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「2017年の経済」(視点・論点)

経済産業研究所 理事長 中島 厚志

2016年の世界経済にはいくつもの大きな動きがありました。年初には原油価格の急落や為替相場の急変があり、6月にはイギリスが国民投票でEU離脱を決め、11月にはアメリカの大統領選挙でドナルド・トランプ氏が次期大統領に選ばれました。
いずれも事前には想定されなかったような出来事で内外経済がどうなるか心配されましたが、2016年の世界経済は、終わってみれば原油価格は持ち直し、アメリカ経済と中国経済も底堅い展開となるなど改善する方向となりました。
そこで、2017年の世界経済と日本経済はどうなるのか展望してみたいと思います。

ここで、大きなポイントとなるのがアメリカ経済の動向です。トランプ氏の大統領就任で、アメリカ経済は成長率を高めるとの期待が高まっています。
トランプ次期米大統領は、選挙を通じて大幅な所得税、法人税の減税や10年間で合計1兆ドルすなわち117兆円に上るインフラ投資などを打ち出しています。これらの政策がそのまま実施されますと、

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図のように、アメリカ経済の成長率は0.5%、一年遅れて世界経済の成長率は0.7%それぞれ上振れると計算されます。この0.7%の上振れが実現しますと、世界経済の成長率は過去の平均を上回る好調な伸びともなります。
もっとも、経済への効果が表面化するのは2018年にかけてとなります。それは、アメリカの政府の会計年度が10月に始まり9月に終わるからで、トランプ政権が経済政策を完全に実施するのは今年の10月から始まる2018会計年度になるからです。
また、トランプ次期米大統領の政策には懸念される点もあります。トランプ次期大統領は、選挙期間を通じて保護主義的な言動を繰り返しており、仮に保護貿易的な通商政策を行うと、世界経済とりわけ中国を始めとする新興国は大きな打撃を受けかねません。
また、トランプ次期大統領が主張している移民流入規制も気になるところです。アメリカに滞在する不法移民1000万人のうち犯罪歴のある200万人を送還するとしていますが、これらの人々がアメリカで働いているとすると、その送還で現在すでに引き締まりつつあるアメリカの労働需給はさらにひっ迫し、外国人労働力に頼る面が大きい農業や小売りなどでは労働力の不足が表面化する可能性があります。
トランプ政権の経済政策については大きな期待と懸念があり、その動向にアメリカ経済と世界経済は大きく振られることになります。しかし、当面のアメリカ経済は低金利の下で賃金上昇と消費堅調の好循環が続くと見込まれますので、2017年の景気は基本的には緩やかな改善が続くと見ています。
次は、ヨーロッパ経済です。イギリスのEU離脱決定はヨーロッパ経済を大きく混乱させると思われましたが、今のところユーロ安や踏み込んだ金融緩和政策そして原油安などが寄与してヨーロッパ経済は堅調に推移しています。また、イギリスのEU離脱交渉はまだ始まっていないのですが、イギリスの通貨ポンドがすでに2割ほど下落してイギリスの輸出や海外からの観光客の増加などを支えており、イギリス経済を押し上げてもいます。

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2017年をどう見るかですが、図のように、イギリスは3月末までには離脱をEUに正式通告してEUと離脱交渉に入る予定です。そして、交渉期間は2年間と定められていますが、互いに経済関係が深いイギリスとEUが複雑な交渉をまとめるには時間がかかると見られ、その間イギリスはEU加盟国のままで現状と変わりません。したがって、さすがにイギリスへの海外企業の投資などには影響があると見られますので2017年のイギリス経済は少し落ち込む見込みですが、ヨーロッパ経済の基調は変わらず、ユーロ安、金融緩和政策が寄与して堅調な成長を続けるものと見られます。
続きまして、中国経済です。中国経済は年初成長が鈍化しましたが、現在はやや持ち直しています。しかし、課題は主要都市の不動産価格が高騰していることと、高成長を見込んで借入、投資をしてきた企業の債務と生産力が成長鈍化で過剰となっていることにあります。

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こちらの図は中国企業の債務残高のGDP比を日本と比較して示したものですが、ご覧のとおり2008年のリーマンショック後また2012年以降その水準は一段と上昇しています。そして、現在では1990年前後の不動産バブルピーク時の日本の水準に近づいており、心配される水準となっています。
もっとも、2017年には不動産バブルの崩壊や大規模な企業倒産・整理には至らないと見ています。理由としては、政府の財政状況が良好で経済を支える余力が大きいこと、多くの企業が国有で倒産しにくく過剰設備廃棄などについて国の意向が及びやすいこと、なにより中国経済は6%台半ばの高成長を維持しており、相対的に高い賃金上昇で不動産価格が高騰しても購買力が回復しやすいことなどが挙げられます。
以上、世界経済を見て参りましたが、原油価格の回復、金融緩和の継続、そしてアメリカ経済の持続的成長などがあって2017年の世界経済は主要先進国、新興国ともよくなる方向と見られます。
この世界経済を踏まえて日本経済について申し上げます。日本経済は、現在一進一退の状態にあります。円安は進みましたが、低調な世界経済で輸出は大して伸びておりません。一方、雇用情勢の改善があって賃金は緩やかに増えていますが、伸びは小さく消費に勢いはありません。とくに製造業企業は円安で利益を大きく伸ばしておりますが、少子高齢化で国内市場は飽和しており、企業の設備投資も大して増えておりません。
しかし、2017年にかけて景気は改善すると見られます。雇用改善で賃金上昇が少しずつながら加速しているのが一つの要因です。当然、消費にはプラス材料となります。また、円安に加えてアメリカ、中国を始めとして世界経済が持ち直しているのも輸出にとっては心強い材料です。さらに、昨年成立した経済対策も日本経済を下支えしますし、金融緩和が続いていることも、企業の設備投資や個人の住宅投資を押し上げます。
最後に、日本経済についての課題について申し上げます。それは生産性が低く、賃金が緩やかにしか上がらないことです。長期で見ますと、労働生産性の伸びが賃金上昇につながりますので、生産性の向上は大変大事です。

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日本の時間当たり労働生産性は、2012年にかけて円高のため一時上がっていますが、90年代後半以降基本的にはほとんど伸びておりません。その結果、当時日本と同じような水準にあった欧米主要国とは現在大きな差がついており、この差が賃金の差に反映されています。
生産性向上には、ITやAIの活用が効果的です。また、正規と非正規の就業者、あるいは男女の就業者について、もっと多様な働き方を認めながら生産性と待遇を向上させようと働き方改革が言われております。この働き方改革も生産性向上や賃金増には効果があり、バランスの取れた労働と待遇を通じても生産性向上と賃金増を実現していくことが欠かせません。
これら課題の改善で、2017年が日本経済活性化の年となることを期待したいものです。

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