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「西之島 新島誕生3年 ① 新たな陸地と生物の将来」(視点・論点)

森林総合研究所 主任研究員 川上 和人

本日は海底火山の噴火により環境が大きく変化した西之島の生物相についてお話しします。
西之島は、東京都の小笠原諸島に属する島です。小笠原諸島は、本州から約1000キロ南にあります。諸島の中でも西之島は、一番近い父島まで130キロもある非常に孤立した島です。

この島はもともと面積0.29平方キロ、標高25メートルしかない小さな島でした。面積は狭いものの8種の海鳥が繁殖し、小笠原で最も多くの海鳥が生息する島となっていました。

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西之島は活火山で、2013年11月から火山の噴火が始まりました。その後、噴火は続き、2014年の末までに旧西之島の陸地のほとんどが溶岩に埋まりました。その結果、面積は2.7平方キロ、標高約140メートルの大きな島になりました。

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噴火開始から2年以上たち、ようやく噴火が収まったため、2016年10月20日に上陸調査が行われ,私も現地に行ってきました.この調査には、西之島の生物相を考える上で、二つの意義がありました。
一つ目は、噴火が西之島の生物にどのような影響を与えたか、という過去を知ることです。二つ目は、新たにできた陸地にどのような生物相が成立するか、という未来を知ることです。
では、まず噴火の影響 について考えていきたいと思います。
西之島には、噴火後にも旧島由来の陸地が約0.5ヘクタール残存していました。溶岩の上は、生物が簡単には定着できないため、生物が住める旧島部分は、貴重な場所です。噴火中、旧島上には火山灰が降り積もり、一時期はほとんど植物が見られなくなりました。しかし、実際に調査に行ってみると、オヒシバやスベリヒユなど数種類の植物が生えていました。

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また、ここでは、数十つがいのアオツラカツオドリが営巣していました。
この鳥は、噴火前にも繁殖していた海鳥です。海鳥は海で魚を食べ、陸では子育てをするだけなので、陸上に食物などがなくても巣を置く場所さえあれば、繁殖することができます。

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噴火前に最もたくさんいたのは、カツオドリという別の鳥です。この鳥はすでに繁殖期が終わっているため、営巣中の個体は見られませんでした。しかし、今年巣立った若鳥や今年使われた古巣が見つかりました。

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アオツラカツオドリの営巣が10月に見つかったことから、この鳥は冬に繁殖し、春には巣立つと考えられます。一方、カツオドリは5月から9月頃に繁殖する海鳥です。狭い旧島の上で大型の海鳥2種が共存できたのは、異なる時期に繁殖することで季節的な棲み分けができたからかもしれません。
噴火という大きなかく乱にもかかわらず、海鳥は西之島を使い続けています。このことから、この島は海鳥にとって高い価値を持つのだと言えます。過去に繁殖に成功した場所は、また繁殖がうまくいく可能性が高いため、他の場所に比べて価値が高くなります。その価値が噴火のリスクよりも大きかったのでしょう。
これらの海鳥は、繁殖期は陸地に来ますが、非繁殖期は主に海上で過ごします。このため、噴火が激しい時期には地上から海に逃れることも可能です。また海鳥は一般に寿命が長いため、噴火により繁殖ができない年があっても影響は小さくてすみます。これらの点が、海鳥がこの島を利用し続けられた理由と考えられます。
また、旧島ではクモやハサミムシ、カメムシなどの節足動物も生き残っていました。

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植物や鳥、節足動物が見つかったということは単にそれぞれの種が生き残ってよかった、という以上の意味があります。それは、これらの生物が持つ機能が維持されているということを意味しているのです。たとえば、植物は動物のすみかや食物になります。ハサミムシは分解者になりますし、クモは捕食者になります。多くの昆虫がいれば、昆虫を食べる鳥もこの島で生活できるかもしれません。いずれかが欠けていれば、今後の生物相の変化の方向性は大きく変わるでしょう。
噴火という大きなかく乱が島の生物に与える影響はまだ十分にわかっていません。西之島でそれぞれの種の反応を調べることで、火山の噴火が持つ意味を明らかにできます。
次に、今後この島の生物相がどう変化するかという、未来について考えてみましょう。
島の生物相がどのように成立するかということは、島の生物学の大きなテーマの一つです。通常は既にできあがっている島の生物相から推定するしかありません。しかし、西之島では新たな陸地ができたため、生物相が成立するプロセスを直接確かめることができます。この島は自然の実験場と言えるのです。
この島では、今後二つのイベントが起こります。
一つは、旧島に生き残った生物の新たな陸地への分布拡大です。もう一つは、島の外部からの新たな生物の渡来です。
まず、旧島からの分布拡大について考えてみます。植物の拡散には海鳥が重要な役割を果たす可能性があります。海鳥は陸上で食物をとるわけではないので、生物のいない新たな陸地にも進出して巣を作ることができます。海鳥が巣を作るために枯れ草などの有機物を集めれば、植物が生育する土壌ができます。

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また、旧島から種子がついたままの植物を運ぶかもしれません。海で魚を食べ、陸で糞をすれば、窒素やリンなど植物の栄養になる物質が陸上に供給されます。巣の中は温度や湿度が安定し、有機物も供給されるので、昆虫などのすみかにもなります。こうして、海鳥の巣を中心とした生態系ができあがると予想されます。さらに植物が生えれば、そこは小動物のすみかになります。昆虫による有機物の分解は土壌の生成を促進します。生物が拡散する過程で、それぞれの生物が果たす役割が明らかになるでしょう。
一方で、島には海を越えて生物たちが渡来します。一般に生物は海流や風、鳥によって移動すると言われています。ここで、特に注目したいのが鳥による植物の移動です。ガラパゴス、ハワイ、小笠原など孤立した島では植物の7割〜8割が鳥に散布されるタイプの種です。これらの植物の半分は鳥に食べられて種子が運ばれる「周食型散布」の植物です。残り半分は羽毛などに付着して運ばれる「付着型散布」の植物です。
10月の調査では海鳥以外に種子食のアトリや昆虫食のハクセキレイなどが確認されました。

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このことは、種子や昆虫など渡り鳥の食物があることを示しています。少数でも渡り鳥が飛来し、中継地となることで、周食型の種子散布が行われる確率が高くなるでしょう。また、海鳥はしばしば羽毛に種子を付着させて植物を運びます。島に最初に定着するのは海鳥が運ぶ植物かもしれません。

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西之島のように海に孤立した島で、生物相が成立する過程が実際に観察されるのは非常に珍しいことです。ただし、孤立しているため、生物相の変化には非常に長い時間がかかります。今後、数十年、数百年、あるいは千年以上の長い時間をかけて変化していくでしょう。今回の調査で変化の始まるスタートの状況が記録できました。これから長期的に調査をすることで、島の生物相の成立プロセスが明らかになることが期待されます。

*本調査は、平成28年度「新青丸」(海洋研究開発機構)共同利用KS-16-16により実施されました。

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