NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「北朝鮮制裁の課題と日本の役割」(視点・論点)

前国連安保理 制裁委員会 専門家パネル委員古川 勝久

11月30日、国連安全保障理事会は、北朝鮮制裁のための新しい決議を採択しました。北朝鮮が最初に核実験を行ったのは2006年。この直後に最初の決議が採択されてから、この10年間で6本目の決議となります。度重なる制裁にもかかわらず、北朝鮮は核や弾道ミサイル計画を着実に進めてきました。なぜこのようなことが可能だったのでしょうか?
本日は、国連による北朝鮮制裁のこれまでの経緯を振り返るとともに、制裁の現状と課題について概観し、制裁に実効性をもたらすために何をするべきか、考えてゆきたいと思います。

まず、国連制裁の概要です。

s161209_3.png

これまで北朝鮮制裁として、2006年、09年、13年、そして今年で、計6本の安保理決議が採択されました。

国連制裁の主な目的は、北朝鮮に核・ミサイル計画を断念させることです。そのために、核・ミサイルや通常兵器などに関連した、ヒト・モノ・カネの取引や移動を禁止するよう、国連加盟国に義務付けています。国連制裁は、全面経済封鎖ではなく、あくまでも制裁の範囲を限定しているため、「ターゲット制裁」と呼ばれてきました。

ただし、今年3月と11月に採択された2本の決議では、北朝鮮の核・ミサイル計画のための収入源を絶つことを目的に、北朝鮮の主要産品である石炭、鉄鉱石など、大半の天然資源の輸出を原則禁止としました。国連制裁では、「北朝鮮の一般市民の生活に悪影響を及ぼしてはいけない」前提とされてきましたが、今年の決議では北朝鮮の外貨収入源を大幅に削ぐことが目的とされており、この大前提ギリギリのラインを衝く内容となっています。

特に11月に採択された最新の決議では、既存の決議の「抜け穴」をふさぐことを目的に、様々な追加的制裁措置が採用されました。

s161209_7.png

具体的には、北朝鮮が全世界に対して輸出できる石炭の輸出枠に上限を設定して、それまでの決議にあった「抜け穴」を防ぎました。実は、3月に採択された決議ではじめて、北朝鮮による石炭輸出が原則禁止とされたのですが、例外規定も設けられたところ、中国などがそれを乱用してしまい、事実上、骨抜きになってしまったのです。今回、これに歯止めがかけられました。また、最新の決議では、北朝鮮の銅、ニッケル、銀なども輸出禁止とされました。

加えて、新決議で安保理は、外国企業の北朝鮮国内での活動も大幅に制約し、北朝鮮の金融機関、海運業、外交官による海外での商業活動等も事実上禁止としました。さらに、制裁の対象となる企業や個人、禁輸物資も増やした上、北朝鮮国内の人権状況や海外労働者派遣の収益に対する懸念にも言及しており、将来の追加的制裁対象の布石としています。
もしこれらの措置が着実に履行されれば、北朝鮮経済に対して深刻な打撃となるはずです。

ただし、そのためには、各国の真剣な取り組みと国際協力が必要です。残念ながら、大半の国々は北朝鮮制裁を優先事項とはみなしておらず、真剣には取り組んできませんでした。

例えば、東南アジアでは、ほとんどの国々で輸出管理体制が未整備で、禁輸物資の取り締まり体制が極めてぜい弱です。
また、多数の北朝鮮工作員が、ロシア・中国だけでなく、東南アジア、中東、アフリカなど、世界各地で非合法活動を展開してきましたが、ほとんどの国々がこれら工作員や協力者に関する情報を隠蔽してきたため、非合法なヒトやカネの動きを把握するのも困難です。
他方、制裁違反に積極的に加担する国々も絶えません。例えば、最新の安保理決議で制裁対象とされた人物の中には、北朝鮮のエジプト駐在大使が含まれます。この人物がエジプト国内で北朝鮮の軍事企業の活動を支援してきたからです。しかし、そもそもエジプトは今、安保理のメンバー国なのです。エジプトは、3年前にも、北朝鮮から弾道ミサイルの部品を調達するなど、積極的に制裁違反を犯していました。安保理のメンバー国ですら、堂々と国連制裁違反を行ってきたのです。

北朝鮮の兵器やミサイル等の主な輸出先は、アフリカや中東地域です。特にシリア向けの不正輸出の件数が一番多く、これまで弾道ミサイルや通常兵器、化学兵器関連の貨物が何度も摘発されました。加えて、昨年はイラン向けの非合法貨物が摘発され、 つい最近も、中東で北朝鮮関連の非合法貨物が摘発されたとの情報があります。アフリカでも、北朝鮮による非合法活動は続いており、例えば、ナミビアでは、北朝鮮が国軍基地の建設等の非合法活動に従事しているとの現地の情報 があります。

国連制裁が効果をもたらすには、あらゆる加盟国が真剣に安保理決議を履行しないといけないのですが、世界各地で問題が山積しています。

日本は欧米、韓国などと連携し、これらの国々に対して、安保理決議の全面履行に向けた政治的働きかけをハイレベルで行う必要があります。
また、東南アジアやアフリカに対しては、税関、輸出管理、貨物検査の訓練等の支援を提供する必要があります。
加えて、日本自身も安保理決議を全面履行できるよう、早急に法整備しなければなりません。新決議では、制裁違反に関連すれば、いかなる貨物や資産をも、押収または凍結するよう義務付けられています。貨物船なども資産凍結しなければなりません。しかし、日本の現行法では、まだこれらの措置は想定されていません。早急に必要な法改正をして、押収できる貨物の対象を拡充し、また、貨物船なども含めて、あらゆる形態の「資産」を凍結できるようにする必要があります。

これまで日本は、北朝鮮によって非合法活動に頻繁に利用されてきました。例えば、2年前、日本人が、国連制裁対象である北朝鮮最大手の船舶企業を支援して制裁違反を犯した事件が発覚しています。また、1990年代に日本企業が北朝鮮の軍事企業と北朝鮮国内に設立したジョイント・ベンチャー企業が、今回の決議で制裁対象になりました。さらに、様々な日本製品が、北朝鮮の海軍艦船や無人偵察機などに兵器転用されてきました。日本は北朝鮮制裁の実効性を担保するうえで、特別な責任を負っているのです。

ただし、制裁をいくら強化しようとも、これらはあくまでも外交のツールにすぎません。制裁強化と同時に、外交的アプローチもとても重要です。しかし、現状では北朝鮮に対する外交面でのアプローチはほぼ皆無です。主な関係国であるアメリカは、トランプ新政権への移行期で、政策の先行きが不透明です。また、韓国では大統領弾劾に向けた政治的混乱が続いています。アメリカや韓国で政治的混乱が続く中、外交面でも日本政府が果たすべき役割はより一層重要になっています。
今後、北朝鮮が安保理決議に反発して、さらに核実験やミサイル発射を続ける可能性があります。制裁だけでは、北朝鮮は挑発行為をますますエスカレートさせてゆくでしょう。 制裁と外交的アプローチを同時並行的に強化しつつ、国際社会をリードする。今、私たちには、とても大切な役割が求められています。

キーワード

関連記事