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「OPEC 減産合意をどう見るか」(視点・論点)

日本エネルギー経済研究所 常務理事 小山 堅

11月30日、石油輸出国機構、OPECがオーストリアの首都、ウイーンで定例総会を開催し、加盟14カ国の原油生産量を2017年1月から半年間、日量3,250万バレルとする合意を発表しました。現状の生産量からは約120万バレルの減産で、OPECとしては、2008年12月以来、8年ぶりの減産合意となりました。

 OPEC減産合意に市場は反応、原油価格は上昇しました。ニューヨーク市場のWTI原油価格は上昇に転じ、12月5日には1バレル51.79ドルと総会前から15%の値上りとなりました。またブレント原油も54.94ドルまで上昇、同じく総会前から18%も高値となりました。

 このように、OPEC減産決定は原油相場を動かす力を改めて示したことになります。ただし、今回の決定に至るまで産油国間の議論は難航し、総会直前までギリギリの調整・交渉が行われました。9月末のアルジェリアにおける臨時総会で、「サプライズ」となる減産計画を発表したOPECですが、その後、この減産計画を実現に移すための具体案、即ち、国別の減産割り当てを巡って調整が難航したのです。

 特に問題となったのが、サウジアラビアとイランというOPECの2大産油国の調整でした。核合意後の経済制裁解除で、生産量を大幅に増やしてきたイランは、さらに日量400万バレルの大台を超えるまで増産に意欲を見せてきました。一方、サウジアラビアは、そのイランも減産協定の中に取り込むことを主張し、譲りませんでした。中東の2大国である、サウジアラビアとイランがこの、石油の生産調整問題で対立していたのですが、それだけでなく、両国はシリア・イエメン問題を巡って、外交・地政学的な観点で、また宗派的な問題もあって、厳しい対立・緊張関係にあったのです。この両国間で合意が成立するかどうか、がOPEC総会の鍵と見られていました。総会直前まで両国間で、そして主要産油国の間で厳しい議論と調整が続いたため、石油市場関係者・専門家も減産合意が成立するかどうか、固唾を飲んで見守るという状況でした。

 しかし、結果として、OPECは意見対立をとりあえず乗り越え、今回の合意を成立させました。その最大の鍵は、もし今回意見調整に失敗し、減産合意が成立しないといった事態になれば、原油価格には強い下押し圧力が発生、40ドル割れも十分にありうる、という恐れを産油国が強く共有していたことがあります。長引く原油価格低迷で、経済状況が悪化し、台所事情が苦しい産油国は、40ドル割れといった「最悪の事態」は何としても回避したい、という点では一致し、妥協できる着地点を見出す最大の努力をした、ということでしょう。

 また、この減産合意の背景には、アルジェリアでのサプライズ決定に引き続いて、サウジアラビアが果たした大きな役割があります。2014年後半から、それにさかのぼる高原油価格期に大幅増産を続けた米国のシェールオイルを念頭に置いて、サウジアラビアは市場シェア重視戦略を取り、価格が低下しても市場に任せる基本方針を取ってきました。しかしサウジアラビアも、低油価による経済状況の悪化に苦しみ、単独では減産しないものの、他の産油国の協調が得られるという前提の下でならば、原油価格のさらなる低下を防ぐため生産調整に前向きな方針に転換したと言えます。行き過ぎた低価格を回避しながら、国際石油市場で積み上がっている過剰な石油在庫の取り崩しを進め、需給環境全体の改善を目指すことを狙って減産合意を主導したのです。そのためには、OPECだけでなく、主要な非OPEC産油国、とりわけロシアの協力を取り付け、今回の減産合意を達成したのです。なお、12月10日はウイーンでロシアなど主要な非OPEC産油国からも参加を得て、閣僚級会合が開催されました。非OPECとして日量56万バレル、そのうちロシアから30万バレルの減産協力が発表され、12日の原油価格は再び上昇しました。

 まずはOPECで合意を実現するため、今回、国別の減産目標設定には様々な工夫が凝らされました。治安状況等の特殊事情を抱えるナイジェリア、リビアは減産の枠組みから外れました。石油純輸入国でもあるインドネシアはOPECのメンバーシップを一時停止し、同じく枠外となりました。

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他方、最大の懸案事項であったイランについては、現状よりは9万バレルほど増産を認めたものの、イランの主張であった400万バレルより低い380万バレルの生産目標で妥協が成立しました。また、これまで増産してきたイラクも21万バレルの減産に合意しました。こうした中で、サウジアラビア、クウェート、アラブ首長国連邦が減産の中心役となりましたが、特にサウジアラビアは約50万バレルと最大級の減産を引き受けました。その結果、その生産目標は1,006万バレルとなりましたが、今後もサウジアラビアの政策が最大の鍵を握ると考えられます。

 減産合意を受けて、原油価格は当面は50~55ドル前後で変動が中心になるものと考えられています。国際石油市場全体としては、2017年には、徐々に供給過剰が解消されていく方向に向かうと期待されていますが、今回のOPECと非OPECの協調減産(最大約180万バレル削減)が功を奏すれば過剰払拭の速度を速める効果を持つとも考えられるのです。

 しかし、実際には事態はそれほど単純ではありません。今後は、まずは合意された減産が本当に実施されるかどうか、に注目する必要があります。その点、非OPECについては、過去の実績を見ると、これまでロシアが約束をした減産を順守してきたか、といわれると実態は芳しくありません。また、イラン・イラクの生産動向も実際にどうなるか要注目です。さらに、減産の枠外となったナイジェリアやリビアの生産が回復してくる可能性もあります。結果的には、来年1月からのOPEC全体の生産量が3,250万バレルで収まる保証はなく、実際には3,300万バレル前後になるのではないか、との見方もあります。減産に合意することは重要ですが、それを順守するかどうか、が市場への影響という点ではより大事なのです。

 もう一つは、言うまでもなく、米国シェールオイルの影響があります。原油価格下落で、生産コストの高いシェールオイルの生産は減少に転じましたが、油価が50ドルを上回って、さらにその上を目指すような展開となれば、生産が再び活性化する可能性があるのです。もちろん、よほど高値に戻らない限りは、2014年までのような大幅増産は無いでしょう。しかし、もしシェールオイルが生産拡大の動きを見せ始めれば、国際石油市場の需給環境と、特に市場関係者の相場観への影響は小さくありません。その点では、OPECが原油価格の下値を支えようとする中、シェールオイルの存在で原油価格の上値は重くなると思われます。シェールオイルの生産は、他の通常・在来型の石油に比べ、原油価格動向へ反応する速度が速いのです。シェールオイル生産拡大を指示するトランプ政権の誕生もあって、2017年の米国シェールオイル生産動向からは目が離せません。

 原油価格は、OPEC・非OPECの減産順守、米国シェールオイルの生産動向、それらの影響下における国際市場の需給環境によって様々な影響を受け続けることになります。来年以降の原油相場がどうなるか、引き続き大いに注目して行きたいと思います。

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