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「西之島 新島誕生3年 ② 大陸は島から生まれた!?」(視点・論点)

海洋研究開発機構 上席研究員 田村 芳彦

西之島は、東京から1000キロ南に位置する絶海の孤島です。想像してみて下さい。どこを見渡しても海と空しかない、そんな海を50時間かけて、船で南へ向かうと、遠くに雲をたなびかせている小さな島が見えてきました。それが西之島です。

絶海の孤島・西之島は、地球の謎を解く鍵でもあるのです。始生代という、今から約40億年前の太古の地球は、海で覆われたウォーターワールドだった、というのが多くの科学者の見解です。そのウォーターワールドの地球から、どのようにして、我々の住む大地ができてきたのでしょうか。絶海の孤島・西之島に謎の解明の重要なヒントが隠されていました。

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2013年11月20日に、海上保安庁の航空機が、西之島の南東約500メートルの海上で噴火活動を確認しました。海で起こっている、マグマ水蒸気爆発です。またそこには新しい陸地も観察されました。

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この新しい陸地は、噴出するマグマの溶岩流でどんどん拡大していきました。2013年12月には西之島と合体しました。

岩石が溶けたどろどろのものをマグマといいますが、その温度は1000度Cを超えています。1000度Cは硬い岩石が、どろどろに溶ける温度ですから、しゃく熱の熱さといえるでしょう。このマグマは周囲の海水を一瞬に水蒸気に変えて爆発します。これがマグマ水蒸気爆発です。

最初は、マグマ水蒸気爆発をしていた火口ですが、溶岩流によって陸地が広がるにつれて、海水との接触が断たれて、こんどはストロンボリ式噴火と呼ばれる形式に変わってきました。この噴火は、間欠的に爆発を繰り返す噴火のタイプです。

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私たちが2015年6月から7月に訪れたとき、このときは噴火が始まってから既に1年8か月が過ぎていましたが、ほぼ毎分毎に、律儀なくらい規則的に、爆発を繰り返していました。噴火は、その年2015年11月に終了し、3年後の現在は噴火も噴気も収束したようです。

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西之島は東西1.9キロ、南北1.9キロ、面積は2.7平方キロとなりました。この面積は噴火前の12倍、またよく比較されるのですが、東京ドームの57倍となっています。西之島は、いまは鳥が住んでいるだけですが、そのうち人が住んで、西之島ドームができて、野球とかコンサートが開かれると楽しいですね。

ところで、西之島の海の中は、一体どうなっているのか、と思われる方もいるかもしれません。西之島は、ひょっこりひょうたん島のように、海に浮いているわけではありません。海底に続いているのです。

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海面下には、巨大な海底火山の本体があります。西之島周辺の海底は水深3000メートルありますから、底径50キロ、水深3000メートルの海底から成長した巨大な海底火山の山頂部、それが直径1.9キロの西之島なのです。富士山は底径約40キロで標高がですから、富士山と比べても、遜色のない火山だということがおわかりになるかと思います。

西之島の不思議は、そのマグマにあります。まず、地球の表面を覆っている岩石のお話しをします。地球には我々の住んでいる陸と海があります。みなさんの中には、低いところに海水がたまって海になっている、と思っておられる方もいるかと思いますが、残念ですがそれは間違いです。陸地の平均の高さは約840メートル、海洋の平均の深さは約3800メートル、地球の起伏は高い所と低い所という二分性をもっています。高いところは大陸、低いところは海洋底です。さらに、大陸をつくっている岩石と海洋底をつくっている岩石がまったく違います。

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つまり、地球の表層をつくる岩石層は地殻と呼ばれますが、地殻は大陸地殻と海洋地殻に分けることができて、大陸地殻は安山岩、海洋地殻は玄武岩でできています。さらに、太陽系で大陸地殻、つまり安山岩があるのは地球だけなのです。安山岩と玄武岩、みなさんも中学校や高校で聞かれたことがあるかと思います。大きな違いは含まれているシリカ量の違いです。シリカとはケイ素と酸素からできている二酸化ケイ素のことで、ガラスの主原料です。安山岩のシリカ量は60パーセントですが、玄武岩のシリカ量は50パーセントと、10パーセントも異なっています。

西之島に関しては以前から、つまり40年前の噴火のときから今回の噴火まで、不思議なことがありました。それは噴出する溶岩の成分です。

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たとえば、富士山の溶岩は玄武岩です。また、南に続く、伊豆諸島の伊豆大島、三宅島、八丈島、青ヶ島のような火山島は玄武岩溶岩でできています。つまり、これらは、海洋底の岩石にそっくりなのです。それなのに、さらに南の、絶海の孤島である西之島の溶岩は安山岩でできていて、今回の噴火の溶岩もすべて安山岩だったのです。

大陸は安山岩でできていますから、絶海の孤島・西之島から大陸が生まれているのではないか、というわけです。実は安山岩は珍しい岩石ではなく、たとえば青森県の岩木山、福島県の磐梯山、石川~富山~岐阜県にまたがる白山、鳥取県の大山などは安山岩の火山です。

そこでこれまで、次のような常識がありました。

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つまり、地殻の厚い大陸には安山岩マグマが噴出する。一方、地殻の薄い海洋底には、玄武岩マグマが噴出する。この常識にはひとつ大きな落とし穴がありました。お気づきでしょうか。この考えだと、大陸がないと安山岩マグマができないこと、になります。つまり、大陸がないと大陸をつくれない、ということになるのです。これは因果のジレンマでして、太古の地球、つまりウォーターワールドであった、海洋底で覆われた地球に、どうして大陸ができていったのか、は深い謎として残っていたわけです。

地殻の下にはマントルという岩石があり、マントルが溶けることによってマグマができます。またそのマグマの成分は、マントルが溶けるときの圧力によって大きく変化するのです。私たちは絶海の孤島で安山岩を噴出する西之島の研究から、新しい考えを導き出すことができました。それは、これまでの常識とは全く逆です。

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海洋のように地殻が薄いときにこそ、マントルで安山岩マグマができて、大陸が成長する。大陸のように地殻が厚くなると、逆に、マントルでは玄武岩マグマしかできなくなる、というものです。さらに、先ほども出てきました、地殻が厚い場所で噴出している安山岩マグマは、玄武岩マグマによって融かされた古い地殻である、というものです。

この考えによって、多くのことが整合的に理解できるようになりました。さきほどの因果のジレンマも解消です。地殻が薄いほど、大陸をつくる安山岩マグマをつくりやすい、つまり、ウォーターワールドだった太古の地球では、西之島のような海底火山が沢山できて、安山岩マグマを噴出していた、というわけです。西之島は、太古の地球、大陸のでき方を再現している、ということができるわけです。大陸は島から生まれた、大陸は海から生まれた、というのが私たちの新しい考えで、プレートテクトニクスによってこれらの島は合体していき、現在の大きな大陸へと成長をしていった、と考えています。

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