対して避難を呼びかける情報です。避難に時間のかかる人とは、お年寄り、障害のある方、乳幼児、外国人などを指し、「災害時要配慮者」とも呼ばれます。また、土砂災害特別警戒区域や、堤防の整備されていない河川の近くなど、災害の危険性が高い地域にお住まいの方に対して、早めの避難を呼びかけるという意味も含まれます。これらに該当しない方でも、避難準備情報が出た場合には、気象情報、河川の水位情報、周囲の様子などに注意を払い、危険を感じたら自発的に避難を開始することが重要です。避難準備情報の段階で、主な避難所を開設し始める自治体が多くなっています。「避難準備」とは「準備だけであり避難はまだしなくてもよい」という意味ではありません。避難勧告を出すほどの切迫した状況にはなっていないのですが、早めに行動を開始するために注意を喚起している情報です。
避難勧告は、避難準備情報の段階よりも災害の危険性が高まった場合に、すべての人に対して、速やかな避難を呼びかける情報です。
避難指示は、さらに災害の危険性が高まった場合に、すべての人に対して、直ちに避難することを強く呼びかける情報です。
自然災害に対しては、私たち一人一人が自分自身の判断で避難行動をとることが大原則です。避難勧告などは、災害に関わるさまざまな情報の一つに過ぎず、これらの情報を元にして、最後に判断し、行動するのは私たち自身であることは強く意識しておかねばなりません。避難勧告は「避難許可」ではありませんから、避難勧告が出なければ避難はしてはいけないなどいうことはありません。避難勧告の有無にかかわらず、自分自身でこれは危険だ、と判断したら、安全を確保する行動をとる必要があります。

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なお、避難とは「決められた避難所に行くこと」だけではありません。避難所へ行くことも含めて、何らかの手段で安全を確保する、という意味です。避難勧告が出た段階で、すでに身の回りで浸水が始まっているなどして、避難所へ移動することがかえって危険であるといったことも少なくありません。また、危険性が急激に高まった場合には、避難所の開設準備ができていなくても、強く注意を喚起する目的で避難勧告や避難指示を出すことになっています。このような場合は、避難所であるかどうかにかかわらず、近隣の少しでも安全な場所への避難や、場合によっては屋内のより安全な場所への移動を行うことも、避難行動の一つとなります。たとえば、川から離れた場所の低い土地などでは、水に囲まれてしまっても数日程度は建物の2階で過ごせるように備蓄等の準備をしておく、といったことも有効な対策と言えるかもしれません。
自治体によって決められている避難先としては、災害による危険が切迫しているときに緊急に避難する「指定緊急避難場所」、災害時に避難した人や、被災して家に戻れなくなった人などを一時的に滞在させる「指定避難所」の2種類があります。地域によっては、他の種類の避難先が決められている場合もあります。自治体によって決められた避難先であっても、どんな災害においても同じ場所に避難すればよいというわけではありません。たとえば、低い土地にあることから、地震の際の避難所としては使用しますが、大雨の際の避難所としては使用しないことになっている、といったケースはよく見られます。自分が知っている避難先が、どのようなときに使用し、どのようなときには使用しないことになっているのか、日頃からよく確認しておくことが重要です。
さて、昨年2016年の台風10号災害を受けて、内閣府が設置した「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドラインに関する検討会」は昨年12月に報告をまとめ、この中で、名称の見直しについてのさまざまな意見があることが挙げられました。内閣府では、この報告も踏まえ、避難勧告等の名称を変更することに決めました。

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変更後の名称はこのようになります。「避難準備情報」は、高齢者などが避難を開始する段階であることを明確にする理由から、「避難準備・高齢者等避難開始」という名称に変更されました。また、避難勧告と避難指示でどちらの危険性が高いのかわかりにくい、といった見方もあることから、「避難指示」は「避難指示(緊急)」となりました。名称の意味を強調することを重視して、従来よりも正式名称は長くなりました。実用上は、避難準備、避難勧告、避難指示、などと、略称を使うのもよいかもしれません。
名称は変わりますが、それぞれの情報が持つ意味はこれまでと変わりません。「避難準備・高齢者等避難開始」という言葉から、「高齢者への避難呼びかけであり自分には関係がない」などと受け止めることは適切ではありません。土砂災害や、洪水の危険性が高い地域では、「避難準備・高齢者等避難開始」の段階で高齢者以外の人であっても、早めの避難行動をはじめることを考える必要があります。
こうした、避難を呼びかける情報の仕組みは、年々進化しつつあります。しかし、たとえば個々の世帯単位の危険性を正確に予測し、「あなたのお住まいは現在危険な状況なので避難して下さい」といった呼びかけを行えるような技術はありません。また気象状況の急変などによって、被害が出始めても避難勧告がまだ出ていない、といったことも十分考えられます。避難勧告などの情報は、無視してよいものではありませんが、過度な依存もよくありません。災害時に安全を確保するための判断は、基本的には私たち一人一人が行う必要があります。
まずは、自宅や仕事先、よく行く場所などについて、どのような災害が起こる可能性があるかを、日頃からハザードマップなどで確認しておくことが重要です。その上で、災害時に少しでも安全を確保するためにはそれぞれの場所でどのようにしたらよいかを、日頃からイメージしておくとよいでしょう。特に風水害の場合は、災害が起こる前にさまざまな防災気象情報が発表されています。こうした情報や、周囲の様子に注意し、危険な状況が迫っていることを、少しでも早く察知することも大変重要になってきます。さまざまな情報を私たち一人一人が活用することで、災害による被害を軽減できるのではないでしょうか。

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